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堀井美香さん 子離れした今も自分時間は落ち着かない 堀井美香 わたしの足あと(1)

日経DUAL

2017/2/24

日経DUAL

 1995年にTBSに入社し、今年21年目になるアナウンサーの堀井美香さん。現在も『THE 世界遺産』のナレーションやラジオを中心に、第一線でご活躍中です。そんな堀井さんは、大学生と高校生の子を持つママでもあります。20代前半での妊娠・出産。子育てと仕事の両立、子どもの受験や思春期、そして子どもが巣立った後にやってみたいこと……。これまで歩んできた道のりを振り返りながら、今まで明かさなかった思いを語ってくださいました。第1回は、妊娠・出産と仕事復帰、そして実のお母さんとの思い出についてです。

      ◇      ◇      ◇      

(写真:鈴木愛子)

 夫はTBSの同期です。入社後にお付き合いが始まり、彼の人柄を知っていくなかで「この人と結婚したい!」と思いました。それで、人事部の担当者に「結婚したい」と伝えたのですが、まったく取り合ってもらえなくて(笑)。入社したばかりで、これからというアナウンサーが何を言っているんだと思ったんでしょうね。

 夫も私もお互いに仕事が忙しくてなかなか会えないので、一緒に住むしかないと思ったんです。確かに、世間一般の感覚からしたら少し早いのかもしれませんが、私の中では「運命の人に会えた!」という感覚しかありませんでした。

 夫のことは人としても尊敬していましたし、私の気持ちのほうが勝っていて結婚してもらった感じです(笑)。今年で結婚20年になりますが、今も変わらず仲良くしています。

■妊娠を周りに責められているような気がして落ち込む

 入社2年目を迎えた1996年に結婚して、翌年に長女を出産しました。アナウンサーが入社2、3年目で妊娠・出産するのは当時としては異例のこと。今だから言えますが、妊娠を公表したときは、局内からも「今、妊娠するなんて信じられない」と言われました。周りに常に責められているような気がして、精神的にかなり落ち込みました。

 帯番組のレギュラーやゴールデン番組のアシスタントなど、アナウンサーとしてはかなり恵まれた状況にあるのに、妊娠するなんていけないことだったのかもしれない……。つい、そんなふうに考えてしまうくらい、追いつめられていたんだと思います。

 当時の日記を見直すと「産んだら絶対幸せにするからね!」「あなたのことを守る!」なんて言葉が書き留めてあって。強くならなければ!と自分を鼓舞していたんでしょうね。そう思うと、心の底からハッピーな妊娠生活とは言えなかったかもしれません。

 ところが、いざ長女が生まれたら本当にかわいくてしょうがない。「あー、もう他のことなんてどうでもいいや!」って(笑)。一番の宝物に巡り合えたことで、これまでのモヤモヤした思いが吹っ切れていきました。

「いつも私にぺったりくっついて離れなかった娘との1枚」(堀井さん)

■「子育ては一人でやる」と最初から決めていた

 長期間の育休を取る人が周囲にいない中で、1年間しっかり休みを取りました。仕事復帰や保育園のことを考えると、あとで苦労するだろうということは十分に分かっていましたが、娘を自分の手で育てたいという思いが強かったんです。妊娠中にあれこれ悩んだ反動もあったのかもしれませんね。

 娘とは1日中2人でべったり過ごしていましたが、次はこんなことをして遊ぼう!とアイデアがどんどん湧いてきて、子育てに息詰まるようなことはありませんでした。

 テレビをつければ同期や後輩のアナウンサーが活躍していました。でも、その姿を見てもまったく焦りを感じませんでした。ずうずうしい性格ですよね(笑)。それくらい、娘と一緒にいられる時間が充実していたし、楽しかったんです。

 「共働きでも子育ては一緒に」という記事が多いので、こういう話は時代に逆行しているかもしれないのですが……。

 子育てに関しては、最初から自分一人でやろうと決めていました。当時、夫は仕事が忙しく、長期で出張に出てしまうこともありました。夫婦ともに地方出身で、周りに親類縁者もいないし、誰にも頼れない状況。もう、すっぱり割り切りました。

 だから「夫が何もしてくれない」とか、「保育園の送り迎えもやってくれない!」なんて不満を覚えることもなかったし、たまの休みの日に娘と夫が遊んでいる姿を見ると「ありがたいなー」なんて思えてしまうほどでした。わが家だけが特別だったのではなく、1990年代後半はまだまだ「子育ては母親が中心」という感覚が一般的だったような気がします。

 イクメンという言葉も、そのころはまだありませんでした。「母親一人で」というと、とても大変なように聞こえますが、私の場合、自分のやりたいようにやれることでストレスがたまらなかったんです。人それぞれかもしれませんが、私には合っていたんだと思います。

 ちなみにこの数年後、夫は「カジメン」へと驚異の変貌をとげるのですが、これについては別の機会にお話しさせていただきますね。

「道の真ん中で大泣きする娘。保育園に通い始めたころの写真です。私と離れるのが寂しかったのか、ピンクの保育園バッグを見ると反射的に泣いていました」(堀井さん)

■毎朝目覚めるたびに、アナウンサーであることがうれしくて仕方ない

 子育ては楽しい日々でしたが、アナウンサーを辞めようと思ったことは一度もありませんでした。それには、実家の母の影響が大きかったように思います。

 母は保育士で、園長も長く務めていました。仕事や私達きょうだい4人の子育てだけでなく、秋田の田舎の「嫁」でもあったので、本当に毎日忙しそうにしている姿しか見たことがありませんでした。

 そんな母が、定年で保育士の仕事を辞め、生まれて初めて夫婦で海外旅行に行ってきたんです。大量のお土産を抱えて楽しそうに帰ってきた母を見て、「こういう解放感や充実感は、ずっと仕事を続けてきた人にしか分からないんだろうな」と羨ましく感じました。

 母に「働いたほうがいい」なんて一度も言われたことはありません。でも、母の背中を見て育ったことで、自然と一生仕事を続けるものだと思うようになりました。 

 入社20年以上経った今でも、毎朝目覚めるたびにアナウンサーとして仕事ができていることがうれしいんです。「今日もナレーションができる」「ラジオでしゃべれるんだ」って。自分の母がそうであったように、母であること、仕事を続けるということ。どちらも自分の幸せだと思っています。

 今でも家に一人でいると落ち着きません(笑)

 仕事に復帰した後は、会社を一歩出た瞬間から「どれだけ早く保育園にお迎えに行けるか」ということばかり考えていました。郊外に住んでいるので通勤に片道1時間半かかるのですが、「何両目に乗れば早く降りられる」とか。自転車での送り迎えだったので「こっちの信号は長いから向こうの道を通る!」というふうに、毎日イメトレの連続。

 子どもが少し大きくなってからは、ラジオの録音や朗読を聞くなど勉強の時間に当てていました。今は焦って帰る必要もなく、長い通勤時間はいろんなことを考えられる貴重な時間です。

(写真:鈴木愛子)

 子どものためにも自分の時間を少しでも持ったほうがいい、という話を聞きます。もちろん、この意見には賛成です。ただ、当時の私は仕事以外の時間は全部子どものために使いたいと思っていました。テレビ局員なのに、たとえ30分でもテレビをじっくり見られなかったし、家でのんびりするなんてこともできなくて……。これ、完全にしゅうとめっぽい発言ですね。「自分の時間なんてなかったわ!」みたいな(笑)。

 でもそういう根性論ではなくて、子どもが近くにいるのに、放っておけない性格だったんです。仕事から急いで帰ってきて、夕飯!お風呂!家事!一通り落ち着いたら、そのあとたっぷり子どもと遊ぶ。疲れ切って布団に入ったと思ったら、あっという間に朝になっているという感じです。化粧も落とさないままで絵本の読み聞かせをして、そのまま寝落ちしてしまったことも何度もありましたし、前の晩に子どもと一緒に家じゅうにまき散らした紙吹雪を、翌朝改めて眺めて途方に暮れたこともありました。本当に、あのころは息つく暇もない毎日だったような気がします。

 今では娘も息子も大学生と高校生。日曜日に私一人が家で過ごすという、今までは想像もできなかった時間が生まれました。子ども達も身の回りのことはほとんど自分でできるので、私がすべき家事もたまっていない。じゃあ、映画でも見ようかと思ってソファに座っても、なんだか落ち着かないんです。何かやることがないか、つい探してしまって、30分も座っていられないんですよ(笑)。日曜日をまるまる子どものために使っていたあのころは、こんなふうにのんびり過ごせるなんて考えることもできなかったですね。今思い出すと、とても懐かしい気持ちになります。

 毎日楽しかったけれど、やっぱり少し疲れていたあのときの自分に、「子育てにバタバタする日々にも終わりがあって、それは思っているよりも割と早く来るよ。子どもってすぐに大きくなっちゃうよ」って教えてあげたいです。あっ、またしゅうとめ感、出してしまいましたね(笑)。

堀井美香(ほりい みか)
 1972年生まれ、秋田県出身。1995年にTBSテレビにアナウンサーとして入社。1996年結婚、1997年に長女、2000年に長男を出産。これまでに担当した主なテレビ番組は『王様のブランチ』『とんねるずのカバチ』など。現在の主な出演番組は『TBSフラッシュニュース』『THE 世界遺産(ナレーション)』、ラジオでは『久米宏 ラジオなんですけど』『ジェーン・スー 生活は踊る(日替わりパートナー)』を担当

(ライター 樋口可奈子)

[日経DUAL 2016年12月21日付記事を再構成]

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