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本書の著者である伊賀泰代氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社で10年以上コンサルタントの採用を担当していました。そのような経歴の人が書かれた本ですので、マッキンゼーへの就職や転職に関心のある大学生や若手ビジネスマンには非常に興味深い内容となっています。

しかし、本書を取り上げたのはそうした読者のためだけではありません。本書の内容が(マッキンゼーや外資系コンサルティングファーム以外で)就職が間近な学生や、既に活躍されている中堅のビジネスマン、そしてグローバルに一段の発展・成長を目指している企業の経営者にも示唆に富んでいるからです。

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長 大海太郎氏

著者はグローバルに求められる資質に関して、マッキンゼーが求める人材は今の日本社会が必要としている人材と全く同じだと認識しています。

したがって、本書で著者が目指したのは「これからの時代にグローバルビジネスの前線で求められるのは、どのような資質をもった人なのか」という点、並びに「日本ではなぜそれらの資質が正しく理解されていないのか」という根本的な原因を究明することだと述べています。

さらに多くの人がリーダーシップを身につけることが、個人と日本の社会にどのような意味をもたらすかについても明らかにするとしています。

マッキンゼーの採用基準は(1)リーダーシップがある、(2)地頭がいい、(3)英語ができる――の3つだそうです。この中で、日本では(1)と(3)が絶望的に欠けています。特に問題なのは、英語力に関してはそれなりに危機感が持たれているのに対して「リーダーシップの欠如」に関しては問題意識さえ欠落しているという点です。

本書を通じて、現在求められている人材は「グローバルリーダーとして活躍できる人」であり、リーダーシップは全員が持つべきであるにも関わらず、日本で圧倒的に不足していると著者は訴えています。

採用基準に関する大きな誤解

伊賀氏は本書の中で、マッキンゼーへの応募者と採用する側の採用基準に関する食い違いについて詳細に紹介しています。自分自身が外資系コンサルティングファームにおいて採用面接を日々行っていて感じていることと共通する点が多々ありますので、その代表的な食い違いとその背景について述べたいと思います。これらは、グローバル企業において求められている資質で、往々にして日本の応募者に欠落していたり、理解されていなかったりするものということになります。

ケース面接に関する誤解

コンサルティングファームの面接ではケース問題が出されることがあります。日本ではコンサルティングファームにおける特有な面接手法であるせいか、コンサルティング業界志望者はケース問題について熱心に研究し、準備してきます。問題は、応募者がこの面接によって何を見られているのかについて、正しく理解していないか誤解していることです。

応募者は「正しい答え」にたどり着くことに必死になりがちです。しかし、「正しい答え」を出すことは全く重要ではありません。そもそも多くの場合、「正しい答え」などありません。

なによりも面接担当者が知りたいのは、「その候補者がどれほど考えることが好きか」、そして「どんな考え方をする人なのか」という点です。応募者の中にはさまざまなケース問題の解き方を研究し、解法を覚えてくる人がいます。しかし、「頭の中から、解法という知識を取り出すこと」と「考えること」はまったく異なる行為です。コンサルタントは自分の頭で「考えること」を最も求められるのです。そして、これはコンサルティングファームや外資系企業に限らず、多くの日本のホワイトカラーに必要とされることだと思います。

『地頭信仰』が招く誤解

 地頭信仰というのは、「頭さえよければコンサルティングファームに入ることができる」という誤解です。もちろん、頭がいいに越したことはないのですが、それだけで仕事ができるわけではないのは、他の業界でもコンサルティング業界でも一緒です。

コンサルタントはまずはクライアントから悩みや課題を相談してもらえるようにコミュニケーションが取れなくてはいけませんし、信頼してもらう必要があります。実際の課題解決にあたっては多くの人を巻き込んで、場合によってはしんどいことをやってもらわなくてはなりません。こういったことを成し遂げるには、頭のよさだけではなく、人間関係の構築や深耕、強靱(きょうじん)な精神力やポジティブな姿勢、粘り強さ、リーダーシップといった多様な資質が求められるのです。

優秀な日本人を求めているという誤解

多くの外資系企業の共通の悩みが、グローバルな採用基準を適用した時、日本での採用が極めて困難だという点です。日本のように大きな市場では、条件の中に日本語ができるというのも入るのですが、これは必ずしも日本人を意味しているわけではありません。あくまでも基準に合致した優秀な「人材」を求めているのであって、優秀な「日本人」を求めているわけではないのです。

これからも日本人の英語力やリーダーシップが高まらなければ(=日本社会がそういった人材を育てることを重要だと思わないのであれば)、マッキンゼーに限らず、外資系企業が雇う人材が、日本語と英語ができるアジア人ばかりになっても、残念ながらまったく不思議ではありません。

大海太郎(おおがい・たろう)
ウイリス・タワーズワトソン・グループ タワーズワトソン社長
1963年生まれ。87年東京大学経済学部卒、日本興業銀行で資産運用業務などに従事。94年ノースウェスタン大学経営学修士(MBA)取得。99年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2003年タワーズワトソン入社、06年からインベストメント部門を統括、13年から現職。

この連載は日本経済新聞火曜朝刊「キャリアアップ面」と連動しています。

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採用基準

著者 : 伊賀 泰代
出版 : ダイヤモンド社
価格 : 1,620円 (税込み)

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