日経ナショナル ジオグラフィック社

ブレーキをかける方法とは?

遠くにある恒星の光をブレーキとして利用するアイデアは、太陽の光で宇宙船を走らせる太陽帆(ソーラーセイル)の原理から生まれた。反射率の高い材料でできた巨大で超薄い帆は、海上の船の帆が風をとらえるのと同じように、太陽の光子をとらえて光圧により宇宙船を進ませる。(参考記事:「NASAがソーラーセイル探査機、広がる可能性」)

光子を利用して宇宙船を推進することができるなら、風を利用して帆船を加速したり減速したりできるように、宇宙船が目的地に近づいたときに減速させるのにも使えるはずだ。

ヘラー氏とヒプケ氏が発表した論文によると、宇宙探査機の重さは石けん1個分ほどで、推進力を得るための帆の大きさは9万平方メートル(サッカー場およそ14面分)以上が必要になるという。

アルファ・ケンタウリは、南半球からよく見える青みがかった明るい星で、地球からわずか4光年のところにある三重連星だ。(PHOTOGRAPH BY ESO)

探査機は、太陽の光を巨大な帆に受けながら、アルファ・ケンタウリ星系を目指す。目的地に近づいたら帆の向きを変え、今度はアルファ・ケンタウリから届く光子を利用して、効率的に停止することになる。

そこで、アルファ・ケンタウリの明るいA星とB星を周回する軌道にとどまってもよいし、2つの星の重力をうまく利用してプロキシマに向かい、その軌道に入ることもできる。

いずれにせよ、探査機はプロキシマの間近で、慌てることなくデータの収集や撮影をし、それらを地球に送ることが可能となる。

「プロキシマは興味深い存在です。なぜなら、生命が存在できる『ハビタブル・ゾーン』の内側に惑星があることがわかっていますから」とヒプケ氏。

ゆっくりと、着実に

ヒプケ氏らのアイデアには説得力があるが、目的地への到達には人間の寿命より長い時間がかかってしまう。太陽光に押されてアルファ・ケンタウリを目指す探査機が太陽系の外に出るときの速度は、光速の4.6%にしかならないからだ。

この速度では、探査機がアルファ・ケンタウリ星系に近づくまでに約95年かかる。そして、アルファ・ケンタウリからの光を利用して減速した後、プロキシマに到達するのにさらに46年かかるという。つまり、探査機が集めたプロキシマに関するデータを受け取るのは、私たちの子孫ということになる。

ブレイクスルー・スターショット計画の諮問委員会を率いるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのアヴィ・ローブ氏は、「スターショット計画のコンセプトにとって何よりも重要なのは、人間の寿命内にアルファ・ケンタウリに到達するという点なのです」と言う。「私たちが計画しているレーザーアレイは、太陽の100万倍の光圧で帆を押すことができるのです」

そんな高速で飛行する探査機は、恒星の光だけで止めることはできないが、はるかに早くたどりつける。ローブ氏はまた、ヒプケ氏とヘラー氏が提案する大型で超軽量の帆は、まだ存在していない材料をあてにしていると批判する。

とはいえ、材料科学のめざましい進歩は、探査機の軽量化と高速化を実現する極薄の帆を生み出すだろう。

「グラフェンを大量生産して、特殊な光学特性をもつメタマテリアルでコーティングすれば、もう目的地に着いたも同然ですよ」とヒプケ氏。「あとは、センサーや通信用レーザー、スマートフォンに使われているような部品をいくつか追加するだけでいいんです!」

(文 Nadia Drake、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年2月6日付]

注目記事