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イタリア鉄道旅 新しい顔と昔ながらの風景を楽しむ 日伊協会常務理事 二村高史

2017/2/23

ローマ・ティブルティーナ駅に到着した「フレッチャ・ロッサ」

 「しょっちゅう遅れる」「車内放送もなくサービスが悪い」「車両が古臭い」――。海外旅行先として不動の人気を誇るイタリアだが、鉄道の評判はこれまで必ずしも芳しくなかった。実際、日本人の海外鉄道マニアにドイツや英国の鉄道ファンはいるが、イタリアの鉄道が好きだという人にはめったにお目にかかれない。だが、そんな悪評も過去の話になりつつあるという。日伊協会常務理事の二村高史氏にイタリア鉄道の最新事情を教えてもらった。

◇     ◇

 イタリアの国鉄は、2000年まで段階的に進められた分割を経て、かなり変わってきた。事故か悪天候でもない限り、あまり遅れなくなってきたし、新しい車両ならば録音音声の車内放送もある。幹線の主要駅到着前には、イタリア語なまりの英語の放送もある。

 列車に遅れが出たときの放送まで、あらかじめ録音されていたのには驚いた。「次は○○です。この列車は××分遅れて到着します。申し訳ありません」という謝罪の言葉を初めて聞いたときは、座席からずり落ちるほどたまげたものだ。国鉄時代のサービスに比べると、想像もできないほどの変化である。

 そして、走る車両もまた大きく変わった。

まるで空港のようなローマ・ティブルティーナ駅。ローマ市内の新しいターミナル駅として大改装された

■民営化後の看板列車は「赤い矢」

 イタリア国鉄の分割民営化は、日本のそれとはちょっと様子が違っている。日本は地域ごとに分割したが、イタリアは上下分離なのだ。つまり、持ち株会社のもとに、列車を運行する会社や施設・線路を管理する会社などに分けられたのである。

 一般の乗客に関係があるのは、列車を運行する会社であるトレニタリア(Trenitalia)だろう。列車を意味するトレーノ(Treno)の複数形トレーニ(Treni)とイタリア(Italia)を合成した社名で、日本ではイタリア鉄道と訳されている。

 このイタリア鉄道の看板列車が、イタリアのメーカーが共同で製造した車両を使い、トリノ-ミラノ-ボローニャ-フィレンツェ-ローマ-ナポリ-サレルノというメインの路線を中心に、ベネチアやアドリア海側のアンコーナまで営業最高時速300キロメートル(日立レールイタリアやボンバルディア社が製造した最新型は時速400キロメートルでの走行が可能という)で走る高速列車「フレッチャ・ロッサ」だ。日本語に訳すと「赤い矢」、英語ならば「レッド・アロー」である。

 英語にすると、西武鉄道の特急の愛称と同じ。さてはまねしたなと思う人もいるかもしれないが、旧ソ連ではモスクワ-レニングラード(現・サンクトペテルブルク)間に「赤い矢」(クラースナヤ・ストレラー)という特急列車を走らせていたので、そちらのほうが先である。ロシアになった今でも豪華寝台列車の名前に残されている。

 さらにいえば、現在のモスクワ-サンクトペテルブルクを結ぶ最速列車の愛称は「サプサン」。日本語にすると「はやぶさ」だ。これもどこかで聞いた名前だろう。人間の考えることは同じようなものだと、ちょっとほほ笑ましくなってくる。

 さて、イタリア鉄道自慢のフレッチャ・ロッサは、値段も従来の列車にくらべて格段に高いが、その分速いし乗り心地もいい。ビジネスマンや旅行者を中心によく利用されている。

 フレッチャ・ロッサに次いで速いのが、最高時速250キロメートルのフレッチャ・アルジェント(銀の矢)。さらに、準幹線まで広く乗り入れるフレッチャ・ビアンカ(白い矢)も登場。赤→銀→白という序列が不思議だが、この「3本の矢」(やはりどこかで聞いたことがある)が高速列車のラインアップなのである。

ミラノ中央駅に勢ぞろいした3編成の「フレッチャ・ロッサ」。赤い車体は目立つ

■民間会社の特急と旧国鉄の特急が同じレールの上で競う

 そして、フレッチャ・ロッサのライバルが、2012年に運行を開始した「イタロ」。こちらは民間のヌオーボ・トラスポルト・ビアッジャトーリ社(NTV)が運行する特急列車だ。社名を直訳すると「新旅客運輸社」「新旅客輸送社」といった意味で、日本語にするとちょっとさえないが、フランスの高速列車TGVの最新型であるAGVの車体を、イタリアの名車フェラーリを思わせるワインレッドで包んだ外観は、とってもスタイリッシュだ。

「イタロ」は同じ赤い車体でも、「フレッチャ・ロッサ」よりシックなワインレッド。フランスのアルストム社製

 それもそのはずで、NTVは当時のフェラーリ会長兼フィアットグループ会長をはじめ、高級靴・アクセサリーメーカーのトッズの社長らが出資してできた会社なのである。無理やり日本に例えると、トヨタのトップとイッセイ・ミヤケら、そうそうたる面々が協力しJRに挑むという図式だろうか。そう思うと興味深い。

 このイタロは、フレッチャ・ロッサと同じようなコースを、やはり営業最高時速300キロメートルで走破する。民間の列車イタロが、旧イタリア国鉄の線路の上をライバルとともに走っているというのは、日本人にとっては不思議な感じかもしれないが、これこそが上下分離の成果の一つといえよう。

 さて、フレッチャ・ロッサとイタロを乗りくらべてみると、フレッチャ・ロッサのほうがよくも悪くもクールで、親しみが持てるのはイタロのほうのようだ。イタリア在住の日本人の知人にも、イタロの評判は高い。

 ただ、イタロは後発参入組ということで、当初はミラノやフィレンツェなど、町の中心部にある中央駅に乗り入れることができなかった。現在でも、駅舎から遠いホームに発着することが多く、不便を強いられているのは気の毒である。

 もちろん、両者とも車内で無料Wi-fiが使え、各座席にはコンセントがついている。主要駅には専用の待合室(サロン)が設けられているが、私はいつも時間ぎりぎりに駅にやってくるので、残念ながら利用したことがまだない。

イタルデザイン(ジウジアーロ)の手による「イタロ」の車内。1等車は座席が3列で広々している。変更・取り消し不可の切符を早めに購入すれば、普通車の通常切符よりずっと安い

 料金はといえば、東京~新大阪間よりもやや長いミラノ~ローマ間の普通車で、現在の為替レートで両者とも1万円くらいだから日本の新幹線並み。在来線の列車運賃が安いイタリアでは、目の玉が飛び出るほどの高額だが、実は割引サービスも多い。

 変更や取り消し不可の切符なら半額から3分の1の価格になり、ときには驚くほどの安値のプロモーションもある(ただし席数が限られている)。切符は会員登録しなくてもインターネットですべて予約・購入できるので、日本の鉄道よりも便利である。

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