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NIKKEI STYLE キャリア
90秒にかけた男

2017/2/15

90秒にかけた男

1人で何枚も買ってもらうためにはどうすればいいか

この時に今につながるプレゼンテーションのポイントなどをお客さんから学びました。観光写真を撮るというのは「写真を撮って売ればいい」だけでは済まないのです。まず俊敏さが求められます。宴会が始まって30分もたてば酒が回って人びとが立ち上がって、ばらばらになり始めます。それまでの30分間にどれだけスナップを撮るかが勝負になってきます。時間との戦いです。

第2に「いい写真」を撮らないと買っていただけません。下手なカメラマンはお客さんに声をかけきれないから、お客さんが膳を見ている様子ばっかりを撮ってしまう。特にご婦人は顔をきれいに撮らないと絶対買ってくれないから、そんなポーズは売れません。

だから私は声をかけたのです。「こっち向いて~」「ほら、こっち向いて笑顔をください~」って。講演などでこの時の経験で僕の声が高くなったって冗談を言うのですが(笑)、呼びかけられたお客さんがこちらに視線を向けた時がシャッターチャンスです。すかさずパチッと撮る。そんな写真は次の朝、必ず買っていただけました。

現場でいい写真を撮らないと、絶対に買ってもらえない世界ですから、声かけのタイミングなどは15年間、一生懸命、工夫して自分なりのコツをつかみましたね。声をかけられない場合はうまく撮影できないことがほとんどでした。

団体客に1人で複数買ってもらうためにはどうすればいいかということも自分なりに工夫しました。30人の団体で1人1枚しか買わなかったら30枚しか売れない。1人で2枚、3枚と買っていただくにはどうしたらいいかというと、カット数を増やして撮ればいいことに気づきました。

1986年に独立して開業した1号店「三川内店」

例えば、1人で食べている人の周りに他の人を呼んでグループで撮ったり、配膳待ちの縦列をグループで撮ったり、とかです。朝見てみたら、自分の写っているカットがいくつもあれば、買おうという気がそそられるでしょう。それで30人でも60枚売れるということになるのです。

もっと買っていただくにはどうしたらいいだろう? 出てきた答えが集合写真です。宴会に行く前に、ツアーの添乗員や宴会の幹事と交渉し、集合写真を撮る約束をするのです。「歴史とロマンの島 平戸」とかの文字看板を入れた見本の写真を持っていって関心を引きました。せっかく現像したのに売れないリスクももちろんあります。「残っても構いませんから撮らせてください」と頼んで撮影するんですが8割の人は買ってくれました。

集合写真が8割売れて、スナップ写真が1人2カット売れ、30人の団体でも多い時には5万円の売り上げになったこともあります。ビジネスというのは、いい物を提供し、自分の頭でどの程度買っていただけるかと考えて結果を出していくというプロセスだということを知り、とてもいい勉強になりました。

逆境のなかにも成長のヒントはある

商品の品質を上げたり、いい写真を創り出していったりする努力で結果はいかようにも変わってくる。だから「人口が少ないから商売が成り立たない」とすぐ諦めるのはおかしいのです。「日本は少子高齢化だから先がない」と短絡的に考えるのではなく、ビジネスというのはそんな環境の中にも成長のヒントがあるのではないかと考えるところに面白みがあります。30人の団体にいかに90枚の写真を売るかと考えている先に、突破する知恵が見えてくるものなのです。

ツアー客は全国から平戸・佐世保に来られます。北海道、東北、東京、大阪、名古屋――。どこの地区の人が一番買うかという地域性やお国柄が見えてきます。「この地区の人はなかなか財布のひもが固いな~」といった経験はラジオ通販を始めた時にも役立ちましたね。

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