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松方弘樹さんの命を奪った「脳リンパ腫」とは何か

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日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス
経済や株式のニュースと一緒に流れてくる有名人の病気のニュースや訃報。闘病生活に思いを馳せるだけでなく、明かされた情報から、私たちは学ぶことがあるはずです。このような報道から何を受け取ればいいか、病理医の榎木英介さんが読み解いていきます。

2017年1月21日、俳優の松方弘樹さんが脳リンパ腫で死去した。74歳だった。

私たちの世代にとっては、時代劇の重厚な演技とともに、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で見せたひょうきんな表情が記憶に残っている。ご冥福をお祈りする。

報道によれば、昨年(2016年)脳リンパ腫と診断され、闘病に専念していた。だが、昨年5月ごろからは意識がはっきりしなくなり、最後には体重が40キロまで減っていたという。

脳リンパ腫とは?

300キロを超える巨大マグロを釣り上げるほど豪快な人をやせ衰えさせ、死に至らしめた「脳リンパ腫」。……この病名を聞き慣れない人も多いと思う。

私たち病理医が「脳リンパ腫」と聞いて思い浮かべるのは、「中枢神経系原発悪性リンパ腫」だ。そのほとんどが、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」である。

悪性リンパ腫はリンパ系組織の悪性腫瘍で、リンパ節などに発生することが多いが、脳を中心とする中枢神経に発生し、他の組織には影響を与えないものを「中枢神経系原発悪性リンパ腫」と定義している。

発生頻度は脳腫瘍の2~4%、悪性リンパ腫の1%未満とされる。発生年齢は45歳から80歳で60代が多い。治療しなければ数カ月で亡くなる。

中枢神経に発生するので、ぼんやりしている、おかしなことを言うなどの精神症状が生じる。また、悪性リンパ腫の細胞が脳の中で増えることにより、脳が圧迫され、頭痛を感じたり、気持ちが悪くなり吐いてしまうなどの症状が出る。けいれんも生じることがあり、目が見えにくくなるといった目の症状が出ることもある。

治療法は抗がん剤投与(化学療法)と放射線療法だ。悪性リンパ腫は抗がん剤が比較的効きやすい種類のものが多く、悪性リンパ腫に関しては「がんと闘うな」という医師はいない。しかし、脳リンパ腫に特有な問題点がある。脳には「血液脳関門」と呼ばれる、脳外から入り込む物質を選り分ける部分があり、抗がん剤が脳の中に入りにくいのだ。だから通常の抗がん剤が効かず、脳以外に発生した悪性リンパ腫とは異なった抗がん剤を使うか、放射線を脳にあてるといった治療法を選択することになる。

脳リンパ腫の中で最も多い「中枢神経系原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の治療は、メトトレキサートと呼ばれる薬を大量に使うことが中心だ。メトトレキサートは血液脳関門を通過するが、それでもわずかにしか通過しないので、大量に用いることが不可欠だ。

近年治療法が進歩し、5年以上生存する率も高まってきたが、治療により脳がダメージを受けてしまうことが問題となっている。

脳悪性リンパ腫が人を死に至らしめる理由

脳悪性リンパ腫で最も多い、中枢神経系原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の「予後」(どれくらい生きられるか)を決めるのは何だろうか。いろいろな研究があるが、年齢と、日常生活をどれだけ送れるかを示す指標であるパフォーマンスステータス(PS、[注1])が関わっているといわれる。年齢が高いほど、また、PSが高いほど、予後が悪いとされている。

死に至る原因としては、他のがんと同じように、がん悪液質[注2]や腫瘍が重要な臓器を破壊することによる機能低下などが挙げられる。さらに、頭蓋骨で囲まれた「閉じられた空間」である脳で悪性リンパ腫の細胞が増えることにより、脳へ圧迫などのダメージが加わりやすい点は、脳リンパ腫の特徴といえる。

また、悪性リンパ腫の細胞増加や治療による免疫力の低下が感染を引き起こしたり、長い間横になっていることで誤嚥(ごえん)が起こったりすることも、直接の死因になることがある。

[注1] パフォーマンスステータス(PS):日常生活がどの程度制限されているかを、0~4の5段階で示す指標。まったく問題なく活動できる場合は0、激しい運動は無理だが家事など軽作業はできる場合は1というように、数値が高くなるほど制限度が上がる。
[注2]がん悪液質:がんの進行に伴って起こる、病的な消耗や低栄養などによる全身の衰弱状態。

病理医として感じること

私たち病理医が、悪性リンパ腫を診断することは決してまれではない。ただ、悪性リンパ腫の場合、細胞を顕微鏡で見ただけでは「悪性リンパ腫かもしれない」と思うことはできるが「これが悪性リンパ腫だ」と断定することができない上、悪性リンパ腫の種類も分からない。そこで、悪性リンパ腫の可能性を少しでも疑った場合には、病理検査に「免疫組織化学染色」という方法を用いることが必須となっている。

免疫組織化学染色とは、腫瘍など病気の細胞が持っているたんぱく質の種類を同定する方法であり、私たちは日々この方法を用いて様々な病気の種類を決めている。この方法についてはいずれ解説したいが、悪性リンパ腫の病理検査で免疫組織化学染色を行うことは健康保険(公的医療保険)で認められていて、悪性リンパ腫診断にとっては必須の方法となっている。

しかし、悪性リンパ腫は種類も多く、また、免疫組織化学染色を行っても、診断が難しいことが多い。だから、悪性リンパ腫を専門にしている病理医に標本を送り、意見を聴くこともしばしばある。

悪性リンパ腫には、腫瘍の進行度合いによって低悪性度、中悪性度、高悪性度の3タイプがある。低悪性度のリンパ腫の場合は、進行は年単位であり、患者さんの状態をよくみながら診断、治療を行っても間に合う。中悪性度のタイプになると、月単位で進行しており、なるべく早く治療を開始する必要がある。そして、高悪性度の場合は週単位で進行しており、すぐにでも治療に入らなければならない。

高悪性度のタイプが進行すると、1日単位で容態が悪化することもある。病理標本ができて、見た瞬間に「これは最も悪いタイプの悪性リンパ腫だ」と思って、急いで臨床医に電話をかけたら、既に患者さんが亡くなっていたこともある。そんなときは、病理診断の無力さを痛感し、唇をかむ。この悔しさは忘れられない。

悪性リンパ腫克服に向けて

私たちは、患者さんをなんとか助けたいという思いで、日々顕微鏡を覗いている。幸い、効く抗がん剤が開発され、患者さんが以前より長く生きられるようになってきたが、まだ根治には遠い。

最近、東京大学医科学研究所が、白血病の診断に人工知能(AI)を用いることで、白血病の種類を同定でき、患者さんが回復したという報告があった。悪性リンパ腫も、種類が多く、診断に苦しむことが多い。悪性リンパ腫の診断にもAIが役に立つ可能性がある。

1月31日には、大相撲の元小結・時天空(間垣親方、本名:時天空慶晃=ときてんくう・よしあき)さんが悪性リンパ腫で亡くなった。37歳の若さだった。まだまだこれからという年齢だけに、さぞ悔しかったことと思う。

志半ばで亡くなる人を減らすためにも、また診断が間に合わず、救うことができなかった患者さんがもう出ないためにも、悪性リンパ腫の診断、治療はあらゆる手段を用いた「総力戦」が求められているといえるだろう。

■参考資料
東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科「中枢神経系原発悪性リンパ腫」
脳神経外科疾患情報ページ「中枢神経系原発悪性リンパ腫」
日経デジタルヘルス「人工知能はどこまで医師をサポートできるのか」
榎木英介(えのき・えいすけ)
 近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医。1971年横浜市生まれ。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒、神戸大学医学部医学科卒。神戸大学医学部附属病院、兵庫県赤穂市民病院などを経て、近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師(病理学教室、病理診断科兼任)。病理専門医、細胞診専門医。著書に「嘘と絶望の生命科学」 (文春新書 986)、「医者ムラの真実」(ディスカヴァー携書)、「わたしの病気は何ですか?――病理診断科への招待」(岩波科学ライブラリー)などがある。

[日経Gooday 2017年2月7日付記事を再構成]

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