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post 2020~次世代の挑戦者たち

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司
2017/3/1

post 2020~次世代の挑戦者たち

堀内 エイジングイベントに合わせた商品開発を行い、品ぞろえを展開する提案をしました。ただ商品開発するのではなく、エイジングイベントをポジティブに、おしゃれにとらえる点を強調したのです。例えば、最近では老眼鏡は「シニアグラス」や「リーディンググラス」と名付けたり、かつらは「ウィッグ」と呼んだりして、エイジングイベントに合わせた商品をポジティブなイメージで販売する事例が増えています。イオンの場合も「エイジングイベントに合わせた品ぞろえを展開することで売り上げが増えた」と言ってもらえました。

藤田 エイジングイベントに合わせた商品開発には、高齢者の感覚を把握する必要がありそうです。例えば、シニア向け商品の開発者は老化に伴う視覚の衰えをどう理解しておけばよいのでしょうか。

堀内 白内障を患うシニアは極めて多く、罹患(りかん)率は60代後半の場合が7割近く、70代前半は8割以上といわれています。75歳以上は9割を超えます。白内障は視界全体に白いもやがかかったり、物が二重三重に見えたりもすることから、シニア向けのサービスや商品を考える場合、どんなふうに世界が見えているのかを勘案する必要があります。例えば、シニアに商品や書類を見てもらう際には、十分な明るさを確保しつつ、まぶし過ぎないようにも配慮すべきです。さらに文字も大きく、太くして、文字の間隔を適度に空け、下地の色と文字のコントラストをはっきりさせる必要があります。また、普通の人が紫に見えているものが茶色に見えたり、クリーム色に見えているものが黄色に見えたりします。

藤田 聴覚に関してはどうでしょうか。

高齢者に配慮した街づくりはバリアフリー社会の実現につながる(駅構内の視覚障害者を示すピクトグラム)

堀内 シニアの聴覚の特徴として、小さい音が聞こえにくい、高い音が聞こえにくい、音の聞こえ方の個人差が大きくなるといった点が挙げられます。シニアの方と話をするときは、なるべく静かなところで、ゆっくり、はっきりと、できるだけ低めの声で話すと相手は聞き取りやすくなります。さらに目を見て話す、長い文を一度に話さずに短い文に分けて話すことも大切です。サービス業の企業などへのコンサルティングでは、接客担当のスタッフにシニアの聴覚の特徴について説明し、話し方の指導をします。接客の改善によってシニア顧客の反応が良くなった事例はたくさんあります。

藤田 「老い」とは何かを学び、高齢者について知ることはマーケティングの分野だけでなく、都市インフラの整備でも大切になりますね。現在、2020年東京五輪・パラリンピックを視野に入れて東京では多くの都市開発プロジェクトが進んでいますが、シニアにも優しい街づくりの発想が不可欠です。

堀内 都市整備の専門家にシニアの足腰の負担を体感してもらう方法もあります。体に重しを装着しながら段差がある通路などを歩いてもらうと、ちょっとした段差でもシニアにはつらいことを理解してもらえます。シニアの手の触覚を再現できる特殊な手袋をつけた状態で手すりを握ることで、手すりに求められる太さや材質について考えてもらうこともできます。白内障を体感できる眼鏡もありますから、それを使ってシニアにも見えやすい標識や案内板について考えてもらうのもよいでしょう。とにかく、シニアという「人」を見ていただきたいのです。

シニア向け商品の開発やサービスの改善策などについて聞く藤田氏

藤田 シニアに寄り添った商品開発と同じように、シニアや障害を抱えた人の立場からの都市開発ができるはずですね。

堀内 そうした視点で都市インフラを研究した成果は今後、日本よりも遅れて高齢社会を迎える他国にとって喉から手が出るほど貴重になると思います。世界で最も早く高齢化が進んでいることを利点に変え、世界をリードするポジションを築く。これは今後、日本が持ち得る新たな価値になると考えています。

藤田 「post2020」時代の貴重なレガシー(遺産)にもなりますね。次回は老年学の研究成果を企業のマーケティング戦略として実践する挑戦をしてきた経緯について聞きます。

ほりうち・ゆうこ 1967年生まれ。高齢者住環境研究所(東京・渋谷)で要介護者向け住宅改修の設計・施工・管理を手掛けた後、コンサルティング会社に転職。桜美林大学大学院老年学研究科修了、独立して老年学に基づくシニア市場の分析を専門領域とするシニアマーケットコンサルタントとして活躍する。桜美林大学老年学総合研究所連携研究員、東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員。
ふじた・こうじ 1978年生まれ。公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学を体系化し、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

前回掲載「『元気な今のうちに』消費 『逆算』がシニアを動かす」では、シニアの「未来から逆算する」消費行動について聞きました。

「post2020~次世代の挑戦者たち」は原則水曜日に掲載します。