婚活相談も おしゃれな寺カフェは女子の駆け込み寺
町中で「お寺が運営するカフェやバー」を見かけるようになりました。仏像や仏教に関心を持ち、お寺に足を運ぶ女性が増える一方で、気軽に利用できるこうしたお店は、悩みを抱える人の駆け込み寺的存在にもなっているようです。最新事情を知るために訪れてみました。
都心の一等地に、僧侶がいるカフェ
東京・代官山駅から徒歩2、3分。鎗ヶ崎交差点近くの駒沢通り沿いにある「寺カフェ代官山」は、ガラス張りの開放感あふれるおしゃれな空間。一見普通のカフェのようですが、窓辺には五色幕、店内には阿弥陀如来像や「南無阿弥陀仏」の掛け軸が。週末も含めて僧侶が常駐し、カフェに来た人からの人生相談を受けています(相談料は1時間1500円)。
テーブルの上には『只今、店内にお坊さんがいます!』のポップが置かれ、僧侶が空いていればその場で相談したり、写経体験(1500円)も可能(基本的には事前予約制)。筆者も日曜日の夕方、美容院の帰りにぶらりと入ってみると、女性僧侶の山口依乗さんが相談対応中でした。
「あと30分したら空きますよ」とウエーターさんに優しく案内され、山口さんを待つことに。心理カウンセラーでもある山口さんは、普段は鎌倉のお寺が拠点で、主に週末にこのカフェに来ているそうです。「今日は仏教を学びたいという男性でした。いつも恋愛相談などが多いので、珍しいですね。AとBのどっちを選んだらいいのか、そんな相談が多くて、占いのような感覚で来る人も多いのですが、話をずっと聞きます。みんな悩んでいるから」(山口さん)
相談者は20~40代の女性が中心で、9割近くが人間関係(恋愛や家族、職場の問題など)に悩み、中には新幹線に乗って遠方からくる人もいるそう。お寺に行かずに寺カフェにいる僧侶に会いに来るというのも、ここが刺激的な都心にあって、敷居が低いからなのでしょう。
僧侶となって40年以上という三浦性暁さんは、こう話します。
「ここは『聞いてさしあげる場所』。座った途端に涙する人もいます。ここは本来のお寺ではありませんが、『駆け込み寺』なのです」。最近は周囲に話し相手が減ってきている人がとても多いため、徹底的に聞き役になるのだそうです。「相手の悩みの根源にあるものや、どうしたいのかを一緒に探ります。みな自分の中に答えを持っているので、こんがらがった紐(ひも)を解いて、ご自身の中にある答えに導くだけです」。その過程で仏教の教えを伝えると、相談者のほとんどが癒やされ、安心するようです。
「ありのままで生きる」ことに気づき、安心できる
寺カフェ代官山を運営するのは、浄土真宗本願寺派の信行寺(川崎市多摩区)です。
「浄土真宗は、あなたはあなたのままでいいんですよ、という教え。無理して変わる必要もないし、『なりたい自分になろう』と理想を求めなくていい。こういう話をするとたいていの人が『じゃ、向上心を持たなくていいの?』と聞いてくるのですが、そうではない。たとえ愚かであろうとも、今の自分の状態と自分自身を受けとめるということが大事なのです」(三浦さん)
寺カフェ代官山では月に1度、僧侶を5~6人集めて貸し切りイベント「坊主バー」を開催しています(参加費1000円、1ドリンク、1フード付き)。参加者3~5人のテーブルに1人ずつ僧侶がついてお話をします。筆者と同じテーブルについた30代の独身女性は「飲み会などに行くと、自分だけうまく輪に入れない」「人とのコミュニケーションが苦手」と悩んでいました。知人に指摘されてから気になり、コミュニケーションのセミナーなどに足を運んでいたそうですが、筆者から見ればしっかりと自分のペースで意見が言える魅力的な女性でした。
そんな彼女の斜め前に座った小林祐謙僧侶は、「現実の自己を嫌悪し、理想の自己に迷う」という言葉を引いて「仏様は、ありのままでいいんだよ、とおっしゃっている。あなたはそのままでいい。実際には、気づいた時点で変わっているのですから」と、ゆっくり丁寧に話しました。「仏教には『不断煩悩得涅槃(ねはん)』という言葉があります。これは『悩みを断たずともすくいあり』ということなのです」。悩みがあるということを否定的に捉えず、自分の愚かさに気づきながらも今の瞬間を大切に、ご縁とご恩に感謝して生きていればいい、自分は自然の力で生かされているのだから。そう気づくことができました。
コミュニティーの拠点となる寺境内のカフェ
東京・豊島区のカフェ「赤門テラス なゆた」は、真言宗豊山派のお寺・金剛院の赤門横に2015年にオープン。西武池袋線「椎名町」駅から徒歩0分という好立地です。金剛院は約500年前に聖弁和尚によって開かれたお寺です。
「なゆた」は「次世代(三世代)コミュニティカフェ」とうたい、カフェのほかにコミュニティースペース(蓮華堂)を備えています。コミュニティースペースや本堂では、ヨガやお香作り、写経、コーラス、フラ、がん患者同士が思いを共有する集まりなどさまざまな催しがあり、さらに地域を対象にした学童の預かりや「子ども食堂」(月2回)なども開催しています。乳幼児からシニアまで年間8000人以上が集い、地域コミュニティーの拠点となりつつあるようです。
カフェで提供されるランチ「お寺ごはん」(864円~)は、日替わりのメイン料理に副菜3品とサラダ、味噌汁にほうじ茶がついています。ほかにもサンドイッチやキッシュプレート、マクロビスイーツなど食材にこだわったメニューが目立ちます。平日の午後に訪れると、パフェを一つずつ食べているカップルを発見。カフェの境内側は一面ガラス張りで、採光がたっぷりの明るい空間です。カフェを出てから境内を散策する人も多いようでした。
「昔は寺に人が集い、話をし、お茶を飲み、つながりがあったものです。今はそれが薄くなってはいますが、若い人を中心に祈りを求めて人が集まろうとしているのを感じます」と第33世住職の野々部利弘さん。行政や企業と連携して、今後さらに地域の拠点としていきたいといいます。出会いを求める男女のための婚活イベント「悟り婚」も開催しており、次回は3月12日の予定とのことです。
クリスマスイブに女性が集う仏教バー
関西は、一般の人々と僧侶の距離が関東よりも近いといわれます。大阪では20年以上前に、僧侶がお店にいる「坊主バー」が誕生。現在は京都、東京(四谷、中野)を含め4店舗ありますが運営はそれぞれ異なります。その中で最も歴史が長いのが「本店」の大阪 坊主BAR(大阪市北区)です。
ここでも20~30代の女性の来店が多いとのこと。「昨年のクリスマスイブの日はひときわ来店客が多く、そのうち3分の2が女性でした」。優しい雰囲気の店主、日野妙さんはこう話します。なぜクリスマスイブに仏教のバーへ?と思いますが、「カップルがいなさそうな場所ですごしたい」と女性同士で来店された人もいたそうです。
「9割のお客さんは、別に悩みはないけどお坊さんと話してみたいとか、仏教に興味があるなど楽しみにこられる方。1割のお客さんが悩みを抱えている方ですね」。恋愛の悩みがやはり多く、「気持ちを吐き出したい」とか「ビシッと言ってほしい」、あるいは「お坊さんなら良い話をしてくれそう」と期待してくる人が多いとか。失恋のつらさに耐えかねて「話を聞いてほしい」と来店する女性もいます。
「とにかく悩みを吐き出すことが大事。話すことで楽になります」(日野さん)。じっくり話したい人のために2016年9月から、ほかにお客さんがいない昼の時間帯に、僧侶か日野さんが1対1で悩み相談を受ける「聴の会」を始めています。「聴の会」は悩みのカウンセリングと、婚活に関する相談の2種類があり、どちらも話を聞くことに重点を置いています。婚活では、お客さん同士の交流会から始まった出会いのイベント「今逢(こんぶ)パーティー」も定期開催しており、お店で知り合って交際中のカップルもいるそうです。
そんなお話を聞くうちに、僧侶の井上裕径さんが登場。大阪 坊主バーには約10人の僧侶がボランティアで毎日1人ずつ来店します。僧侶の宗派はさまざまだそうで、裕径さんは高野山真言宗。得意の手品と法話を組み合わせた楽しい「マジック説法」で店内は盛り上がりました。
仏教をよすがに人とゆるやかにつながれる場で癒やしを得る女性は多いのでしょう。「ここに来て、ここを拠点にされる人は多いです」という日野さんの言葉にもうなずけました。
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現代では、法事でもなければお寺に行くことはないという人が大半ではないでしょうか。お寺の側も「待っていても人は来ない」と、カフェやバーを通じて町に出ていきつつあります。人と人のつながりが希薄になる中、若い世代にそうした店が支持されつつあるのは時代の要請なのかもしれません。
東京都渋谷区恵比寿西1-33-15 EN代官山ビル1F
赤門テラス なゆた http://nayutacafe.com/
東京都豊島区長崎1-9-2 金剛院内
大阪 坊主BAR https://www.vowsbar.com/
大阪市北区本庄東1-3-5
(ライター 大崎百紀、WOMAN SMART編集部)
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