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介護ロボ特需、現場とズレ 補助金先行、持ち腐れも

2017/2/12

イノフィスのマッスルスーツは、背中に装着する本体に内蔵された人工筋肉が力仕事を軽減する

介護施設がロボット特需に沸いている。国が多額の補助金を出した効果だ。ただ現場の声を聞くと介護ロボットに違和感を感じるスタッフも多く、普及には課題が残る。

「国の補助金を得た受注が昨年後半に1000台あった」。装着型の介護ロボット「マッスルスーツ」を製造販売するイノフィス(東京都新宿区)最高執行責任者(COO)横幕才さんは話す。人工筋肉を内蔵し、介護スタッフが高齢者をベッドから起こしたり入浴介助したりするときの腰の負担が減らせる。

2013年の会社設立後、特需前までの累計の販売台数は約1300台。今は急増した注文への対応に追われる。

人手不足が深刻な介護現場の負担を減らすため、国は13年度から介護ロボットの開発支援を始めた。さらに普及のため15年度の補正予算に52億円を計上した。ロボットというと装着型の機器を思い描くが、手押し車のような移動支援、リフトのような移乗機器、見守りセンサーなど対象は幅広い。これらを介護施設などが購入する際、約90万円を上限に全額を補助する。今年度末までに約5500カ所の施設がこの制度を利用する。

■手のぬくもりに拘泥

民間シンクタンクの試算では15年度の介護ロボットの国内の市場規模は11億円弱。その約5倍の補助金を国が投じるのだから特需に沸くのも当然だ。ただメーカー側は手放しで喜んでもいられない。イノフィスの横幕さんは「正しく機能を理解し使ってもらわないと、『役に立たない』と悪評が立ち、逆に今後の普及の妨げになる」と懸念する。

介護現場ではロボットに否定的な声が根強いからだ。12年に厚生労働省がまとめた報告書では、介護施設の12%が「人の手によるぬくもりあるサービスを理念としており、介護ロボット導入は反対」と答えた。また、「導入したいが、現場で利用できるような有用な介護ロボットがない」との回答も14%あった。

神奈川県の委託を受けて10年度から介護ロボットの普及支援を続ける、かながわ福祉サービス振興会(横浜市)理事長の瀬戸恒彦さんは「今も現場の意識はあまり変わらない。ベテランほど自分のやり方、思いがあり機械の介入に否定的。トップダウンで導入しても、現場スタッフが使いたがらない」と説明する。

■使い勝手悪く

一方で、メーカー側も現場のニーズを吸い上げ切れていない。全国で有料老人ホームを運営するオリックス・リビング(東京・港)は、ほとんどの介護ロボットを試し、移乗リフトと見守りセンサーを導入した。営業推進課長の入江徹さんは「技術は素晴らしいが、介護の実態に即していない機器がある」と指摘する。

装着型ロボットは脱着に時間がかかり、高齢者が「トイレに行きたい」と言ってから着ていては間に合わない。しかも「人の手で持ち上げられるのは痛いから嫌だ」という高齢者が実は多かった。「介護者の負担の軽減はリフトで十分。先端技術に飛びつく前に使い勝手を見極めないと宝の持ち腐れになってしまう」

こうしたメーカーと介護現場のミスマッチを解消する取り組みも始まっている。イノフィスは福島県内の特別養護老人ホームにマッスルスーツを提供し、使い勝手を試してもらっている。現場の生の声を製品開発につなげる。

高齢化する日本は35年に介護スタッフが68万人不足するとの推計もある。東京都が15年度に20~60代を対象にした調査で、7割の人は見守りや移動支援のロボットを利用したいと答えた。介護施設の入居者の中には「機械より、知らない人に触れられる方が抵抗感がある」という人もいた。介護する側が思うほど介護される側は「人の手のぬくもり」にこだわっていない。

高齢者に寄り添う介護ロボットを開発・定着させていくには、メーカーと介護現場が連携し、双方の意識のズレを解消していく必要がある。

■業界団体、導入を後押し

高齢者住宅経営者連絡協議会が開いた「ロボット介護機器」展示会に多くの施設関係者が訪れた(東京都千代田区)

有料老人ホームなどの運営会社などが組織する高齢者住宅経営者連絡協議会は2月3日に都内で「ロボット介護機器」展示会を開いた。研究から実用化段階に入り、購入可能な介護ロボットは急速に増えている。ただ製品を実際に見て試せる機会は限られるため、協議会がメーカーに声を掛け、今回初めて展示会を企画した。先端技術を知ることで人手不足に悩む介護現場への導入を後押しする狙いだ。介護施設の現場スタッフなど約280人が来場した。

参加メーカーは11社。移乗介助や移動支援、排せつ介助、見守り、コミュニケーション支援など幅広い分野の介護ロボット14製品が並んだ。例えば「RT2」は両手を添えて使用する歩行アシスト機器。起伏や歩行速度に合わせて駆動力が増減する。上り坂では力強く引っ張ってくれ、下り坂ではスピードが上がりすぎないようにブレーキが利く。

「RT2」は足腰の衰えを補助し、高齢者の歩行を助ける

「ネオスケア」は就寝中の高齢者を見守るシステム。設置したカメラとセンサーが高齢者の状況を画像処理して24時間監視。身体を起こしたり、ベッドから下りようとしたり、床下にずり落ちたりしそうになったらケアスタッフが携帯する情報端末のアラームを鳴らし、画像情報を送る。夜間でも常時見回る必要がなくなるので介護スタッフの負担を減らす効果がある。来場した施設関係者は「うちの施設はまだ何も導入していないが、いずれ検討しなければいけない。想像以上に技術が進んでいて感心した」と話す。

協議会は2014年に内部委員会を立ち上げて、ロボット介護機器を評価してきた。森川悦明会長(オリックス・リビング社長)は「介護分野の人手不足は深刻で、必要な労働力を年々採用できなくなってきている。介護ロボットの技術は一定のレベルにきている。いろいろな製品を実際に試してみて、導入のきっかけづくりにしてほしい」と展示会の企画意図を説明する。

高齢者住宅経営者連絡協議会の森川悦明会長

日本の高齢化はこれからが本番。団塊世代が75歳以上となる2025年以降、どうやって介護ニーズに対応するのか。従来通りの人手に頼った人海戦術では成り立たないと森川会長はみる。「今も『介護は人がやるもの』といった意識が残り、介護ロボットの導入に業界全体が積極的とは言いがたい。人の手こそが真心だと考える介護スタッフも多いが、実際に高齢者の声を聞いてみると、そうとも言い切れない。例えば移乗介助。人手による移乗は無理な姿勢を強いられたり、体と体の密着点に加重が集中し痛かったりする。布で包み込み移乗できるリフト形式の介護ロボットの方が『楽でいい』と話す高齢者が実は多い。介護ロボットは、ただ単に人手不足を補う手段ではなく、より良い介護を実現する道具にもなりうる」

普及の課題は現場の意識だけではないという。「日常記録の作成がいまだに自筆で行われるなど介護現場はIT(情報技術)化さえ遅れている。極端な言い方かもしれないが、介護現場の仕事内容や仕方は10~20年前とほとんど変わっていないし、このままだと変わりそうもない。変化の乏しい職場に若い人たちが魅力を持てるとは思えない。介護ロボットの導入で今後介護現場に大きな変革が起こるかもしれない。将来の夢をいだけるような職場環境につくり替えていかないと、若者は介護職をますます敬遠するようになり、人手不足がさらに深刻になる」と森川会長は主張する。

■ネットをのぞくと「機械と人間、すみ分け必要」

ツイッターでは「肉体的な労働が解決される」「力仕事の補助だけでも介護には役立つと思う」など日本の技術力の高さを評価する声があった。ただネット上でも賛否は割れている。否定的な意見は介護現場の当事者らしき人が多いようで「現場じゃ評判悪くて全然普及していない。税金もったいないね」「高いロボット買うぐらいなら給料を上げろ」と手厳しい。

「代替できる作業はロボットに任せ、人らしい温かさを要求する部分を人間がやる。すみ分けが必要」と冷静な分析もあった。先端技術で何ができるかを優先する前に何を任せたいかを考えることも重要のようだ。調査はホットリンクの協力を得た。

(編集委員 石塚由紀夫)

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