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競争か協調か、火星を目指す世界の動き

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/3/19

ナショナルジオグラフィック日本版

2014年12月、NASAは新型の有人宇宙船オリオンの無人機で試験飛行に成功した。写真はデルタIVヘビーブースターで同機を打ち上げる準備をしているところ。(Lockheed Martin)

 火星に人類を送り込もうという気運は、世界的に高まりつつある。1960年代初頭に米国と旧ソ連の間で繰り広げられた宇宙開発競争は、もはや過去の話だ。国の威信をかけて争っていた20世紀とは違い、現在は各国が連携して火星到達に必要な技術開発を進めようとしている。従来から米国は協力を積極的に進めてきたが、さらに範囲を広げて世界が連携し、火星に無人探査機を送り、最終的には人類の火星到達を目指そうと、各国で協議が進められている。

 例えば、欧州、ロシア、中国、インドが協力関係を結び、そこに米国やその他の宇宙開発に挑む国々も加わる。そのように一致団結すれば、資金面でも技術面でも人類の火星到達は現実味を帯びてくる。民間企業も宇宙に熱い視線を注いでおり、火星都市の実現をかつてないほど強力に後押ししている。その力がうまくはたらけば、ますます実現の日は近づく。

 現時点で火星を視野に入れている各国をここで紹介しよう。

中国:中国の宇宙開発局(中国国家航天局)は、2020年にも火星探査機を打ち上げる計画を進めている。すでに火星探査車の小型プロトタイプが公表され、2030年頃をめどに岩と土壌のサンプルを集めて地球に持ち帰るミッションも合わせて発表された。

欧州:欧州宇宙機関(ESA)では、「エクソマーズ」計画が進行中だ。エクソマーズ計画は2016年3月のトレース・ガス・オービターの打ち上げをもって開始された。オービターは突入・降下・着陸実験モジュール「スキアパレッリ」を載せて2016年10月に火星軌道に到達。このスキアパレッリは着陸に失敗したが、エクソマーズ計画では2020年にも最先端の探査車の打ち上げを予定している。エクソマーズの両ミッションは、欧州とロシア双方の宇宙機関が協力して進めている。

2016年3月、欧州とロシアの共同ミッションとして火星探査機エクソマーズ2016がカザフスタンから打ち上げられた。(ESA-Stephane Corvaja, 2016)

インド:インドの火星周回探査機「マンガルヤーン」は、2014年9月に火星の周回軌道に到達した。インドが地球の外側で築いた初の拠点だ。マンガルヤーン探査機は火星の地形と大気を調査し、生命の有無を示す手がかりにもなるメタンの存在を探る。マンガルヤーンの成功を受けて、インド宇宙研究機関(ISRO)が抱く新たな惑星間飛行計画への期待に弾みがついた。NASA-ISRO火星協働グループは、インドと米国の協力関係の構築を進めている。

日本:宇宙航空研究開発機構(JAXA)は現在、火星の2つの衛星、フォボスとダイモスのいずれかを対象とした探査ミッションを検討している。2020年代初頭の着陸を目指し、サンプルを地球に持ち帰って分析する計画だ。

アラブ首長国連邦(UAE):イスラム世界が宇宙探査に乗り出す最初の一歩として、UAEは火星の現在の天気と過去の気候の関連を調査する火星周回探査機の構想を発表した。2021年の火星到達が予定されており、火星の大気が昼夜や季節を通してどのように変化するかという全体像を描くことに初めて挑戦する。

■国際協力は不可欠

 火星に行くためには、決意と資金を備えた複数の国の協力が必要だという点については、火星ミッションの支持者たち全員が同意する。国際協力の実例としては、国際宇宙ステーションが挙げられる。宇宙ステーションは人類の貴重な財産だ。長期間におよぶミッションが人間の健康状態に与える数々のリスクを軽減する方法の開発に役立つことはもちろん、人間が宇宙で高い生産性を維持しながら安全に任務を遂行できるような技術と宇宙航行システムのテストを行い、技術の成熟度を高める場にもなっている。

1995年6月にロシアの宇宙ステーション「ミール」とのドッキングを果たしたスペースシャトル・アトランティス号。NASAとロシア宇宙局は国際協力の新時代に突入した。(NASA)

 欧州宇宙機関(ESA)は現在、地球低軌道の先を目指すミッションに使用する宇宙人員輸送システムの開発という重要な仕事を進めている。ESAが導入する欧州サービスモジュールは、NASAが開発中のオリオン有人宇宙船と並んで宇宙探査のカギとなるはずだ。

 有人・無人宇宙ミッションを併用する新時代の宇宙探査には、幅広い国際協力が欠かせないと話すのは、ドイツの元宇宙飛行士で現在はESAの有人宇宙飛行・運用責任者を務めるトーマス・ライター氏だ。ライター氏は宇宙で通算350日間以上を過ごし、そのうちの179日間はロシアの宇宙ステーション「ミール」に滞在した。「ここまで築いてきた国際協力関係を足がかりとして、今こそ深宇宙を目指してさらなる旅を続けるための新たなパートナーを求めて扉を開くときです」と彼は言う。

■民間が取り組むミッション

 官民の連携も進められている。NASAはビゲロー・エアロスペースと契約を結び、同社の画期的な宇宙用住居「B330」を導入した有人宇宙飛行計画の実現を目指している。B330は約330立方メートルの与圧キャビンを備えた膨張式居住モジュールで、最大で6人が滞在できる。同社はB330モジュールで月、火星、さらにその先の宇宙への有人飛行を実現させたい考えだ。

 オランダに本拠を置く非営利団体「マーズワン」の計画も大いに話題となった。参加者が地球に帰って来ることはない“片道切符”と割り切ることで、帰還時の宇宙船や燃料の問題など必要な技術開発や資材を抑えようとしている。とうてい勝ち目のない“大ばくち”ととらえる向きもあるが、ソーシャルメディアを通じて希望者を募ったところ、世界中から20万人を超える応募があった。最終的には4人に絞られた国際宇宙飛行士チームが2026年に火星への移住を開始する計画だ。

2016年1月、スペースX社は空中静止試験の様子を収めた動画を公開した。この技術があれば、有人宇宙船の軟着陸が可能になる。(Trey Henderson)

 イーロン・マスク氏なら本当にやるかもしれない。スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ、通称スペースXの設立者で、ロケット開発責任者でもある同氏は、自身も会社も異色の経歴を持つ。同社のウェブサイトには明確に記されている。「当社は宇宙技術に革命をもたらすことを目的として2002年に設立されました。最終目標は、人類が他の惑星で暮らせるようにすることです」

 2016年9月、マスク氏はメキシコのグアダラハラで開かれた国際宇宙会議で、火星移住の壮大な構想を発表した。計画では、100人以上が乗れる巨大な宇宙船による「惑星間輸送システム」を構築し、船団となって繰り返し火星に向かう。火星行きの費用は、個人が家を1軒買う程度、すなわち約20万ドル(約2000万円)に抑えるのが目標。最初の宇宙船が飛び立ってから40~100年後には、100万人が火星の都市で暮らすことになるという。

[書籍『マーズ 火星移住計画』を再構成]

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