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明治時代の日本支えた 世界遺産の街・北九州を歩く

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明治維新以降、西洋の技術を取り入れて急速に近代化が進んだ日本。その一翼を担ったのが八幡村(現・北九州市)だ。背後に控える筑豊炭田から安定的に供給される燃料と、遠賀(おんが)川水系から得られる潤沢な工業用水。この恵まれた条件と、熱意ある炭鉱マンたちに支えられて北九州は急速に発展した。この街を歩くと、日本の未来を夢見て歩き続けた人々の息吹が聞こえてくる。2015年7月に世界遺産として登録された4つの施設を道しるべに、この街を歩いてみた。

「1901」が刻まれた溶鉱炉

どこの駅を降りても、工場の煙突が見える――。JR鹿児島本線は、北九州市の門司港から福岡市・博多を経由して鹿児島駅へ向かう九州の大動脈だ。その玄関口である門司港駅から博多方面に向かう電車に乗ると、小倉駅を過ぎたあたりからおびただしい数の工場が見えてくる。かつて四大工業地帯の一つ、北九州工業地帯とよばれ、日本の発展を支えてきた工場群だ。

電車でスペースワールド駅を通過するころ、眼前に「1901」と刻まれた巨大な高炉がそびえる。1972年まで実際に鉄を生産していた、「東田第一高炉」だ。この駅を降りると、2015年7月にユネスコより世界遺産として登録された「明治日本の産業革命遺産」の施設である、官営八幡製鉄所(現・新日鉄住金八幡製鉄所)が建てた「旧本事務所」「修繕工場」「旧鍛冶工場」がある。

「明治日本の産業革命遺産」は8県にまたがる23施設の総称だ。このうち「八幡エリア」として登録されたのが、旧本事務所から約17キロメートル離れた場所にある「遠賀川水源地ポンプ室」(中間市)を含めた計4つ。いずれも、新日鉄住金の敷地内にあり、「修繕工場」「遠賀川水源地ポンプ室」は建設されてから100年以上経過しているにもかかわらず、いまだ稼働する現役の施設だ。稼働中の施設が世界遺産として登録される例はきわめて珍しい。

現在も稼働しているため、一部のツアーを除き4施設とも中に入ることができない非公開の施設だ。今回は、一般公開されている旧本事務所を臨める眺望スペースで、北九州市世界遺産課の向井正人係長にこの建物の持つ物語の味わい方を教えてもらった。

ストーリーが評価された

今回の遺産群は、近代日本を支えたストーリーそのものが世界で評価された、といっても過言ではない。ちっぽけな島国日本が、100年足らずで西洋の技術を学び、経済大国へと変化を遂げた特異なプロセスは世界でも類を見ない。その礎となった重工業の要が「石炭」「鉄鋼」「造船」の3つだ。なかでも、主に20世紀に入ってからの飛躍的な成長に大きな貢献をしたのが旧八幡村に作られた官営八幡製鉄所と、長崎県に広がる三菱長崎造船所、通称「軍艦島」と呼ばれる端島炭鉱、そして福岡県大牟田市、熊本県荒尾市にまたがる三池炭鉱だ。

「鉄は国家なり」支えた人々

「鉄は国家なり」――。ドイツの鉄血宰相ビスマルクの演説に由来する言葉だ。19世紀後半から20世紀、列強諸国はこぞって鉄鋼に代表される重工業を国家プロジェクトとして位置づける。しかし、この事業はいくつかの地理的な条件を満たすことが必要だった。

製鉄のしくみは、原料の鉄鉱石とコークス(蒸し焼きの石炭)を高温下で化学反応を起こし、不純物を取り除いて「鉄」を取り出すというものだ。八幡村に白羽の矢が立ったのは、近くに天然の良港があり、その後背地に国内有数の産炭地だった筑豊炭田があったからだ。

筑豊本線の直方駅は、筑豊炭田の入り口である。「直方は、今の日本を支えた街。直方がなければ日本はない」と熱をこめて語るのは、直方市石炭記念館の館長で旧国鉄マンだった八尋孝司さんだ。自分もSL乗務員としてディーゼルに乗っていた。炭鉱をつねに身近に感じていた八尋さんならではのユーモアと愛情あふれる語り口にひかれて訪れるファンも多い。

「最近、大学生が増えましたね。ドラマの影響みたいで」と説明してくれた。博物館にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」で仲間由紀恵さん演じる葉山蓮子のモデル、柳原白蓮(びゃくれん)が嫁入りした筑豊の炭鉱王・伊藤伝右衛門、現財務大臣である麻生太郎の曽祖父・麻生太吉、安川電機の創始者である安川敬一郎など、明治期の傑物らの貴重な写真が飾られる。「若い頃の彼らが日本の未来を夢見て議論していた同じ場所に私たちは立っているんですよ」

炭鉱は、過酷な労働環境でもあった。飯塚市に生まれ、炭鉱労働者だった絵師・山本作兵衛の緻密な記録画は、その命と隣り合わせの当時の「ヤマ」での作業風景を今の私たちに教えてくれる。「歴史に名前が残らなかった人たちが、文字通り血を流していたことも忘れないでほしい」(八尋館長)

採掘された石炭は、遠賀川を下り五平太船と呼ばれる川船で若松湾まで運ばれていた。その中継地だった折尾駅には、当時の風情を残したままの飲み屋街がある。駅を出てすぐにある遠賀川の支流・堀川は、江戸時代に作られた人工の運河として人々の生活を支えていた。今はもう、五平太船は走っていないが、狭い路地には当時の面影を残したままの小さな飲み屋が立ち並ぶ。

製鉄では、鉄を冷やすための潤沢な水も欠かせなかった。八幡エリアでもう1つ登録されたのが、中間市の遠賀川水源地ポンプ室だ。官営八幡製鉄所の鋼材生産量を2倍にする拡張計画に対応するため、1910年に建設された。100年以上前に建設されたれんが造りのレトロな建物は、今でも八幡製鉄所の生産に必要な水の約7割を送る現役の施設として今も稼働中だ。

根強い旧五市の個性

「世界遺産に選ばれたことはうれしい。しかし、地元の人たちはどこかピンときていないように見えて……」。そう話してくれたのは、北九州市観光課の井上泰治主任だ。世界遺産登録のニュースに、地元が喜んだことは間違いない。小倉駅を降りれば、「世界遺産のまち北九州」という垂れ幕がそこかしこに飾られる。ではなぜ、しっくりこないのか。どうやら、北九州市のなりたちが大きく起因しているようだ。

 北九州市とは1963年、小倉・八幡・戸畑・門司・若松の五市が合併してできた街だ。50年以上たっているにもかかわらず、地元の人たちはいまだに旧市の帰属意識が強い。育てられた子どもたちも、親の影響を受けているのか、無意識に旧市への思いを持っている。「八幡で起きたことやけん」と、どこか違うエリアで起きたニュースのように受け止める。その事実は、現地に訪れる人たちの数にも表れた。「人口が100万人近くいるのに、訪れた人がのべ8万人くらいしかいなくて。地元の人もきていない、ということですよね」

「鉄の味」どこまでも

度重なる戦争を経て、製鉄の街は軍事都市としての色合いを強めていく。北九州市にある小学校は、かつて夏休み中にもかかわらず8月9日を登校日として定めていた。長崎に原子爆弾が投下されたその日、本来の候補は小倉だったといわれており、その日に平和に関する授業を実施するためだ。今は夏休みの登校日はなく、7月を平和月間と定め、授業をしている。

戦後の復興を支えたのもまた鉄だった。北九州市は戦後、製鉄所を中心に戦後の復興期を乗り越えた。しかし、北九州市は政令指定都市のなかでも、特に産業構造の変化に影響を受けた街だったかもしれない。今や、人口は100万人を割り、政令指定都市のなかでは高齢化がもっとも進むエリアでもある。「四大工業地帯」ともてはやされた時期は終わりをつげ、小学校の授業では「かつては四大だったのですけれどね」と北九州が外れ「三大工業地帯」となったことを自嘲気味に教えられることもある。

それほど「鉄」に懸け、心血をそそいできた反動だったのだろうか。その後、北九州は2011年に経済協力開発機構(OECD)のグリーン成長モデル都市にアジア地域で初めて選ばれ、エコシティとしての取り組みを始めた。課題が大きかったからこそ、新しい取り組みへのチャレンジも早い。

とはいえ、「工業都市・北九州」の看板は、今も決しておろしていない。今日も街のいたるところで灰色とさび色の工場から白い煙が出続ける。年に一度、北九州市の秋の風物詩として地元の人に愛される「起業祭(まつり起業祭八幡)」は、1901年の官営八幡製鉄所の「作業開始式」を起源に持つ。「北九州の街そのものが、産業遺産だという人もいます」という井上主任の言葉もうなずける。100年以上前の息吹が、街のあちこちで感じられるまま、次の一歩に進もうとしているのだ。

「変わったものなんですけど」と、北九州商工会議所の方に教えてもらったお菓子を手にしてみた。「鉄平糖」と書かれた箱に入った、一見普通のコンペイトウだ。若松と戸畑の間を横切る洞海湾の上、真っ赤な若戸大橋を走る車で、眼下に広がる巨大なコンビナートを見ながらコンペイトウをかじってみた。口のなかに血の味が広がった。なるほど、鉄平糖。観光の商品も、「鉄」から逃れられないのだろうか――。この武骨な味こそ、北九州の屋台骨。「若松市」で生まれ18年過ごした記者は、愛する故郷をあとにした。

(松本千恵)

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