人は人を食べたのか 古代の4事例を読み解く科学で挑む人類の謎

日経ナショナル ジオグラフィック社

ペルーの古代遺跡に残るいけにえ

世界中の古代遺跡からは、おびただしい数のいけにえの遺骨が見つかる。ペルー北部にある古代のピラミッド「ワカ・ラスベンタナス」近くで見つかったいけにえの埋葬跡には、100体を超す人骨が辺り一面に散乱していた。西暦900年から1100年頃までの間、ペルー北部の沿岸を支配したランバイエケ文化(シカン文化という名でも知られている)の中心だった地域にある遺跡だ。

遺骨が散乱した「ワカ・ラスベンタナス」のピラミッド。西暦900年頃から1100年頃まで栄えたランバイエケ文化(シカン文化とも言われる)の中心地にある。(Alex Bryce)

中南米のマヤ、アステカ、インカ文明の遺跡でも、いけにえの習慣は多数見つかる。しかし、ワカ・ラスベンタナスで発見された人骨は、すべて自発的に儀式に参加した地元民のものだったようだ。この儀式は誰かの死の葬礼であり、死者の魂が「新しい生命として再びこの世に再生する」ことを願うものだったと考古学者は考えている。

2010年には、ネパールの切り立った崖にある洞穴で27人の男女が埋葬された遺体置き場が見つかった。埋葬が行われたのは1500年近く前のことで、子どもの遺体も含まれていた。研究者の調査によると遺体には切り傷が残され、67%は肉をはぎ取られていた。これは、ヒマラヤに知られざる死の儀式があったことを示している。

ネパールの断崖に洞穴を掘った人々

海抜4200mにあるこの洞穴は人手によって掘られたものだ。ネパール中央北部にあるサムゾンという村落から仰ぎ見る赤茶けた断崖に、自然の形状を残した状態でうがたれている。洞穴が掘られた当時は、はしごをかけて登ったのだろう。浸食が進んだ今では、熟練の登山家でもなければ誰も近づけない。

埋葬用の穴から出土した人間の頭蓋骨。骨のDNA分析からは、被葬者の何人かは血縁関係にあった。(Kenneth Geiger/National Geographic Creative)

遺体の肉をはぎ取る風習を持った人々がどんな部族だったのか、またなぜ暗い洞穴の中でこの儀式を行ったのか、ほとんど何もわかっていない。しかし、一つだけ確かなのは、食人ではなかったということだ。米カリフォルニア大学マーセド校の考古学者、マーク・アルデンダーファー教授は、「食べるのが目的なら、肉をはぎ取った時の骨の扱いがまったく違うはずだ」と言う。

この場所はいけにえを捧げる所ではなく、どうやら埋葬地だったらしい。遺体の肉をはがして洞穴に埋葬するやり方は、これまでに知られているチベットの鳥葬や、死者の肉を動物に餌として与えたゾロアスター教の葬礼に似たもので、これまでに知られていない弔い方ではないかとアルデンダーファーは説明する。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[書籍『科学で解き明かす超常現象 ナショジオが挑む55の謎』を再構成]

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