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山口友由実さん ウィーンのピアノで「謝肉祭」

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ピアニストの山口友由実(ゆうみ)さんがオーストリアの名門ピアノメーカー「ベーゼンドルファー」の最新モデルを弾いてCDデビューした。ウィーン郊外で録音したCDの主要曲はシューマンのピアノ曲集「謝肉祭」。2月の欧州は謝肉祭の季節。日本にまだ1台しかないこのピアノを弾きながら、シューマン作品の魅力を語る。

ハイドンとシューマンがつながるアルバム

カーニバルやファッシングと呼ばれる欧州の謝肉祭。ドイツやオーストリア、イタリア、フランスなどの各都市で開かれるキリスト教の行事だ。仮装行列が街を練り歩き、楽器を鳴らしたり、踊ったり、山車からキャンディーを投げたりする。冬の欧州で春や南国風情に憧れるエキゾチックな雰囲気があるせいか、謝肉祭を扱った楽曲や歌は数多い。ドイツロマン派の作曲家ロベルト・シューマン(1810~56年)にも「謝肉祭 作品9」と「ウィーンの謝肉祭の道化 作品26」の2つのピアノ曲集がある。

山口友由実さんが2016年10月に出したデビューCD「Carnaval~音列の風景たち~」にはシューマンの「謝肉祭」が収められている。日本女子大学付属高校を経て東京音楽大学・大学院修了。ウィーン国立音楽大学に留学し、同大学院ピアノ室内楽科を満場一致の最優秀で修了した。現在はウィーンと東京を拠点に活躍する若手ピアニストだ。「『ベーゼンドルファー』の音色に感動したのが留学の理由の一つ」と言うほど、ウィーンゆかりのピアノにこだわる。「ウィーン国立音大でも弾いてきた。デビューCDはハイドンとシューマンの曲をベーゼンドルファーで録音したいと考えていた」と話す。

山口さんが訪れたのはウィーン郊外のウィーナー・ノイシュタット。直訳すれば「ウィーン新町」。ここにあるベーゼンドルファーの製作現場を見学した。オーストリアの首都、音楽の都ウィーンが世界に誇るピアノはいまだにすべて手作りだ。「製作に携わる人たちが誇りを持っていた。工場内を見て回り、試奏するうちに、会社の方々がレコーディングを承諾してくれた」。16年3月、「ウィーン・ベーゼンドルファーショールーム」で最新の「モデル280VC」を日本人として初めて弾いてレコーディングした。現時点で日本に1台しかない同モデルのメーカー小売価格は税抜き2100万円。2月12日のトッパンホール(東京・文京)での「CDデビュー記念リサイタル」でもこのピアノを弾く。

シューマンの「謝肉祭」は「もともと大好きな曲で、最初のCDにぜひ収めようと思った」。ただ、「謝肉祭」を中核に据えながらもアルバムの構成は凝っている。ウィーン古典派のハイドンの「ピアノソナタ第60番」から始まり、山口さん自らが作曲した「ハイドンの名による断章」を経て、ダンディ、ラヴェル、ドビュッシーらによる「ハイドン(HAYDN)」の名前を音列にした曲が続く。このフランス近代作曲家3人の各作品は、ハイドン没後100年の1909年にパリで「HAYDN」のスペルを「シラレレソ」の5音列に置き換えたアナグラム作品の公募があり、それに参加した曲だという。さらにドビュッシーの「喜びの島」「月の光」という人気曲を経て、ファンタジーの気分を高めたところでようやくシューマンの「謝肉祭」へと入っていく。一見どんな関連性があるのか分からない「なぞなぞ」のようなアルバム。ハイドンとシューマンがフランス近代音楽を経由してつながる。

ハイドンはウィーンゆかりの作曲家。独ツヴィッカウ出身のシューマンも音楽家としての成功を夢見てウィーンに半年だけ住んだことがある。2人の曲をベーゼンドルファーで弾くとなると、テーマの一つは「ウィーン」だ。一方、「HAYDN」を音列に置き換えた小品が次々に登場し、ハイドンからシューマンに橋渡しする。そこでアルバムの基調を成すもう一つのテーマが「音列」だと分かる。ならばシューマンの「謝肉祭」にも文字による音列の謎解きがあるはずだ。

「私の個性を出すために、音列というテーマにこだわった。メインに置いたシューマンの『謝肉祭』には『4つの音符による面白い情景』という副題が付いている。単に面白いキャラクターを並べた曲集ではない。『HAYDN』のアナグラム作品と同様、文字の音列化という遊びが隠されている」と話す。その音列を形作るスペルが「ASCH」だ。

「ASCH」をめぐるスフィンクスの謎かけ

「ASCH」とは何か。若い頃のシューマンは、妻になるクララに恋心を抱く一方で、「エルネスティーネ・フォン・フリッケンという男爵令嬢が好きになり、彼女の出身地がアシュという町だった」と山口さんは言う。現在チェコ領でドイツとの国境の町アシュはドイツ語によるつづりが「Asch」。これを音名で表記すると「As-C-H(ラ♭-ド-シ)」「A-Es-C-H(ラ-ミ♭-ド-シ)」になる。「AとSCHの文字が自分の名前(SCHUMANN)にもあることをシューマンはしめしめと思ったに違いない」。こうして音列遊びがちりばめられた求愛のピアノ曲集「謝肉祭」が生まれた。

映像では、山口さんが「謝肉祭」の1曲目「前口上」を試奏している。さらにASCHに基づく音列がまずはっきり表れる2曲目「ピエロ」の冒頭部分も弾いて説明している。9曲目にあたる「スフィンクス」という、曲ともいえない音列だけの番外曲についての説明も面白い。ASCHに基づく3種類の単音の音列を左手で弾くだけの30秒程度の曲。音符は4つと3つと4つの計11個しかない。「シューマンが音列だけの『スフィンクス』を曲集の真ん中(8曲目と9曲目の間)に置いたのは興味深い」。誰でも弾けるほど簡単なので「『スフィンクス』を弾かないピアニストは多いが、私は音列にこだわったのでCDにも入れた」。彼女のCDでは「スフィンクス」の謎かけ効果で、続く「蝶々(ちょうちょ)」という曲のASCHの音列がくっきり浮かび上がる。

人間味のあるユーモアが感じられる音楽

「シューマンとハイドンはユーモアのセンスが似ている。2人ともすごく人好きだったと思う。人間味のあるユーモアが音楽から感じられる」と山口さんは話す。「シューマンの作品を弾くにはユーモアの感覚が必要になる」。とりわけ「謝肉祭」では「よく見つけたなと思うほど極端なキャラクターが多い」。シューマンの分身としての架空のオイゼビウスとフロレスタンをはじめ、ピエロやクララやエルネスティーネからショパンやパガニーニまで。仮装行列のようにぞろぞろと出てくるキャラクターを「俳優みたいにパッパッと変えていく」といった機転の利いた演奏が求められるという。

「シューマンはウィーンの舞踏会の華やかな雰囲気に憧れていた」と山口さんは指摘する。今でもウィーン各所で催される舞踏会に、山口さんもドレスアップして参加したことがある。「『謝肉祭』の中でも『高貴なワルツ』や『散歩』といった曲はとてもウィンナワルツっぽい」。機知とユーモアあふれるシューマンのピアノ曲を弾くのに「ベーゼンドルファーの音色は合っている。ハーモニーを弾いた時に、いろんな音が共鳴し合って、豊かな音が出る。温かでぬくもりのある音。音楽が生活に溶け込んでいるウィーンらしさが出る」と説明する。

「謝肉祭」の名盤は数多い。曲集のすべての要素が詰まっている終曲「ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」を聴き比べてみた。ドイツの巨匠ヴィルヘルム・ケンプの定盤は、遅めのテンポで、引っ掛かりのある凸凹した感じが、風変わりなキャラクターたちをユーモラスに描く。一方、シューマンのピアノ曲全集を録音したフランスのエリック・ル・サージュによる1996年録音盤は、非常に速い演奏で、音楽がスムーズに進んでいくが、スタインウェイのピアノの音色がややこもりがち。角のとれた響きは流麗でスマートだが、どこか物足りなさが残る。

これに対し、山口さんによる「ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」は、高速ながら細かいところまで強弱やアクセントなど音のメリハリが行き届いている。それでいて予定調和にはならず、ダイナミックなライブ感がある。この終曲の「行進」は「3拍子の行進曲」という風変わりなものなのだが、くるくる回る素早いワルツにも聞こえる。「『謝肉祭』の最後の2曲は、通して弾いた録音が一番エネルギッシュだった」と山口さんは収録したテークについて話す。ライブ演奏のスピード感あふれる推進力があるわけだ。「スフィンクス」の謎かけも解き明かし、春を待つ華やかな祝祭感に満ちて全曲が終わる。新たなシューマンの姿が音列からスリリングに立ち現れてきた。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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