村上春樹は世界文学か 川村湊氏に聞く

人気作家、村上春樹氏の新作「騎士団長殺し」(全2巻)が24日、発売された。長編小説としては4年ぶりとなる今回の作品は、初版の発行部数が、自己最多の「1Q84 BOOK3」に並ぶ1冊50万部に並び、上下巻合わせて100万部。すでに重版も決まっている。翻訳本も現代作家では最も多く、海外でも広く読まれている。各国の文化を超えて世界中で読まれる作品の魅力はどこにあるのか。「村上春樹はノーベル賞をとれるのか?」などの著書で知られる文芸評論家の川村湊氏に聞いた。

ここ最近の村上氏の長編小説「1Q84」(全3巻)や「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」はいずれもミリオンセラーとなっている。大手書店も「村上作品は売れ方が別格。一般的に新作は100冊程度売れると、『売れた』と実感するが、村上氏の場合は数千冊の単位で仕入れても売り切れてしまう」(丸善丸の内本店)と話す。「騎士団長殺し」は実際には4年ぶりの長編小説なのだが、上・下巻以上の本格長編としては「1Q84」以来の「7年ぶり」と銘打つほど、販売にも力が入る。低迷が続く書籍販売の流れに逆行する現象だ。

インタビューにこたえる文芸評論家の川村湊氏(左)。聞き手は映像報道部・槍田真希子(2月21日、東京都千代田区の法政大学)=撮影 古谷真洋

突出した売れ行き、なぜ?

「村上作品に多くの人が共感を覚えるのは、現代人が日ごろ感じる喜びや悲しみ、苦しみなど身近な感覚がうまく表現されているからだ。読者は、まるで自分のことを描いているようだと感じ、深く共感するようだ」と川村氏は話す。もう一つ、村上作品の特徴といえるのが「解決しない物語」が多いこと。探し人も、謎の答えも見つからないまま終わるものが少なくない。川村氏は「それこそが現代的で、実生活の感覚に近いといえる。かつてはハッピーエンドでもそうでなくても、なんらかの決着があるのが小説だったが、解決したようでも、謎が深まる。あるいは、解決に向けて努力するけれど、結局解決はしないのだという、あきらめのような感情がうまく表現されている」と解説する。

村上作品がさらに海外の読者にも響くのはなぜか。欧米はもちろん、韓国や中国、ロシアでも生活水準が向上し、暮らし向きや食事、ファッションなどが均一化している。そうなると「人々の悲しみや苦しみも似たものになっていく。村上的なものが受け入れられる下地ができてきたのではないか。意地悪な見方をすれば『グローバリズム』が村上作品の広く読まれる一因だと思う」と語る。

村上春樹氏はノーベル文学賞をとれるのか

毎年ノーベル文学賞の発表時期が近づくと、書店に村上春樹コーナーが登場するのは恒例となった。選考過程は50年後の情報公開まで一切伏せられ、実際には候補になっているのかどうかさえ分からない。村上氏の受賞はあり得るのか。「かなり近いところにいるとは思う。5年以内に受賞があってもおかしくない。ただ、過去のノーベル文学賞の受賞者を分析すると言語や国籍、民族などに一定の規則があり、日本の『順番』を考えると少なくとも今年や来年はないだろう」と川村氏は予想する。

ほぼ全作品が各国語に翻訳されている村上春樹氏の作品。英語版の「ねじまき鳥クロニクル」(左)や「羊をめぐる冒険」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のほか英語版オーディオブック(右)も並ぶ(東京都千代田区の丸善丸の内本店)

過去の日本人の受賞者を振り返ると、川端康成が1968年、大江健三郎が94年にそれぞれ受賞している。川村氏は「単純計算では25年周期で『日本の番』が回ってくる可能性が高いということ。ただ、アジアでは韓国やインドネシアなどからも受賞者が出てもおかしくない状況なので、東アジア全体から1人となると、村上氏は少し不利になるかもしれない」と懸念する。

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