日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/2/25

たとえ北極の海氷が「臨界点」を超えることはないにしろ、グリーンランドを覆っている巨大な氷床については話が別だ。地球の気温が上昇すれば、グリーンランドの氷床は失われ続ける。氷が解けるにつれて、氷床の高さは減少の一途をたどり、低くなった氷床が暖かい空気に触れることになる。

「ある時点で、グリーンランドの氷床の消滅は止められなくなるはずです」とノッツ氏は言う。「これは明らかな『臨界点』だと考えています」(参考記事:「ホッキョクグマ、温暖化を生き抜く4つの適応策」)

海中を泳ぐホッキョクグマ。冷たい水にその姿が映る。(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

温暖化を止められるか

ノッツ氏は、北極の海氷の回復力にも限界があると主張する。化石燃料の消費量削減は急務であり、そうしなければ、やがて北極では氷のない夏があたり前になってしまう。ノッツ氏のグループは、最近「サイエンス」誌に掲載した論文で、二酸化炭素(CO2)の排出量と氷床の融解には直接的な関係があることを突き止めた。論文では、CO2が1トン排出されるごとに、約3平方メートルの氷床が失われるという具体的な数値を示している。

「ドイツ人1人が1年あたりに排出するCO2の量は約10トンです」とノッツ氏。「米国では16トンほどだと思います。そこから、ドイツ人の私が北極の氷床の消滅にどのくらい寄与しているかを計算することができます。1年あたり約30平方メートルです」

「私たち皆がどのくらい北極の海氷を喪失させているかがはっきりする時は突然訪れます。海氷の消滅は偶然起きることではありません。飛行機や車でどこかに行ったら、それによってどのくらい海氷が解けたのかを後で計算してみてほしいのです」

ノッツ氏によれば、私たちがあと7000億トンから1兆トンのCO2を大気中に放出すれば、北極の夏の氷は消滅するという。現在のペースだと、それは20~25年後だ。この排出レベルは、パリ協定で定められた値ともほぼ一致する。パリ協定は、産業革命前の水準からの気温上昇を摂氏2℃未満に抑えることを各国に求めている。さらに、今後各国がさらに厳しい1.5℃という目標を目指すことも盛り込まれている。これは、北極の海氷が年間を通して存在できるレベルだ。

いいニュースもある。温室効果ガスの排出を抑えることができれば、北極の海氷はすぐにでも安定するというのだ。「もし、何らかの方法で、来年の排出量を半分に削減できれば、氷がなくなるまでの時間は倍になります」とノッツ氏は言う。

一方で、悪いニュースもある。現在、私たちはそのような取り組みを何も行っていない。「おそらく、今までと同じような傾向が続くでしょう。年によって急激に上がったり下がったりを繰り返しつつ、全体としては下降傾向が続くものと思われます」とセレズ氏は言う。「2030年ごろには、北極に氷のない夏が来るかもしれません。しかし、自然の変動によって、次の10年は氷が復活するということも考えられるのです」

「しかし、今年と昨年の冬を見るかぎり、眉をひそめざるをえません」

(文 Tim Folger、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年2月13日付]

ナショジオメルマガ
注目記事
ナショジオメルマガ