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塚越慎子さん マリンバが開く音色の未来

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パリ国際マリンバコンクールで第1位優勝した世界屈指のマリンバ奏者、塚越慎子さんが、若手作曲家への委嘱作品の演奏に力を注いでいる。3月2日には伊福部昭やスティーブ・ライヒ氏ら大御所の現代音楽に加え、同世代のジャズ作曲家、挟間美帆さんらに委嘱した新作を世界初演する。19世紀後半に生まれ、20世紀を通じて現在の形になった若い楽器の音色を磨き、その音楽の可能性を広げる活動について聞いた。

打てば鳴る楽器の音色にこだわる

「打楽器って、打てば誰でも音を鳴らせる」。塚越さんはこう切り出した。鍵盤打楽器のマリンバもマレット(ばち)で木製の音板をたたけば音が鳴る。音板はピアノの白鍵・黒鍵と同じ配列だ。音板の下には金属製の共鳴パイプが並び、中低音域の柔らかい打鍵音が出る。「誰でもたたけるけれど、打った音色にどれだけ変化を付けられるかが腕の見せどころ。すごく大きな音から本当に小さな音まで出せる。音色づくりに最もこだわる」と話す。

マリンバは19世紀後半に中米のグアテマラで使われ始めた楽器といわれる。普及したのは20世紀になってから。何度も改良が加えられてきた。「音板の幅がメーカーごと、モデルごとに異なる。音板の間隔を楽器が変わるごとにその都度つかんで演奏しなければいけない」。塚越さんが所有する3台のマリンバもすべて音板の幅が違うという。今なお標準形が定まらない楽器ともいえる。演奏できる曲目も少ない。「マリンバはとても新しい楽器なので演目を増やさなければならない」。作曲家に頼んで作品を書いてもらう委嘱活動が演奏家にとって重要になる。

「挟間美帆さんの書く曲はいい意味で容赦がない」。ジャズ作曲家として注目を集める挟間さんについて塚越さんはこう語る。2人は国立音楽大学付属音楽高校からの仲間。ともに国立音大に進学した。気心の知れた仲だが、「これは無理だろうというぎりぎりの線を突いてくる」というほど演奏家には手加減がないようだ。それでも「マリンバ奏者が作曲するとどうしても弾きやすい音楽になるから、むしろマリンバ演奏の可能性を狭めてしまう。逆に挟間さんの曲は演奏の可能性を広げてくれる」と感謝する。

3月2日、紀尾井ホール(東京・千代田)で開く「塚越慎子マリンバ・リサイタル」では、塚越さんが挟間さんに委嘱した「マリンバのための小狂詩曲」を世界初演する。「皆さんがどこかで耳にした旋律をモチーフにしてほしいと頼んだ」と語る。箏曲家の宮城道雄が作曲した有名な「春の海」の旋律が生かされているようだ。「挟間さんの音楽には根底にジャズがあり、和音の使い方にもジャズの理論が生きている。ボーダーレスだが、彼女独自の音楽が確立している。それにどの曲にも必ずメロディーラインがある」と言う。

同年代の若い作曲家に作品を委嘱

同日には塚越さんが薮田翔一氏に委嘱した新作も世界初演する。薮田氏は2015年ジュネーブ国際音楽コンクール作曲部門で日本人として初めて優勝した現代音楽の若手作曲家だ。「誰に頼むかはその時々で変わるが、今回は同年代の作曲家に頼もうと思った」。リサイタルの演目にはこのほかにミニマルミュージックの代表的作曲家ライヒ氏の「ナゴヤ・マリンバ」や細川俊夫氏の「さくら」など現代音楽がずらりと並ぶ。

マリンバの音色で一般に最も知られているのは、NHKの長寿番組「きょうの料理」のオープニングテーマ曲かもしれない。2016年に亡くなった冨田勲氏が作曲し、日本のマリンバ演奏の先駆者、安倍圭子さんが弾いている。マリンバの中低音域の柔らかい音色は彼女の演奏を通じて知れ渡った。その安倍さんが日本を代表する作曲家の一人、伊福部昭(1914~2006年)に委嘱したのが「マリンバとオーケストラのための《ラウダ・コンチェルタータ》」だ。塚越さんは16年10月にオクタヴィア・レコードから出した最新CDにこの大作を収めた。岩村力氏の指揮による読売日本交響楽団との共演のライブ録音だ。

「本当に壮大な曲。マリンバ奏者の大事なレパートリー」と塚越さんは「ラウダ・コンチェルタータ」について語る。「ゴジラ」の映画音楽で知られ、民族主義の作風を持つ伊福部ならではの雄大な曲想だ。日本の原風景をイメージさせる土俗的な旋律が管弦楽で奏でられ、マリンバの独奏が原始的なエネルギーを発散する。日本が世界に発信したマリンバ協奏曲といえる。中低音域を生かした弦楽器によるシベリウス風の勇壮な旋律とマリンバの低く柔らかい音色が溶け込み、美しいサウンドを作り上げる。細やかなトレモロ(同一音の高速反復)からリズミカルな旋律まで、塚越さんの演奏は繊細な音色づくりが隅々にまで行き渡っている。

この最新CDにはもう1曲、フランスのマリンバ奏者で作曲家でもあるエマニュエル・セジョルネ氏の「マリンバと弦楽のための協奏曲」も収めている。現代音楽ながら美しいメロディーも盛り込んだロマンチックな曲想、ジャズやフラメンコ風の雰囲気、8分の11拍子という変拍子の導入など、新しい楽器にふさわしいアイデアを随所に取り込んでいる。塚越さんの現代的な鋭さとキャッチーなノリの演奏を聴ける。

こうした現代の「マリンバ協奏曲」を聴くと、マリンバがオーケストラの響きに溶け込みやすい音色を生み出せる楽器であることが分かる。ここで塚越さんとの対談は、マリンバによく似た鍵盤打楽器の木琴(シロフォン)との比較に及んだ。キーワードは「倍音」。例えばドならドの音1つを出したとしても、実際にはドの整数倍の周波数を持つ音が複数鳴っている。その音の成分を倍音と呼ぶ。木琴は基音と3倍音による奇数倍音。これに対しマリンバは基音と4倍音、10倍音という偶数倍音。オーケストラを構成する弦楽器や管楽器も同じ偶数倍音なので「マリンバはオーケストラの響きに溶け込む」と塚越さんは説明する。

木琴とは異なるマリンバの豊かな音色

木琴は小学校の音楽の授業で使われてきたが、オーケストラ曲に登場する機会は少ない。しかし旧ソ連の作曲家ショスタコーヴィチは自らの管弦楽曲に木琴を好んで使った。「交響曲第5番」や「第7番《レニングラード》」などで、多勢の弦楽器や金管楽器の強奏が作り上げる威圧的なクライマックスの中から、庶民代表みたいな木琴の子供じみた甲高い響きがカーンと立ち上がってくる。「奇数倍音の木琴はオーケストラの中で際立った響きになる」と塚越さんは語る。オーケストラのレギュラー楽器とは異質な、木琴のとがったシャープな音色は、ショスタコーヴィチの交響曲のスタイリッシュな格好良さを浮き彫りにし、感動を呼ぶ。

同じ鍵盤打楽器でも木琴とマリンバでは音色に大きな違いがある。伊福部の「ラウダ・コンチェルタータ」も当初は木琴協奏曲として作曲され、それが後により充実した共鳴音やオーケストラとの親和性を持つマリンバのための協奏曲に編成し直されたという経緯がある。その意味でもマリンバの音色に着目した協奏曲の先駆といえる。木琴がショスタコーヴィチやプロコフィエフ、ストラヴィンスキーら20世紀の作曲家の楽曲で活躍した以上に、豊かな響きを持つマリンバの可能性を塚越さんは追求している。

13年に出たCD「パッション」(オクタヴィア・レコード)ではマリンバの別の魅力を引き出している。タンゴの大御所、アルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラ(1921~92年)の作品を中心に構成された同アルバムでは、マリンバのきめ細かな弱音の素晴らしさが全面に出ている。ピアソラの代表作の一つ「オブリビオン(忘却)」では、マリンバの温かい音色が美しいメロディーを奏でていく。「マリンバがピアノと大きく違うのは、ペダル操作でサステイン(持続音)を出せないこと」と塚越さんは言う。持続音はトレモロで弾くことになる。「オブリビオン」でもバンドネオンやピアノで弾くのとは異なり、音の減衰が速いため、美しい旋律音がすぐに消えゆき、遠い追憶のようなロマンチシズムを醸し出している。

「パッション」には挟間氏の作品も収録されている。「アメリカ組曲ヘ短調」というもの。J.S.バッハが様々なダンス音楽を取り入れて作曲した鍵盤楽曲「イギリス組曲」「フランス組曲」に触発され、それをルンバやジルバ、ブルース、ジャズワルツなど現代のダンス音楽に置き換えた作品だ。ここでも塚越さんの弾くマリンバの軽やかで減衰の速い音色がリズミカルな効果を生んでいる。太田剣氏が吹くソプラノ・サクソフォンの伸びやかな音色と相まって、独特の都会風サウンドを実現している。

独奏楽器としての可能性が広がるマリンバだが、「様々な楽器の演奏家との共演も増やしていきたい」と話す。16年にはチェリストの新倉瞳さんと「ルノワール展」会場の国立新美術館(東京・六本木)で共演した。ピアノからサックス、津軽三味線、さらには言葉、お囃子(はやし)まで、マリンバと組み合わせた新しい音色が育っていく。「この楽器と一緒に育ちたい」。常に前向きなマリンバ奏者が音色の未来を開く。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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