なぜ心の傷に応急手当てが必要か ガイ・ウィンチ氏「NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法」著者インタビュー(1)

日経Gooday

――ガイさんが著書で取り上げている「7つの心の傷」は、確かに誰もが思い当たるものだと思いました。ただ、その傷をちゃんと認めたり、自分で手当てすることができているかというと、決してそうではないのですね。

「そうなのです。多くの人が、心の傷に気付いても、なにも対処ができていないことが多いのです」

――心の傷は苦しいものです。なのに、どうして、対処ができないのでしょうか。

「単純に、私たちが『心の手当ての方法を学んでこなかったから』です。例えば、風邪を放置したら悪化して肺炎になること、擦り傷を放置すれば細菌が入って化膿すること、骨折を放置すれば骨がおかしな方向にくっついてうまく歩けなくなるかもしれないということは誰もが知っているでしょう。こういうときはどうすればいいのか、親からも教わり、繰り返し実践してきたから、自然とケアができるようになっているのです。

ところが、心の傷の痛みを緩和し、悪化を防ぐ方法を私たちは学んではいません。自己流の、間違ったやり方で対処する人も多い。また、心の傷の症状についてもあまり意識をしていないのではないでしょうか。

風邪を引いたら、せきが出たり熱が出たりする、気分が悪くなるなどの症状があります。同じように、心が傷つくと、『不安になる』『自分を責める』『人を避けるようになる』『自分らしくなくなる』といった症状が表れます。このような症状が出たら、『自分の心は傷ついているんだな』と自覚してほしいのです」

――現代人は、心の傷に対処できていないケースが多いのですか?

「そう思います。大半の人は、感情に気付いても何もしていません。『気分が悪いな』と、その状態を『事実』として受け入れるだけ。『仕方がない』と思って対処ができていないのが現実です。

私たちの心は、体よりも頻繁に、毎日のようにちょっとした傷を繰り返し負っています。失敗したり、拒絶されたり、孤独を感じたり。もちろん、風邪を引いたときに一晩眠れば治る場合があるように、なにもしなくてもよくなる傷もあります。しかし、それは人と状況によります。

忙しさ、プレッシャー、睡眠不足、疲れといった環境の中にいると、やはり傷が悪化してしまうことが多いでしょう。すると、『何もやりたくない』『自分の何もかもに自信が持てない』といった症状悪化へとつながります。

著書の中で紹介したさまざまな『心の手当て=エクササイズ』は、心理学において科学的な証明をされたものがほとんどです。しかし、このような研究成果は、実生活には浸透していないのが現実です。『そんなことに落ちこんでるの? 気にしすぎだ。気の持ちようだよ』と、脚を骨折した人に言うでしょうか。『歩いてみろよ、脚の持ちようさ』というように(笑)」

――なるほど、いかに心の傷をぞんざいに扱ってしまっているか、反省させられます。その一方で、心の手当てなら、精神科や心療内科、カウンセラーの助けを借りればいい、という考えもあります。

「そうですね。ただ、それは常にベストとは言い切れません。症状に比べて、コストがかかりすぎるからです。軽いせきや鼻水で内科に行く必要がないのと同じで、ちょっと落ちこむたびに専門家の力を借りる必要はないのです。みなさんの家にも、急なケガや病気に備えて応急処置をするばんそうこうや頭痛薬を入れた『救急箱』があるはずです。

本で紹介したような、ありふれた『7つの心の傷』は、誰もが日常で遭遇しうる傷です。早めの応急処置は、痛みを和らげ、悪化を防ぎ、傷が深刻になるのを防いでくれる。このことを多くの人に知っていただきたいと思うのです」

次回は、心の傷のなかでもやっかいな、嫌なことほど頭の中で何度も繰り返し再現してしまう「思考のループ」について、さらに詳しくガイさんに聞いていく(2017年2月28日公開「『苦しいときは話すことが大切』のウソ」)。

ガイ・ウィンチ(Guy Winch, Ph.D.)さん
心理学者。ニューヨーク大学で臨床心理学の博士号を取得後、セラピストとしてニューヨーク大学メディカルセンターに勤務。その後、マンハッタンで開業し、20年以上にわたって心理療法を実践している。講演家としても定評があり、TEDトーク「感情にも応急手当が必要な理由」は430万回以上(2017年2月時点)視聴され、「2015年で最も人気のトーク」にランクインした。「ハフィントン・ポスト」や心理学誌「サイコロジー・トゥデイ」にブログを寄稿。他の著書に「The Squeaky Wheel」(未邦訳)がある。

(ライター 柳本 操)

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