CM好感度ランキング(CM総合研究所調べ)で首位を独走中のau三太郎シリーズの生みの親である、電通の篠原誠氏。2016年10月から始まったUQモバイルの三姉妹シリーズも担当しており、こちらもCM好感度ランキング上位の常連だ。16年は、広告制作者の栄誉「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」、ACC賞のグランプリやギャラクシー賞CM部門大賞など数多くの広告賞も受賞した。勢いに乗る篠原氏にヒットCMの発想法を聞いた。
「通信大手とMVNO(格安キャリア)は、認知度が違うため、CMの作りも違います。auの三太郎シリーズは認知より一歩先の、マインドシェア(好感度)を高めたり、サービスについて知ってもらうためのフレームとして、立ち上げました。
UQモバイルは、まず名前を知ってもらうことが最優先でした。そこで、とにかく『UQ』というブランド名が強烈に記憶に残るような、インパクトのある作りにしようと考えたんです。表現で工夫したのは、違和感を出すこと。CMの競合は、実は他の通信会社ではなく、前後に流れるCMです。前後より目立って、目に留めてもらわなきゃいけない。そのために人が動かない、シュールな一枚絵の時間を作りました」
タレントのキャスティングでは、家電量販店などの通信コーナーも意識したという。
「通信コーナーって、あまり華やかじゃないんですよ。そこに化粧品みたいなポスターがあると目立つんじゃないかと考えて、化粧品の広告を作るつもりで深田恭子さんや多部未華子さん、永野芽郁さんをキャスティングしました」
通信会社の魅力は出稿量
16年、au三太郎からは桐谷健太が歌う『海の声』と、AIが歌った『みんながみんな英雄』がCMの枠を越えてヒットした。篠原氏は、両曲の作詞も手がけている。16年末の『NHK紅白歌合戦』では、この2曲が連続して歌われることとなり、図らずも“auタイム”となった。
「ラッキーとしか言いようがなかったですね(笑)。約40%の視聴率で10分間近くブランド広告ができたと考えると、媒体費は…。換算したくなりました(笑)。
実は、すでにあまたの先人がいろんな表現をしているので、もうCMに新しい表現や経験はないかもしれない、と思いかけていたんです。でも、まだまだこんな想像を超えることが起こるんだなと。広告って面白いと思いましたね」
通信会社のCMを手がける楽しさはどこにあるのだろうか。
「やっぱり出稿量(放送回数)の多さですね。僕はもともとそこにあまり興味がなかったんですが、auを担当させていただいて、出稿量が多く、メジャーな俳優さんに出ていただくことによって生まれる可能性を知ったというか。広告は本来“広く告げる”もの。通信会社CMには、それをできる醍醐味を感じています」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント!3月号の記事を再構成]