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転ばぬ先の不動産学

投資用不動産、価格動向握るリスクプレミアム 不動産コンサルタント 田中歩

2017/2/8

PIXTA

 投資用不動産価格は2013年以降、上昇傾向が続いたものの、このところその勢いが止まりつつあるといった声が現場から聞こえてきます。

 投資する資産の価格に年利回りを掛けると年間収入が算出されます。この考え方からすると、投資用不動産価格は「年間収入(賃料)÷期待利回り」で計算できます。つまり、賃料が上昇する、または期待利回りが下がれば、投資用不動産の価格は上昇するということが分かると思います。

 それでは、賃料と期待利回りは、これまでどのような推移を示してきたのでしょうか。

■賃料は上昇せず

 グラフAは08年1月以降の東京23区賃貸マンションの成約平均単価の推移です。リーマン・ショック以降、成約平均単価は下落し、13年に上昇を見せるものの、14年以降はおおむね横ばい傾向となっています。14年以降、賃料は上昇していないので、投資用不動産価格の上昇は期待利回りの低下によるところが大きいということになります。

 ところで期待利回りは、無リスク資産(一般には10年国債)の利回りと「リスクプレミアム」と呼ばれる「投資家が上乗せしたいと考える収益率」の合計です。

 分かりやすくいうと、リスクのある資産と無リスク資産の利回りが同一であれば、すべての人が無リスク資産に投資しますよね。そうすると、無リスク資産の利回りは最も低くなるはずです(みんながこぞって無リスク資産を買えば、リターンは変わらないものの価格が上がるため)。

 結果としてリスク資産の利回りは、無リスク資産より高くなるはずです。このとき、リスクのある資産の利回りと無リスク資産の利回りの差がリスクプレミアム(投資家が上乗せしたいと考える収益率)ということになります。

 つまり、投資用不動産価格は、期待利回りを構成する金利が下がる(上がる)、または、リスクプレミアムが下がる(上がる)と上昇(下落)するということになります。

■金利とリスクプレミアムの低下

 グラフBを見てみましょう。08年1月以降の23区中古マンションの期待利回り(表面利回り)、10年国債利回り、リスクプレミアムの推移です。期待利回りは08年のリーマン・ショックの影響を受けて7%程度まで上昇(価格は下落)し、13年以降は下落を続け、現在は5%程度になっています(価格は上昇)。

 要因の一つは10年国債利回りの継続的な低下です。10年国債利回りは08年以降、金融緩和政策の過程で低下を続け、現在はほぼゼロ%付近にあります。このことが、投資用不動産の価格上昇に一役買ったことは間違いなさそうです。

 日銀は10年国債金利をおおむねゼロ%程度に抑えるとしていますし、実際にローンを組む際にマイナス金利になることはないと考えると、今後これ以上の金利低下を期待することには無理がありそうです。つまり、金利低下による価格上昇は期待できないということです。

 一方、リスクプレミアムの動きを見てみましょう。リスクプレミアムは、無リスク資産(10年国債)の利回りに投資家が上乗せしたいと思う収益率でした。これが上下動しているのはなぜなのでしょうか。

 グラフCは、リスクプレミアムと日経平均株価の推移を示したものです。

 リスクプレミアムは株価と反対の動きをしながら、おおむね5%から6%の間で上下していることが分かります。株価が上がると不動産投資に対して安心感が増してリスクプレミアムが下がる、株価が下がると不動産投資に対して不安感が増してリスクプレミアムが上がるという動きです。

 実際に、リーマン・ショックのあおりを受けて、不動産のリスクプレミアムは急上昇しました。東日本大震災により再び上昇。政権が自公連立政権に代わり、ねじれ国会が解消されるとリスクプレミアムは5%台まで下がりました。

 その後、15年のチャイナ・ショックを経て、16年後半から米新大統領による財政政策を好感した株価に反応してリスクプレミアムは再び低下傾向を見せています。このように、リスクプレミアムは国内外の経済や金融環境の影響を受けているのです。

■投資用不動産価格、夏以降は下落か

 筆者の調査によると、都内の投資用1棟マンションのリスクプレミアムも23区投資用中古マンションと同様の動きを示していますので、国内の一般的な投資用不動産におけるリスクプレミアムの動きも程度の差はあれ同じだと思います。

 賃料の上昇が期待できず、金利低下も見込めないとなると、投資用不動産価格の行方を占うにはリスクプレミアムの動きに注目せざるを得ません。リスクプレミアムは最低水準に張り付いている状況ですので、投資用不動産価格がさらに上昇するには、よほどの経済発展が見込めるという状況にならないと難しい状況にあります。

 国内外の経済のファンダメンタルズは概ね良好とされていますが、今後の米国の財政政策と通商政策、欧州の政治経済動向、中国経済など世界を揺るがす火種は少なくありません。リスクプレミアムが低位安定する要素と上昇する要素が混在しているのです。

 投資用不動産価格はしばらく一進一退を繰り返すものと思われますが、筆者は特に米国の政策に対する評価がはっきりしてくる今夏から今秋以降は、下落する可能性が高いのではないかと思っています。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

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