変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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外資系企業の多くでは、全ての社員に高いレベルのリーダーシップを求めます。一方、日本ではリーダーシップについて問われる機会はごく限定的で、中には30歳前後になっても「今までに一度も問われたことがない」という人さえいます。

日本人の多くは、「リーダーは1つの組織に1人か2人いればいいもの」と考えています。このため、「なぜ外資系企業や欧米の大学では、採用面接や大学入試において全員にリーダーシップを求めるのか」「メンバー全員が強いリーダーシップを持っていたら、チーム全体としてはうまく動かないのではないか」と不思議がられます。

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

この質問に対する著者の答えは明快です。全員がリーダーシップを持つ組織は、一部の人だけがリーダーシップを持つ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすいのです。

リーダーシップほど欧米と日本での理解のされ方が異なる概念も珍しいと著者は言います。欧米の企業や大学の大半は、リーダーシップを社員や学生が持つべき最も重要な資質の一つと考えています。それに対して日本では、リーダーシップをネガティブなイメージでとらえ、「自分の意見ばかり主張する強引な人」「他人に指示ばかりして、自分は手を動かさない人」などと解釈されることさえあります。

この違いはどこから来るのでしょうか。実はリーダーシップを考えるとき、常にセットで考える必要があるのが「成果主義」なのです。日本では成果が最優先されない場合が多いのです。時にビジネスの現場でさえ、成果より組織の和が優先されることがあります。

高い成果目標がチームに課されたとき、初めてリーダーシップは必要とされます。つまり、何かを達成したり、問題を解決したりするために必要なものがリーダーシップなのです。そして、成果が厳しく求められない状況が多いからこそ、日本ではリーダーシップが問われることが少ないのです。

「リーダーはごく一部の上の人」という時代は終わった

日本が1990年代以降低迷している理由は、高度成長期とは環境が大きく変化したにも関わらず、高度成長期に最適であったモデルから転換できないことが挙げられます。リーダーシップについても、この点が当てはまります。

国や企業の目指す方向が明快だった高度成長期に、日本の多くの組織で中央集権的な体制が確立されました。中央集権体制では"お上"の言うことを従順に聞き、言われたままに実行する優秀なオペレーターが多数いるというあり方が適しています。結果として、日本では「リーダーはごく一部の上の人で、他の大多数は上の人の言いつけを忠実に実行する」と理解されてきたのです。

ただし、現在はもうそのような状況ではなく、ニーズも多様になっています。そのような時に大きな組織のごく一部のトップが方向を決定し、多様なニーズに応えていくのは無理です。必要とされるリーダーが飛躍的に多くなるのです。

組織における問題解決や目標達成のためには、他者を巻き込んで物事を変えていく必要があります。その際に不可欠なのがリーダーシップなのです。

就職に関して大学生から相談を受けることがあるのですが、その際に「自分には(在学中に)何かビジネスを立ち上げたりした経験もないので、何も実績として訴えられません」と悩んでいるケースがあります。しかし、いろいろと話を聞いていくと、部活で練習方法を工夫して部の成績を向上させたとか、アルバイト先でよりお客さんに喜んでもらおうと接客方法を改善し、お店の売り上げが上がったというような経験が出てきたりします。そういった経験を、リーダーシップを発揮した例として話したらどうでしょうと言うと、「そんなことでいいんですか」ときょとんとされたりします。

学生の時から起業して成功しているのであれば、そもそも就職しなくてもいいので、採用する企業も応募してくる学生にそのような実績を期待しているわけではありません。身近な例でいいので、具体的に目標達成のために周囲を巻き込んで何かを変えたとか、達成したというのが、まさにリーダーシップを発揮したということになるのです。

会議で発言しなかったらバリューを発揮しなかったことになる

このように身近な場面で誰でも発揮でき、また発揮すべき資質がリーダーシップですが、残念ながら日本の大企業では上から下までリーダーシップが見られないケースが多々あります。最近「働き方改革」が取り沙汰されているように、多くの人は長時間一生懸命に働いています。長時間働くことで健康を害したりすることは論外ですが、むしろ問題なのは、働く時間の長さよりもその働き方、別の言い方をすれば「生産性」なのです。各自がやっていることが自分の所属する組織の成果にどのように結びつくのかという意識が希薄なのです。さらに言えば、そもそも目指すべき成果が明確になっていないことすらあります。

本書の中でも触れられていますが、私自身、マッキンゼーに入社して最初の社内会議で一言も発言しなかったところ、会議が終わってすぐにパートナーに呼ばれ「大海さん、会議で一言も発言しなかったら何のバリューも発揮しなかったことになります。それであれば、会議に出ずに席で仕事をしていてください」と言われ、カルチャーショックを受けました。日本の大企業から来た身としては、パートナーのような偉い人も出席する会議に初めて出席したら、まずはおとなしく様子を見るのが所作として当然と考えていたからです。入社早々、成果に対する意識の差を強烈に認識させられた場面でした。

結果として日本企業では、長時間一生懸命に働いていることが価値創造に結びつかず、「生産性」が低いままというのが現状なのです。伊賀氏はこのあたりの問題について、そのものずばりの「生産性」という著書を最近出版されていますので、興味がある方は是非こちらにも目を通してみてください。

大海太郎(おおがい・たろう)
ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長
1963年生まれ。87年東京大学経済学部卒、日本興業銀行で資産運用業務などに従事。94年ノースウェスタン大学経営学修士(MBA)取得。99年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2003年タワーズワトソン入社、06年からインベストメント部門を統括、13年から現職。

この連載は日本経済新聞土曜朝刊「企業面」と連動しています。

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