「お酒でクスリを飲む」と、こんなにコワイ
左党なら誰もが気になるアルコールと薬の関係(前編)
日に日に寒さも増し、ちまたでは風邪やインフルエンザが猛威をふるっている。そんなときでも酒を欠かせないのが左党。いや、状況を逆手に「アルコール消毒だ!」と言い張り、いつにも増して酒の量が増えているのではないだろうか?
しかしいくら「アルコール消毒」をしても、所詮ウイルスには勝てっこない。風邪にかかったら、風邪薬に頼らざるを得ない。だが、薬を飲んでまでも酒を飲みたいのが左党というもの。かくゆう筆者も風邪気味のときは、風邪薬を飲んでから飲み会に挑むことは日常茶飯事である。ごくたまーに、ビールで風邪薬を飲んじゃうなんてことも……。
だが、そもそも薬は水で飲むのが基本だ。さすがの私もそのくらいは知っている。現に行きつけのクリニックで薬をもらう際、必ずと言っていいほど「アルコールは控えてくださいね」と注意される(厳守してないが)。知ってはいるけど、ついついやってしまうのだ。
幸いなことに、私の場合は、今まで大きな弊害はなかった。痛み止めや風邪薬とお酒を同時に飲んで気持ち悪くなったことはあるものの、ひどい症状にならなかったのをいいことに、いまだに飲み会前や飲酒後に風邪薬を飲んだりしている。
実際問題、お酒でクスリを飲む行為は、どんな危険性をはらんでいるのだろうか? そこで今回は、薬とアルコールの関係性について、一般社団法人千葉県薬剤師会薬事情報センターの飯嶋久志さんに詳しい話をうかがった。
やっぱり「お酒で薬」はダメだった
「薬をアルコールで飲む!? とんでもありません。絶対にダメです!『水で服用』が大原則です」(飯嶋さん)
予想通り、いきなりダメ出しされてしまった(汗)。「そりゃそうだ」と思っても、命の危険を感じたことがないせいか、ついつい繰り返してしまう。では一体、なぜアルコールと薬を一緒に飲んではいけないのだろうか?
薬が効き過ぎてしまうことが!
「アルコールは多くの薬の働きに影響を及ぼします。その影響は薬によっても異なりますが、典型的な影響として、薬の作用や副作用を増強してしまう危険性があります。ご存じの方も多いと思いますが、アルコールも薬も肝臓で代謝されます。その際、使われるのがCYP2E1(チトクロームP450)などの代謝酵素です。通常の人が薬とアルコールを併用した場合、この酵素を双方で奪い合う形になるのです」
「あくまで例えですが、仮に代謝酵素によって、通常は50%代謝される薬があったとします。これがアルコールによって、代謝酵素を半分奪われてしまう形になると25%しか代謝されなくなります。すると薬の成分の75%が血中に入ってしまうことになります。当初、半分が代謝されるという前提で処方された薬の量なのに、実際には、より多くの量を飲んだのと同じことになってしまうわけです。これによって薬理効果が増える、つまり効き過ぎてしまうのです」(飯嶋さん)
なんと、アルコールによって薬が効き過ぎてしまうとは! 確かにそれは、カラダによくないだろう。
その一方で、「反対に日常的にアルコールを常飲している方は、普段から酵素活性が高いため、薬を代謝し過ぎてしまい、効きにくくなるといった弊害も出てきます」(飯嶋さん)という。
命にかかわる重篤な症状を引き起こす可能性も
うーむ、薬が効き過ぎるのも効かないのも含めて、「お酒で薬」にはリスクがいっぱいありそうだ。飯嶋さんに具体的な薬を例に挙げてもらいながら、より詳しく教えていただいた。
「薬理効果を促進させる薬の一例として、血栓症の治療に用いるワルファリンが挙げられます。通常の人がアルコールと併用すると効き過ぎてしまい、出血する恐れがあります。脳など出血する場所によっては、命にかかわる重篤な症状を引き起こす可能性があるのです」
「一方、日常的にアルコールを常飲している方の場合は、先ほども触れたように、薬が効きにくくなります。常飲者は酵素活性が高過ぎることにより、特に飲酒しないときには薬を代謝し過ぎてしまい、血中に入る成分が少なくなります。これにより、体内で血栓が生成されやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まるのです」
「また、糖尿病の治療に使われるメトホルミンなどは、過度のアルコール摂取が体内における乳酸の代謝を減少させます(乳酸アシドーシス)。乳酸が過剰になると中枢神経や消化器系に悪影響を及ぼすことがありますので、特に注意が必要です」(飯嶋さん)
こ、怖いっ。悪酔いするくらいならまだしも、薬によっては命の危険性があるなんて!とはいえ、これらの薬は、特定の病気の際に、処方箋によって出されるもの。該当する病気でない人は、「私には関係ない」と思っているかもしれない。
では、家庭の常備薬ともいえる痛み止めや風邪薬など、ドラッグストアで簡単に入手できる薬はどうなのだろうか。また、これからの季節にお世話になる人も多いアレルギー性鼻炎用の薬への影響は?これについては次回お届けする。
飯嶋久志(いいじま・ひさし)さん
一般社団法人千葉県薬剤師会 薬事情報センター長。1994年日本大学薬学部卒業。薬剤師、博士(薬学)。千葉県薬剤師会 薬事情報センター主任研究員などを経て、2007年から現職。日本医薬品情報学会 理事、日本薬剤師会 臨床・疫学研究推進委員会 副委員長なども務める。鍼灸師、感染性廃棄物安全処理推進者の資格も保有。地域医療連携の推進や医療の質を向上するため、調査・研究やそれに基づいた対策に取り組んでいる。
(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)
[日経Gooday 2017年2月1日付記事を再構成]
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