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上野耕平さん アドルフに告ぐ、我がサックス道

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サクソフォン(サックス)奏者の上野耕平さん(24)が、この楽器の発明者アドルフ・サックスの時代にまで遡り、源流から今を捉える演奏を続けている。ジャズやポップスのイメージが強い中で、古典から現代音楽までジャンルを超えるサックス演奏の可能性について聞いた。

発明者アドルフ・サックスの時代の古典作品

フランス国境に近いベルギーの古都ディナン。のどかに流れるムーズ川のほとりに教会のある町並みが広がり、そのすぐ裏手に断崖絶壁が立ちふさがる。崖上からは防壁を張り巡らせた要塞が町を見下ろす。第1次世界大戦をはじめ幾多の戦禍に見舞われた要塞都市は、今では絵のような美しい風景からベルギーを代表する観光名所の一つとなっている。このディナンで2014年に開かれた第6回アドルフ・サックス国際コンクールにおいて上野さんは第2位を受賞し、世界的に注目を集めた。

ディナン生まれの楽器製作者アドルフ・サックス(1814~94年)が開発したのがサクソフォンだ。パリで活動したアドルフだが、彼を記念してサックス奏者のための国際コンクールが故郷の町に設けられた。「コンクールでは町を挙げて出場者を応援してくれる。参加者は全員が地元の家庭にホームステイする。人も風景も本当に美しい町です」と上野さんはディナンを評する。サクソフォン発明者を生んだ町としてディナンにはこの楽器をデザインしたオブジェや看板が点在する。「アドルフは楽器に自分の名字を付けたくらいだから、よほどの自信作だったのだろう。彼の死後、現代に至るまで楽器の基本的な機能や構造はほとんど変わっていない」と上野さんは話す。

アドルフ・サックス生誕200年の2014年に出したデビューCDのタイトルは、発明者への畏敬の念を込めて「アドルフに告ぐ」。サクソフォンとピアノのための作品を収めたアルバムで、ピアノは佐野隆哉氏。吉松隆氏やポール・クレストンら現代作曲家の作品が並ぶ中で、異彩を放つのは19世紀半ばのパリで活躍したジュール・ドゥメルスマン(1833~66年)の「ファンタジー」という古典作品。アドルフ・サックスと親交があった作曲家で、「サクソフォンが生まれて間もない頃の作品。コンサートでは、サクソフォンにこんな曲があったんだという感想が多い。これほど聴き応えのある作品を残してくれて、奏者としてはありがたい」と上野さんは話す。

映像では、ドゥメルスマンの「ファンタジー」と、19世紀フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838~75年)の「アルルの女 第2組曲」から「間奏曲」のいずれも原曲のサックス独奏部分を試奏している。ビゼーは自らのオーケストラ曲にサックスを取り入れた先駆けの作曲家の一人だ。とはいえ、サックスはジャズのイメージが強いのも確かだ。チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズらジャズの巨人たちの名前が思い浮かぶ。「アドルフに告ぐ」に収めた吉松隆氏の「ファジーバードソナタ」も曲名の通りジャズとクラシックとエスニック音楽をファジーに(曖昧に)ブレンドした音楽となっている。しかし上野さんは「ジャズそのものを公演で吹いたことはない」と話す。

8歳から小学校の吹奏楽部でサックスを吹き始めた。「木管と金管の中間にある楽器。(フルートやオーボエなど)木管楽器のように小回りが利く一方で、(トランペットなどの)金管楽器のような大きな音量も出る」という独特の音色や機能にみせられてきた。「この楽器ならではの表現力の高さ、幅の広さがある」と言う。比較的新しい楽器だけに、20世紀初めにジャズが台頭する中で、その影響を強く受けた楽器ではある。だが上野さんはクラシックやジャズなどのジャンルにとらわれず、アドルフ・サックスがこの楽器を発明した原点を見つめ、サックスの源流から現代の音楽まで捉えようとしている。

サクソフォン四重奏曲の世界を広める

新興楽器ゆえにサックスの古典作品は少ない。その希少なクラシック作品に光を当てようと、上野さんは2013年にサクソフォン四重奏団「ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット」を結成した。メンバーは上野さんと宮越悠貴氏、都築惇氏、田中奏一朗氏の若手4人。それぞれ順番にソプラノ、アルト、テナー、バリトンという音域の異なるサックスを担当する。「サクソフォン四重奏の分野はソロよりもさらに作品が少ない。でももっと知られるべき素晴らしい曲がある」と言う。

3月2日に東京文化会館小ホール(東京・上野公園)で開くザ・レヴのコンサートでは、ロシア生まれでフランスに移住した作曲家アレクサンドル・グラズノフ(1865~1936年)、フランスの作曲家アルフレッド・デザンクロ(1912~71年)とフローラン・シュミット(1870~1958年)の「サクソフォン四重奏曲」3作品を一挙に演奏する。「今は四重奏に燃えている。かなり熱い演奏になる」と意気込む。旧ソ連を代表する作曲家ショスタコーヴィチの師でもあったグラズノフは、保守的な姿勢や作風を批判されてパリに移った。不遇な晩年だったが「サクソフォンと出合って『協奏曲』と『四重奏曲』の2曲も書いてくれたのはありがたい」。2曲ともサックスのための数少ないロマン派作品の代表作となっている。

シュミットの「サクソフォン四重奏曲」はまれに見る難曲。「世界一難しい曲だと思う。4人のかみ合いもすごく複雑。でもしっかりかみ合えば本当に素晴らしい響きがする。メトロノームを使ってパッパッパッと合わせるという地道な練習を繰り返している」。同じ四重奏でも弦楽四重奏曲ならまだバイオリンやビオラやチェロがそれぞれ同時に複数の音を出せるので、重なり合う音が多い。これに対しサクソフォン四重奏はそれぞれの楽器が完全に単音だ。「4人で演奏しても4つの音までしか出ない。最大4音でもバラエティー豊かな響きを出すために作曲家の腕が問われる」と説明し、その意味でもシュミットの作品を「多くの人にぜひ聴いてもらいたい傑作」と評する。

ジャンルを超えてサックスの可能性を追求

オーケストラとの共演でも活躍が目立つ。一躍脚光を浴びたのが2015年9月5日、サントリーホール(東京・港)での公演。山田和樹指揮日本フィルハーモニー交響楽団とフランスの作曲家ジャック・イベール(1890~1962年)の「アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲」を共演した。今や世界的指揮者となった山田氏による若手の大抜てきといわれた。「すごくノリが良くて口ずさめる曲。所々ジャズの要素が入ってきて洒脱(しゃだつ)で洗練されている」と上野さんは大切なレパートリーに据えるイベールの協奏曲について語る。

今年は6月11日にミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)で井上道義指揮東京交響楽団とクロード・ドビュッシー(1862~1918年)の「アルト・サクソフォンと管弦楽のための狂詩曲」を演奏する。「ドビュッシーにもサクソフォンの曲があったんだと思う人が多いのではないか」と上野さんは言う。米国の女性サックス奏者エリザ・ホールがドビュッシーに委嘱して生まれた作品だ。新しい楽器の作品は演奏家の側から作曲家に働きかけて新曲が世に出る。

上野さんも作曲家への作品の委嘱に意欲を燃やす。「これまでも委嘱してきたし、今後もずっとやっていく。どんな曲が生まれてくるんだろうという楽しみがある」。一例として坂東祐大氏が作曲したアルト・サクソフォン独奏のための「エアリアル・ダンス」を挙げる。「こんなクラシックの曲は今まであり得なかった。息継ぎをする間が無いくらいに難しいが、とてもいい曲だ」。ドビュッシーとエリザ・ホールのように、作曲家と演奏家がともに音楽史に名を刻んでいく共同作業だ。7月26日には第一生命ホール(東京・中央)で「エアリアル・ダンス」の改訂版を初演する。

演目を増やすためには委嘱新作のほかにクラシック作品の編曲やジャンルを超える演奏活動にも挑戦していく必要がある。2016年8月に出した2枚目のCD「Listen to…」には管弦楽曲や歌をサックスとピアノのデュオに編曲した作品が並ぶ。「サクソフォンならではの違った魅力、味が出る」とクラシック作品の編曲演奏に取り組む醍醐味を語る。若手ピアニストの山中惇史氏がピアノを担当した。山中氏が編曲した「カルメンファンタジー」は19分もある大作。「ビゼーのオペラ『カルメン』を全編通しで見たくらいの満足感がある。アルトサクソフォンとピアノの2人だけでここまでできてしまう。サクソフォンの可能性を再確認できた曲だ」と語る。

「クラシックだけにこだわらない」との考えからゲスト出演するのが、3月4日に大さん橋ホール(横浜市)で開かれる「ブラス・ジャンボリー2017」。吹奏楽の愛好者なら誰でも応募できるイベントで、何百人もの管楽器奏者が全員で同じ曲を吹く。「僕がソロを吹いたり、みんなと一緒に合わせて吹いたり。今まで経験したこともないとてつもない規模の合奏になる」。固定観念にとらわれず、ジャンルを超えてサックスの可能性を追求する姿勢がある。あらゆる場所に軽やかに移動していく演奏家が新たな音楽史を作る。特定の作曲家にではなく、まずは楽器の発明者アドルフ・サックスに告げる演奏家の道がここにある。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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