村上春樹 新作小説『騎士団長殺し』の気になる中身
2月24日、村上春樹の小説『騎士団長殺し』が発売される。「第1部 顕(あらわ)れるイデア編」「第2部 遷(うつ)ろうメタファー編」の2冊で、版元は新潮社。複数巻に及ぶ大長編は、『1Q84』(新潮社)以来、実に7年ぶりだ。1月24日には、第1、2部の初版発行部数が自己最多の『1Q84 BOOK3』と同じ各50万部、計100万部と発表、大きく報道された。
村上のデビューは1979年。『風の歌を聴け』で講談社『群像』新人文学賞を受賞したのが始まり。「当初は一部の文学ファンに愛されるカルト的人気の作家でした」とは、書評家の永江朗氏。潮目が変わったのが『ノルウェイの森』(87年)だ。上・下巻で1000万部を超え(2009年8月時点。映画化やエルサレム賞受賞、『1Q84』発売に合わせて増刷された)、社会現象に。「古くは『野菊の墓』、近年では『世界の中心で、愛をさけぶ』『君の膵臓をたべたい』に続くいささかベタな悲恋小説で、国民的作家の地位をつかんだ」(永江氏)。
86年から日本を離れ、ギリシャやローマに数年間在住。転機は95年。地下鉄サリン事件に端を発した『アンダーグラウンド』(97年)、続いて『神の子どもたちはみな踊る』(00年)を発表。「コミットメント(関わり)が大事」と、それまでの内面を掘り下げる作風から真逆ともいえる、社会問題をテーマに取り組むようになった。
『1Q84』で人気が加速
そして、一大ブームとなったのが、09年の『1Q84』だ。
「フランツ・カフカ賞、エルサレム賞と、海外の権威ある文学賞を立て続けに獲得し、ノーベル文学賞最有力と期待感が高まっていたところへ、新聞広告に情報を小出しにしていく宣伝が功を奏し、品切れ続出など、誰も想像できなかった事態に」(永江氏)
紀伊國屋書店新宿本店の小出和代氏も、「人気が加速したのは、『1Q84』のとき」と振り返る。
「発売初日にNHKの朝1のニュースで流れ、売り場が大騒ぎに。ノーベル賞や新刊発売の時期に毎回テレビでニュースになる作家は、村上さんぐらい。テレビに取り上げられることで、世間の注目度が高まった印象です」(小出氏)
最新作だが、情報は全く降りてきていないという。
「シリアスな小説を書く作家は、自己模倣を恐れます。刊行ペースと年齢を考えると、長編はあと数作。東日本大震災か、世界中で勃発する暴力的支配か。海外で評価の高いエージェントと組むなど戦略的な彼が、世界の読者に伝わるものとして何を書いたのか。また、長編は、何度も書いては書き直すスタイル。オウム真理教の事件をベースにした『1Q84』は、発表まで10~15年かかりました。そういう意味でも、今作のテーマが何か楽しみです」(永江氏)
「『1Q84』も間口の広さを感じましたが、『騎士団長殺し』はエンタテインメント大作を期待させるタイトル。多重構造で深読みできる作風が、最近の映画のようにずっと話題となって、書店の活性化につながればうれしいです」(小出氏)
書店にとっては「今年一番のお祭り」。特大ヒットになるかは、その出来に大きくかかっている。
『騎士団長殺し』は、原稿用紙で2000枚といわれている。村上春樹は、長編、短・中編、エッセイ、ノンフィクション、翻訳書など「書くこと全て」に精力的だが、長編小説に関しては日本人作家としては寡作で、今作で14作目。「初期はヴォネガットやチャンドラー、カフカなど海外文学の影響が強かったが、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』あたりから、寓話や神話、人間の意識下にあるものに関心があるようです」(永江氏)。
新潮社/各巻1800円(税別)
(日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2017年3月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。