動画が毎日5時間見放題 スマホに時間縛りの新定額制
格安SIM最前線
普通の速度で通信できる期間を、「通信容量」ではなく「通信時間」で管理する、新しいタイプの料金プランが登場した。把握が難しい「通信容量」とは違い、直感的に捉えやすい「時間」が料金の軸となる。このプランに向いているのは動画を積極的に楽しむユーザーだろう。時間さえ守れば動画も見放題になるからだ。
時間で管理する新タイプの料金プランが登場
インターネット接続サービス「So-net」を提供するソニーネットワークコミュニケーションズは、同社の格安SIMサービス「nuroモバイル」で「時間プラン」という新しい料金プランの提供を2月1日から開始した。
時間プランはその名の通り、高速通信(下り最大375Mbps、上り最大50Mbps)ができる期間を「1日5時間」という時間枠で管理するプラン。ファイルのダウンロードやオンライン動画の視聴など、一定以上の通信量をnuroモバイルのネットワークが検知すると、時間枠が5分単位で消費されていく仕組みだ。
5分後にまだ通信していればもう5分間を追加し、通信が終わっていれば消費も止まる。5時間の時間枠をすべて消費した時点で、低速通信(上り下りともに200kbps)に制限される。
なお、アプリの通知やテキストメッセージの送受信といったデータ量が少ない通信では、時間枠を消費しない。
月額料金は、電話と通信ができる音声通話SIMでは3456円(税込、以下同)、通信だけができるデータ通信SIMでは2700円となっている。
「時間」は「容量」よりも直感的に捉えやすい
近年、大手キャリアが20GBまで使える大容量プランを相次いで打ち出している。プラスワン・マーケティングの「FREETEL SIM」は50ギガバイトまで選べるプランを追加した(「月1万円超でも『格安SIM』 動画見放題に照準の新潮流」)。
スマートフォン(スマホ)でYouTubeなどの動画を気軽に楽しむユーザーが増え、大量のデータ通信を日常的に消費するユーザーが急増したためだ。
ただ、大容量プランを使っていても「動画を何本見たら何ギガバイト消費するか」を判断するのは難しい。
オンライン動画では、再生画質が良いほど通信量も多くなる。Wi-Fiが使えない外出先では通信容量を節約するために画質を抑えたり、視聴そのものを控えめにしたりする人もいるだろう。
これを別方向から解決できるのが「時間制」のアプローチだ。時間プランでは「スマホで通信した時間=時間枠の消費量」。だから、オンライン動画を1時間見たら残り時間は4時間だ、と簡単に計算できる。
それに、高画質でも低画質でもオンライン動画の再生時間は同じなので、時間プランでは消費される時間も同じ。1日5時間という枠を守れば、わざわざ低画質にすることなく、高画質で動画を楽しめることになる。
1日ごとに時間枠が復活するのもポイントだ。もしこれが「1カ月150時間まで」というプラン内容だったら、やはりわかりにくかっただろう。「24時間のうち5時間まで」と定められているからこそ、スマホを使える時間を直感的に捉えやすいのだ。
散発的にスマホを使う人には向いていない
一方、時間プランが向いていないのは、高速通信を1日5時間以上利用している人だ。
時間プランでは「1日5時間」という時間枠を増やせない。nuroモバイルが提供するほかの料金プランでは、通信容量が足りなくなったときに追加購入できるが、時間プランでは追加購入できる時間枠のようなものは提供されていない。
時間枠の消費をユーザー自ら抑制することも難しい。格安SIMのなかには通信速度を低速に切り替えて通信容量を節約できるものもあるが、時間プランはnuroモバイルによってすべて自動で管理されているため、一定量を超える通信が生じれば必ず5分は時間を消費する。利用する時間を減らす以外の工夫ができないのだ。
朝から夜まで散発的にスマホを使い続けるような人にも時間プランはあまり向いていないだろう。使った時間を直感的に捉えにくいので、残り時間もわかりにくいのだ(その日の残り時間はnuroモバイルの会員ページで確認することが可能)。
ソニーネットワークコミュニケーションズの担当者によると「時間プランはスマホを使う時間帯が、ある程度集中しているユーザーほど利用しやすい」そうだ。
「通勤・通学で往復2時間、お昼休みに1時間、帰宅後のリラックスタイムに2時間をモデルケースとしている」
通勤中、休憩中、就寝前といったように、使う時間がある程度まとまっている人ほど、時間プランはしっくりくるだろう。
ちなみに同じnuroモバイルで、時間プランと月次プラン(10ギガバイト)の料金を比べると、時間プランのほうが216円高い。他社の月次プランと比較しても、10ギガバイトのプランより高いが、20ギガバイトのプランよりも安い。
スマホの利用スタイルに変化をもたらすか?
通信速度を「時間」という慣れ親しんだ基準で管理することにより、スマホの使い方にも変化が訪れるかもしれない。
NTT東日本・西日本が提供している「テレホーダイ」というサービスがある。毎月定額の料金を支払うことで、午後11時から午前8時までの間、指定した電話番号への通話発信が無料になるオプションだ。サービスがスタートしたのは1995年のことで、驚いたことに22年たった現在でも現役だ。
90年代の当時、家庭からパソコン通信やインターネットを利用するには「ダイヤルアップ接続」が一般的だった。固定電話の通話料が掛かるため、ネットの利用時間が長いほど、通話料金の請求も高額になっていた。
ところが、テレホーダイの登場がネット利用の様相を変えた。「時間帯は限定されているものの、通話料を気にせず定額でネットが使える」ようになったのだ。
nuroモバイルの時間プランを見たとき最初に思い浮かんだのが、このテレホーダイだった。「時間枠は限定されているものの、通信量を気にせず定額でネットが使える」という点に、テレホーダイと共通するものを感じたのだろう。
考えてみれば、人の暮らしは時間によって区切られている。会社や学校には始業時間から終業時間まで滞在するし、お店や公共施設を利用できる時間も開始時刻と終了時刻が定められている。1日24時間という枠のなかで暮らしている私たちにとって、「時間」は生活に密着した身近な単位だ。
オンライン動画の視聴やファイルのダウンロードといった通信量が多くなりがちなアプリやサービスは、通信容量に制限があると積極的に使いづらい。だが、直感的に捉えやすい「時間」で通信速度が管理できるなら、今まで以上にスマホで利用しやすくなるだろう。
「必要なときだけ使い放題で通信したい人や、容量ではわかりづらいと感じている人でも、時間プランは安心して使っていただける」(ソニーネットワークコミュニケーションズ担当者)。動画もネットも1日5時間までなら使い放題の時間プランは、スマホの使い方を変えるかもしれない。
(ライター 松村武宏)
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