日経マネー

2017/4/3

投資の基準はあくまでも基準株価と実際の株価との乖離率。高成長銘柄であれ、成熟銘柄であれ、乖離率が同じならば等しい価値があると考える。高成長銘柄に重点を置くことはない。

ウソがあれば投資しない

売却する際にも決め手は基準株価。実際の株価が基準株価に近づいたり上回ったりしたら、下方乖離率の高い銘柄と入れ替える。

成長が減速するなど、会社の状況が変わり、保有銘柄の適正PERを見直さざるを得ないこともある。投資の判断材料としている基準株価も変わるが、その場合も、あくまでも実際の株価との相対で保有継続か売却かを判断する。基準株価の下落以上に実際の株価が下がれば保有し続け、場合によって買い増す。逆に基準株価の下落ほど実際の株価が下がらなければ、損切りの対象になる。

企業取材の相手は社長が3割、CFO(最高財務責任者)など役員が4割、IR(投資家向け広報)責任者など部長クラスが3割。新規公開時の主幹事証券会社などのアレンジで、スケジュールが固まった企業に片っ端から会う。

「取材では『一体その企業が何者なのか』を理解しようと努める」。今の姿やこれから何をやるかばかりに目を向けるのではなく、「なぜ今こうなっているのか」というこれまでの過程に焦点を当てる。今に至るまでの連続的な経過を理解しなければ、将来の姿を読み取ることはできないからだ。

基準株価との下方乖離率がどんなに高くても、企業取材の際、明らかにウソをついていたり、負のオーラが出ていたりする場合は投資対象から外す。話している間の口調、声色、態度などに違和感や不自然さを覚え、適正PERを低めに調整することもある。逆に信用できない面があると感じつつも、「見過ごすのは残念」と考えて適正PERを高めに設定する銘柄もある。このあたりは「これまで1万数千回の取材をこなしてきた」苦瓜さんの嗅覚が生きる。

バリュー株投資は我慢が大事

こうしたプロセスを経て組み入れた銘柄に業種の偏りなどはなく、結果的に業種を網羅している。ニッポン中小型株ファンドに組み入れるG-FACTORY(東マ・3474)は、16年9月に東証マザーズに上場したばかりの銘柄。低価格うなぎ店「名代 宇奈とと」の運営の他、飲食店の出退店支援事業を手掛ける。流行などに左右される飲食業界は出退店が多い。退店を希望する飲食店の賃貸契約を引き継ぎ、機材や設備も含めた“居抜き”で出店希望者に転貸する同社のサービスは今後もニーズが高いとみる。

前職の証券アナリスト時代、本来値打ちはあるはずなのに市場の動向や投資家の思惑で全く見向きもされない銘柄があることを憂慮し、自ら買う側に回ってそれらの銘柄に光を当てたいと考えたのが現在の会社に転じた理由。運用するファンドで、見事にそれらの企業価値を証明してみせた。

基準株価と実際の株価が乖離したままで割安株がそのまま放置される「バリュートラップ(割安のわな)」に陥る不安が生じることはないのか。こう問うと、苦瓜さんは「バリュー株投資は世間と距離を置いて我慢することが大事。結果が出ない間は『自分の投資方法が間違っている』と考えるか、『世間が間違っている』と考えるかどちらかしかない。私自身は引退まで『自分が間違っている』とは考えない。いずれ必ず乖離は埋まると信じている」と答えた。強い信念で自らの投資哲学を貫いている。

(ライター 小林佳代)

[日経マネー2017年4月号の記事を再構成]

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