揚げ物は腕じゃない、道具だ 「4種の神器」で達人に
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの料理道具を徹底比較。今回は「揚げ物専用グッズ」。家庭ではあまりやらないという人も多いかもしれませんが、男の料理のなかで揚げ物は"華"。そこで、おいしい揚げ物を作るための4種の神器を解説します。
揚げ物をするなら分厚くて大きな鍋が理想
こんにちは、飯田結太です。私にとって揚げ物は男のロマン。揚げ物をおいしく揚げられれば料理の腕も上達すると思うんです。そこで今回は、そんな男のロマンを満たしてくれる調理道具を紹介します。
まずは鍋について。揚げ物用の鍋といえば、銅製や鉄製がよく知られています。特に銅製は料亭や天ぷら専門店などでよく使われている、最も一般的な揚げ物用の鍋。では、家庭ではどうかというと、揚げ物専用の鍋よりも、フライパンや小さな両手鍋を使っている人が多いのではないでしょうか。
では、実際においしい天ぷらやとんカツを作るためにはどんな素材で、どんな形状の鍋がいいのか。
揚げ物を極めるために理想的な鍋は、"しっかりと厚みがあって大きな鍋"です。余裕があるなら、大きければ大きいほど良いと思います。なぜかと言うと、油の量が多いと食材が油の中で泳いで、食材全体に油が行き渡り、早くカラッと揚がるからです。
揚げ物をする場合、最初に油の温度を適温にしても、食材を投入すると一度は温度が下がります。さらに、2投目、3投目のときには油の温度はどんどん下がっていくものなんです。
最初に揚げたものはカラッと揚がっているのに、いろいろな食材を揚げていくごとにだんだんとベチャッ、クタっとしていくことがあります。それは油の温度が上がりきらないうちに次々と食材を投入していることが原因のひとつ。そして、鍋が小さくて油の量が少なかったり、蓄熱しにくい材質の鍋を使っているということも揚げ物をマズくしてしまう理由なんです。
一度に大量を揚げるなら「銅」、油を何度も使いたいなら「鉄」
次に鍋の材質について。揚げ物用の鍋は、銅、鉄、鋳鉄(鋳物)、ステンレス、アルミニウムが一般的です。この中で多くのプロが愛用しているのは銅製です。銅は熱伝導が良い。次に熱伝導が良いのは、アルミニウム、鉄、鋳鉄、ステンレスの順番になります。
プロが愛用している銅製の揚げ物専用鍋は、板厚が2mm以上あるものが多いんです。板厚は厚いほど、蓄熱性が高くなります。だから銅製の厚みのある鍋なら、熱伝導が良いうえに、蓄熱性もしっかりあるんです。ということは、油の温度が早く適温になり、食材を入れて一度は温度が下がってもすぐに適温になるということ。だから、連続して揚げてもカラッと仕上がります。特に天ぷらなどは、お客さんの注文に応じて絶えず揚げていかなければならないので、銅製がいいんですね。ただ、銅製は高額ということがデメリットです。
銅製の次にプロが愛用しているのが、鉄製です。鉄は蓄熱性が高いので、油の温度が下がってもすぐに復活しやすい。また、銅製に比べて価格が半額から3分の1ほどとリーズナブルなので手に入れやすいんです。鉄製には、通常の鉄のほかに、鋳鉄、チッカ鉄のものがあります。
鉄製を選ぶときに注意したいポイントは、板厚です。やはり厚みがあるほど揚げ物がおいしく揚がります。特に鋳鉄製のものだと底の厚みは5mmあるものも多く、蓄熱性は抜群に高くなります。ただし、鉄も鋳鉄もさびやすいのが弱点。使用後は洗剤を極力使わずに洗い、布で拭いたあとには空だきをして水気を完全に飛ばすなどの手入れが必要ですね。
そんな手間がかかるのは面倒という人には、チッカ鉄の鍋がおすすめです。代表的なものは、リバーライトの揚げ物用鍋です。板厚は3.2mmあるので十分。チッカ鉄はさびにくい加工が施されているので、使用後の手入れも上述の2つに比べればラクです。
鉄製で板厚のあるものは、重量もそれなりにあります。なかでも鋳鉄のものは相当な重さ(1kg以上)になります。でも、重いのは揚げ物をおいしく揚げるために最低限必要な要素と思ってください。鉄製で選ぶなら、揚げ物のおいしさを追求したい人は鋳鉄。手軽に揚げ物を作りたいならチッカ鉄のリバーライトがいいでしょう。
もうひとつの選ぶ基準として、揚げ物をする頻度や量によっても適した材質が変わってきます。実は、銅製は油を傷めやすいといわれています。プロは大量の油を一度に使いきってしまい、毎回新しい油に変えるので、銅製を使用していても問題はありません。しかし、揚げ物をしたあとに、油をオイルポットに移して次回も使用するなら、銅製はおすすめしません。この場合は、鉄製、または、アルミニウム、ステンレスがいいでしょう。
軽くて洗いやすい、気軽に使うならステンレスとアルミ
鉄や銅製は重すぎて、メンテナンスも面倒で使いづらいという人におすすめしたいのは、板厚のあるステンレス、またはアルミニウム製の鍋です。どちらもまずさびにくいのが特徴。ステンレスは熱伝導は良くないのですが、蓄熱性は高いので、油に食材を投入する間隔に気を付ければ問題なく多めの揚げ物もおいしくできるでしょう。
食材を投入する間隔を間違えないポイントは、2回目、3回目と食材を投入するときに、油の温度を確かめてから入れるようにすること。板の厚みのある鍋であれば、これさえ守れば大丈夫です。もし少しでも軽い鍋がいいというのであれば、揚げ物専用ではありませんが、ステンレスの多層構造のものがおすすめです。
アルミニウムは最も油を傷めずに品質を保てる材質です。しかし、今まで紹介した材質の中では一番温度が安定しにくい。熱伝導率が高すぎるので、連続して揚げるのは苦手。1~2枚のとんカツなどを揚げるならば問題ないですが、いろいろな食材の天ぷらなどには適しません。ただ、とても軽量で特別な手入れも必要ない材質なので、いつでも気が向いたときに揚げ物を少し作りたいなど、手軽さを求めるならアルミニウムが向いていると思います。
揚げたものは鍋付属の網ではなくバットに移す
次に、食材が揚がったあとはどうすればいいのか。みなさん、網やキッチンペーパーの上において油切りをしますよね。この油切りも揚げ物をおいしく仕上げる大切な工程なんです。
鍋に付いている半月網の上に揚げたものを置いていませんか? これは実はあまり良くないんです。なぜなら、鍋では揚げ物をしている最中。ということは、その熱気と水蒸気が網に当たります。せっかくカラッと揚げたものでも、鍋の上の網に置いておくと、水分や油分を吸ってしまうからです。
揚げたものは素早く網の付いたバットに移しましょう。バットは18-8以上のスペックのステンレス製、またはホーロー製がベスト。アルミニウム製のバットもありますが、アルミニウムは酸性分にすごく弱い材質なので、油が付いたところが黒ずんだり、変色してしまいます。ステンレスには必ずスペックが書いてあります。表示は18-0からありますが、18-8以下のものは油に弱いのでお薦めできません。
また、バットの上には脚付きの網を載せるのがベスト。脚付きであれば、空気が通り、熱がこもらないので揚げ物がべたつかず、揚げたての状態を保つことができます。
油をしっかりろ過できるオイルポット
揚げ物が終わったあと、あまり揚げ物をやらないなら、揚げ油は適切な処置をして捨てたほうがいいでしょう。頻繁に揚げ物をしたり、残り油を炒め物に使うなら、オイルポットに入れて保存しましょう。
オイルポットは、油をしっかりろ過できるメッシュ状の二重の網がついているものがベストです。「ホーローホームピッカー」は、とても細かいメッシュ状の網が二重についているもの。ゴミもほとんど通さずに油をこせるので、油が長持ちします。
また、現在使っているオイルポットでも、油を長持ちさせる方法があります。それは、紙製のフィルターを加えること。網の上に使い捨てのフィルターを置くだけでより油をきれいにこすことができます。また、ろ過パウダー付きのフィルターであれば、さらにろ過能力はぐんとアップ。これなら、毎回フィルター部分を捨てられるので、オイルポットもあまり汚さず、手入れもラクチン。
ただし、注意したいのは、オイルポットに入れておいても油は酸化していくということ。保存は1~2週間、2~3回使用したら廃棄しましょう。また、下記のような状態になったら劣化しているのですぐに廃棄することが大切です。
・使用中に泡が消えにくくなった
・180度くらいで煙が出る(新鮮な油の場合、230度前後まで煙は出ない)
・嫌なニオイがする
・温度が下がったときに粘りが出る
(参考:日清オイリオ「疲れた油の見分け方」)
温度を制するものは揚げ物を制する
揚げ物、特に天ぷらは温度が命です。天ぷらは肉類、野菜、魚介類などいろいろな食材を使います。そして、食材によって油の適温が違うのです。例えば、野菜なら低温のほうがパリっと上がるし、肉類なら160~180度が適温。また、とんカツなどは、220度でさっと揚げた後にじっくり低温で揚げるということもあります。なので、揚げ物をするときに私が必ず使うもの、それが温度計です。
温度計を選ぶときに重要なのは、何度まで測れるかということ。一般的な温度計なら220度まで対応。業務用だと、300度まで対応するものもあります。家庭で揚げ物をする場合は220度前後まで測れれば大丈夫でしょう。
注意したいのは、水洗い厳禁だということ。壊れやすいので気を付けましょう。また可動式のフックが付いているものだと、鍋の深さに合わせて温度計をセットできるので便利。温度計を購入するときは、持っている揚げ物鍋の深さはある程度知っていたほうがいいと思います。
揚げ物をするときにそろえたいのが、専用鍋とバット、オイルポット、そして温度計です。この4つの調理道具を使いこなせれば、揚げ物はぐんとプロの味に近づくはず。あとは、焦らず、怖がらず、油と向き合えば、ちょうどいい揚げどきも分かってきます。さあ、男のロマンを究めましょう!
(ライター 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
[日経トレンディネット 2017年1月26日付の記事を再構成]
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