元カノが妻の友人、会いたくなります
作家、石田衣良
元カノ(既婚、子どもあり)と妻が友人で、毎年写真入りの年賀状が来ます。それを読むたびに往時のロマンスを思い出し、彼女が恋しくなり会いたくなります。実際に会うわけにはいきませんが……(兵庫県・40代・男性)
この相談の回答は、ほぼすべての女性読者には明確におわかりのはずです。その声をちょっとおきかせしましょう。
だから男はダメなんだ。いい年こいて馬鹿いってんじゃないよ。ちゃんと正気にもどって、別れた理由を胸に手をあて思いだせ。奥さんがかわいそう。上品に翻訳していますが、事実はもっと厳しい罵詈雑言でしょう。
なぜか恋愛において、男性は旧型のアナログで、ひとつずつ過去の記憶を地層のように積みあげていくもの。おりにふれて思いだし、時の流れと記憶の結晶化作用(いいとこどり!)で、美しくなった恋の記憶に酔い、またもう一度やり直せないかと、愚かな夢を繰り返し見る。
対して女性は血も涙もないデジタルで、0か1しか存在しない。スマートフォンの買い替えと同じで、過去の恋愛も中身を完全に消去してお払い箱にします。過去は過去で、今は今。今がすべてで過去の恋愛への未練や相手への思いは限りなくゼロにリセットされてしまう。
ですから、別れた彼女が忘れられなくて、妻の友人でもある彼女を想うと胸が切ないとか、毎年送られてくる年賀状を見ると、苦しくてたまらなくなるなどという心の動きは、女性には理解されません。そして残念ながらアナログはデジタルに駆逐される運命にあります。
あなたの場合、きっぱりあきらめろといっても無駄でしょうから、そのままときめきを自己のなかだけで楽しく妄想化していくのがいいのではないかと、ぼくは思います。ただし、これは勝手な妄想で、寄りをもどす可能性はゼロであるときちんと自分に納得させておかなければなりません。彼女の誕生日にバーにいき、ひとりで祝杯でもあげるのはいかがですか。
別にこれは悪いことではありません。配偶者に冷めてしまった妻や夫はみな恋愛への飢餓や性的欲望を、タレントやアイドルへと転嫁させ、その場をしのいでいます。そうでなければ、あの熱狂的だった韓流ブームもありえなかったのです。
そうしてじりじり年をとり、恋愛対象ではなく恋愛に傾くときめきのほうが重要だったのだと、いつか気づく日がくるでしょう。男性の多くは若くして目のまえにいる女性から具体的恋愛を始め、年をとるごとに抽象化された恋愛や女性性を求めるようになる。ゲーテのいうとおり現実には存在しない「永遠に女性的なるもの」を求め、さまようことになります。あなたは奥さんに内緒で自分の妄想をたのしみ、そこから生きるエネルギーを汲みだしてください。
[NIKKEIプラス1 2017年2月25日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。