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睡眠

頭も体も測定機だらけ 睡眠研究はココまでやるの?

2017/3/7

■立てば覚醒し、横たわれば眠気は増す

ここまで体の動きや姿勢を制限する理由は、上半身を起こす、立ち上がる、あるいは横になるなどの行動はそのまま体温や眠気に大きく影響するためである。

心臓から送り出された血液は体中あまねく行き渡るが、特に脳への血液供給はきわめて大事である。起立時には重力に逆らって脳に血液を押し上げる必要があるため、交感神経活動が高まり心拍数が増加し、手足などの末梢血管は収縮して血圧を高め、脳への血液量を確保する。また、行動すること自体が覚醒に関わる脳内神経核の活動を高め覚醒度は上昇する。

逆に、横になるとそれだけで眠気は強くなる。この場合は心臓への負担が軽減し、末梢血管が拡張するわけだが、眠気をもたらす主な要因は交感神経や副交感神経ではなく脳の温度の低下である。

体を横にしたときに血流量が特に増えるのが手のひらや足の裏の皮膚表面を走る毛細血管だ。心臓から出た温かい血液はこれら外気温に近い手足の皮膚表面を通って冷やされる。汗をかいていれば、気化熱によって冷え方はさらに大きくなる。そして冷えた血液が心臓から脳へと再び流れて脳が冷やされる。つまり、手のひらや足の裏はエンジン(脳)を冷やす一種のラジエーターのような役目をしている。このような体温変動と連動して眠気が徐々に強くなるのである。

頭部の測定カ所。(写真:三島和夫)

実は普段の生活でも、体内時計の指令で同じようなことが起こっている。就寝時刻に脳が冷え、逆に手足は温かくなる、そして深い睡眠が出やすくなることは時間的に密接に関係しているのだが、その詳しい関係については「お風呂で快眠できるワケ カギは脳温の変化にあり」をご参照ください。

いずれにせよ、たとえ昼間であっても「横になるだけで脳は冷える」のである。そして眠気も強くなる。ちょっくら一休み、と昼休み時間に横になると眠くなるのにはこのような理由があるのだ。受験シーズン真っ只中だが、学生さんは勉強している間に机に突っ伏して寝てしまうこともあると思う。ただ、眠くなったらしっかりと横になって寝た方が良い。交感神経を休め、しっかりと放熱して質のよい睡眠が取れるからだ。

■最新の研究結果が大切なワケ

睡眠や生体リズムのメカニズム研究では体温リズムのパターンを正確に知ることが大切なのだが、このように姿勢1つでも簡単に形が崩れてしまう。そのため、海外には排尿もベッド上で行わせる施設もあるくらいだ。さすがにそうなると被験者を探すのが大変になるので、私たちの施設ではトイレに行かせている。その代わり、トイレに行った後の2時間くらいの体温データは解析できず捨てることになる。

そのほか、ウトウト眠っただけで体温は下がり、食事をとると上がり、水を飲むと下がり、明るくなると上がる。そのため、40時間ほどの間、被験者さんには徹夜をしてもらい、食事は150kcalほどの栄養物や水分を2時間おきに分散して食べてもらい、前回説明したように部屋は暖色系ライトで薄暗くする。

考えてみれば、私たちが食事を早めに済ませて、リラックスし、パジャマに着替え、素足になり、電気を消して、布団で横になる、これら一連の行動は放熱を促して快眠するために必要な行動を取っていることになる。

メラトニンや副腎皮質ホルモンの測定をする場合にも、やはり部屋の照明や心理的ストレスなど固有の影響する要因(マスキング要因と呼ぶ)があるため、室内照度、運動量、視聴物やスタッフとの会話内容など睡眠実験のコンディションを調整するのである。

実験環境をこのように厳密に整えていなかった頃の研究データはあまり当てにならないのだが、「体内時計は25時間周期」のように古く誤ったデータが未だに書籍やネット上で流布しているのを見聞きすると、本コラムで最新情報を紹介する意義もまだまだあるのかな、と改めて思う次第である。

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『朝型勤務がダメな理由』(日経ナショナルジオグラフィック社)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2017年2月2日付の記事を再構成]

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