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NIKKEI STYLE キャリア
90秒にかけた男

2017/2/15

90秒にかけた男

同じ商品でも関西で紹介するのと、東北で紹介するのでは売れ行きが違う。東北でも秋田、宮城など県民性の違いで、そこには購買行動に違いが出る。そうしたことが温泉写真の営業で頭に入っていました。知らず知らずのうちにマーケティングの勉強をしていたのです。

職業や団体での違いもある。一番写真を買われるのが戦友会でした。命をかけて戦った仲間だから一体感があって戦友との写真を大事にしてくれました。50人の団体で200枚、300枚と売れました。後ろ姿が少し写っているだけのカットでも買っていただいたことがあります。次に売れたのが婦人会でした。一方、売るのが難しかったのは公務員でした。

「観光写真の販売を通じて、顧客の属性や出身を基にマーケティングしていく術が身についた」という

そういう具合に顧客の属性や出身を基にマーケティングしていく術がいつの間にか身に付きました。これが通販の世界に入った時にプラスになりました。

宴会場は1カ所で終わらず、1日に何軒も掛け持ちします。忙しい時には1日で4カ所ぐらいはしごして、店に戻って何百枚と現像したこともありました。当時の私はエネルギッシュだったのだろうと思いますね。若いからできたのでしょう。自分が頑張れば頑張るほど結果が出るから。とにかくやらなければいけないことがあるからやる。そんな調子でした。

「嫌いなことはやらない」では成長はない

仕事を苦と思ったことはありません。最近、「苦労されたでしょう」とよく言われるのですが、「すみません。本当に一つも苦労したことがないのです」と返して相手の方にびっくりされることがあります。性格的なものもあるのでしょう。「今この瞬間」を一生懸命生き、そのうちにラジオ通販に巡り会い、店売りをやめて本格的にメディアで生きていく道を選ぶわけです。

「自分が今やっていることに意義を見いだすことが、人生で最も大切ではないか」

通販の威力に目覚めたのは地元のラジオ番組にたまたま出演した時の経験からです。ラジオで5分間宣伝しただけなのに、1万9800円のカメラが50台も売れたのです。当時の私の店の1年分の販売台数に匹敵しました。それが全国でなく、長崎県だけで売れた。ラジオに何回か出演するうちに全国のネットを作ろうと思い、カメラ店を弟に譲り、通販で生きていこうと決意しました。その後のことは以前お話した通りです。

温泉街で学んだ商売の原点とは何か。何事にも、自分が今やっていることに対して意義を見いだすということが、人生では最も大事だということではないでしょうか。若い方に伝えたいのですが、「嫌いな仕事はやらない」では人間の成長はありません。配属先が自分の希望とは違うという理由で仕事が嫌いだと悩む人は考え違いだと思います。

嫌いだというのは自分の食わず嫌いと同じです。入社して配属されて一生懸命やる人はその仕事を必ず好きになります。たとえば、ジャパネットの新入社員が希望の番組制作ではなく、広報や総務、経理に配属になったとします。「私は広報の仕事は分からない」「経理は知らない」と言っても一生懸命やっていれば、広報の役割とか、労務、総務、経理の役割とか会社にとってものすごく大きいものがあることに気づきます。

だから、仕事というのは自分が打ち込んでいく中で、自分の内側から好きになっていくものです。世の中の新入社員のほとんどが、そんな風に希望ではない部署に配属されていくのが普通でしょう。与えられた仕事を「好き」にできるかできないか、本気でやれるかやれないか。心の持ち方によって、人生は大きく変わっていくのではないでしょうか。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。68歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

前回掲載「減収150億円! ジャパネットの『責任の取り方』」では、「危機管理のお手本」とまで称された顧客情報流出事件での対応はなぜ可能だったのか――。その秘密を明かしてもいました。

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「90秒にかけた男」は原則、隔週水曜日に掲載します。

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