アマゾンCM「ライオン編」 好感度年間1位の理由
2016年度の「作品別CM好感度ランキング」(CM総合研究所発表)で、auやソフトバンクを押さえて1位になったのは、Amazonプライムの「ライオン編」だった。本作の好感度は過去5年の比較でも最も高く、まれに見る大ヒットとなっている。
舞台は、赤ちゃんがいる家庭のリビング。ライオンのぬいぐるみを触ってごきげんな赤ちゃんだが、ペットの犬が近づくと泣き出してしまう。寂しそうな犬を見て、パパがAmazonで注文したのが、ライオンのたてがみのコスチューム。その日の夜、届いたたてがみを着けた犬が現れると、赤ちゃんがそっと手を伸ばす…。
この「ライオン編」が、なぜ、これほどの好感度を獲得したのか。要因について、アマゾンジャパンの桑田淳氏は「情報を減らすことで、伝えたいこと以上のものが伝わったのではないか」と話す。
「広告主としてはCMで伝えたいことはいっぱいあるのですが、ABCDと情報を詰め込んでも、15秒で覚えてもらえる量は決して多くない。だったら、俳句のようにABだけを伝えて、CDは想像してもらったり、感じてもらったほうがいい。頭ではなく、心に響くCMにトライしたことが良かったのかもしれません」(桑田氏)
ライオン編で訴求しているのは、「Amazonプライム」というサービス名称と「速く届く」の2点のみ。それをエモーショナルに表現したクリエイティブの力も大きいだろう。博報堂のクリエイティブディレクター・はばき節子氏は、「言葉があると、人は言葉に気を取られます。今回はみなさんに自由に想像しながら見てほしかったので、言葉やセリフをなくしたんです」と語る。
「赤ちゃん」と「動物」という好感度の高い鉄板要素を組み合わせ、誰もが共感できるようなストーリーを作り上げた点も大きいはずだ。
こうして完成したCMは、まるで短編映画のような、見応えのあるものに。昨年4月にオンエアすると、ネット上に「感動した」「心がなごむ」といった声があふれ、「たてがみをつけてみた」とペットの写真をアップする人も続出。反響を受け、年間を通して放送し続けたことも、「作品別好感度年間1位」につながった。
実はこのライオン編は、言葉がないことが幸いし、ネットで動画が世界に拡散。今ではアメリカ、イギリス、ドイツなど各国でもテレビCMとして放送されている。日本の広告界にとって快挙といえるCMだ。
16年末からは「ポニー編」の新しいCMも始まり、こちらも好評だ。
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント!3月号の記事を再構成]
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