進化する社会的責任投資 ESGに期待(安東泰志)ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2017/2/20

カリスマの直言

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「金融機関は資産を預かった顧客の利益を最重視する姿勢が求められている」

米国のトランプ大統領が金融規制を見直す大統領令に署名した。オバマ前政権が2008年の金融危機の再発防止を狙って導入した「金融規制改革法」(ドッド・フランク法)が主な対象だ。だが、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は「金融危機前の状態を繰り返そうという考え方は非常に憂慮すべきこと」と懸念を表明するなど、国際的に同調する動きは少ない。

10年のドッド・フランク法成立の背景には、実際にはリスクの高い商品をそうでないように誤認させて販売し、巨利を得ていた金融機関や、高利を求める投資家の姿勢が「グリード(強欲)」と批判を浴びたことがある。

それから7年。トランプ政権による規制緩和の動きとは裏腹に、国際的には規制はむしろ強化される流れにある。金融機関は以前のような無責任な経営は許されなくなり、社会的責任を意識した投融資を行おうという姿勢が強まっているのだ。

金融機関に問われる「受託者責任」

日本の金融庁は16年10月に公表した「金融行政方針」の中で、「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)を盛り込んだ。金融機関は資産を預かった顧客の利益を最重視すべきだという考え方だ。つまり、運用会社は投資家に対する受託者責任に基づいて投資家利益を極大化する責務がある。また、銀行も融資を行なう際には、資金調達元である預金者や社債の債権者、そして株主の利益を考える必要があるということだ。

たとえば、高収益で財務基盤が強い企業は、銀行の審査の目線では優良な融資先であろう。しかし、仮にその企業の高収益性が、発展途上国における人身取引、強制労働など一種の奴隷制度によって成り立っているとしたらどうだろう。そういう企業を融資で支援することは、長い目で見ると世界の人々の格差を拡大し、社会の不安定度を増し、結果的に銀行の安定的な収益機会を奪ってしまう可能性がある。

英国では15年3月に、現代の奴隷制を防止する法律である「Modern Slavery Act」(現代奴隷法)が制定されている。日本でもいわゆる「ブラック企業」が問題になっており、銀行や運用会社は社会的に適切な投融資かを判断する上で、企業の目先の財務状態だけでなく、企業のサプライチェーン全体を見渡す必要に迫られている。

一方、社会問題の発生を防止するためという観点ではなく、より積極的に社会に貢献する中で収益機会を見いだす例もある。途上国の貧しい人々に小口無担保融資を提供するグラミン銀行のような存在だ。銀行を設立したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏はノーベル平和賞の受賞者でもある。IT(情報技術)と金融を融合したフィンテックの一分野である個人間のお金の貸し借りを仲介する「P2P」(ピア・ツー・ピア)は、まさに小口無担保融資を実現するものであり、この分野へのベンチャーキャピタルによる投資は社会問題の解決に大きく役立つだろう。

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国連も「責任投資原則」を制定