頭も体も測定機だらけ 睡眠研究はココまでやるの?

2017/3/7

例えば、夜間に十分に寝ていても日中の眠気が強くなるナルコレプシーなどの過眠症の場合、重症例では測定開始から10数秒で眠ってしまう。自転車に乗りながら寝てしまい電信柱にぶつかった、などというエピソードも納得の眠気である。

PSGと反復入眠潜時検査は特殊な検査ではなく、脳波検査室があれば実施できるため睡眠障害を専門にしている一般的な医療機関でも広く行われている。

睡眠研究で眠気を測定するときには、実際に眠らせるのではなく、目覚めた状態で測定した脳波の周波数を分析することもある。覚醒時には14~30Hzのβ波(速波)が主体で、リラックスしていると8~13Hzのα波が増える。眠気が強くなってうとうとまどろむ状態ではα波に代わって4~7Hzの遅いθ波が主体になる。そして深い眠りになれば3Hz以下のδ波(徐波)が出現してくる。このような周波数の変化をリアルタイムで解析する技術も開発されている。

脳波(左)やレム睡眠とノンレム睡眠の区別(右)などのモニター画面。(写真:三島和夫)

運転席で簡単着脱型の装置で脳波を測定することは可能なので、このまどろみ状態を素早くキャッチできれば居眠り運転も防止できる。ところが、覚醒とまどろみは相互に移行しやすくなかなか判定が難しい。そのためまだ実用化には至っていないが時間の問題だろう。自動運転車の登場で不要の技術になるかもしれないが。

私たちの睡眠研究施設では体温もほぼ毎回測定する。このコラムでも何度か取り上げたように、放熱は睡眠・覚醒と密接に関連しているため、睡眠のメカニズム研究では貴重な情報源となるからである(それに安価である)。

36時間以上、トイレ以外は座りっぱなしの実験も

体温といってもわきの下(腋窩)に温度計を挟むのではない。直腸温や体表面の皮膚温を実験期間中(時には何週間も)連続で測定する。皮膚温では温度センサーを鎖骨、へそ、太もも、額、両手背や足底など計10カ所くらいに張り付ける。

これだけでもかなり手間がかかるが、直腸温の測定のためには細くて柔らかい温度センサー付きコードを肛門から10cm以上差し込んでもらう必要がある。実験前に説明するとたいがいの被験者は渋い顔をするが、実際に挿入してしまえばものの10分ほどで違和感は消えてしまう。

ちなみに、直腸温は「深部体温」といって脳や心臓、肺、肝臓など体深部にある臓器の温度である。直腸温は腋窩温より約1℃高い。そして後で説明するが、深部体温と皮膚温の変動には緊密な関係があるため両者を同時に測定するのである。

睡眠に関連したホルモン濃度を測定することも多い(これは費用がかかる)。睡眠研究の場合には1時間おき、時間帯によっては20分おきに、24時間以上にわたり何十回も採血する。毎回注射針を刺されたのでは被験者もたまったものではない。

そこで注射針の代わりにテフロン素材の柔らかく細いカテーテルを腕の血管内に挿入し、キャップをしておく。大変そうに聞こえるかもしれないが、病院ではよく行われる採血法なので心配ない。普通の採血とさほど変わらない手法で挿入でき、いったん挿入しておけば、この管を通して痛みもなく何度も採血できる。

そのほか、手首には微細な体の動きをも計測できる活動量計を、目の近くには浴びている光の量を測定するセンサーを、口元には代謝を測定するために呼気を集めるためのマスクを装着することもある。このように睡眠実験では測定用のコードが体中に張り付き、スパゲッティが巻き付いたフォークのようになる。ここまでやって実験の準備が完了である。

さて、ここから実験のスタートになる。さまざまな実験が行われるが、今回は眠気や体温、ホルモン分泌などの日内変動を正確に測定するコンスタントルーチン法をご紹介する。

リクライニングチェアを使って上半身が斜め30~45°、脚は水平になるように被験者に座ってもらい、そのまま36時間以上過ごしてもらう。その間、隣接するトイレには歩かせるが、それ以外は原則的にチェアから動くのは一切禁止される。要するに座りっぱなしになる。

コンスタントルーチン法の様子。(写真:三島和夫)
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