マネー研究所

Money&Investment

企業の減損リスク 「その後」のシナリオにも注意

2017/2/12

 2月に入り、3月期企業の2016年4~12月期決算発表がピークを迎える。最終的なもうけを示す通期の連結純利益は2年ぶりに増加に転じる見通し。ただ、期末にかけて「減損」と呼ばれる損失が表面化しやすい。収益性の低下した資産の帳簿価格を切り下げる会計ルールで、収益の押し下げ要因となる。株価を大きく動かすケースも多い。減損を読み解くカギや株式投資への注意点を探った。

 東芝が揺れている。15年4月に表面化した会計不祥事に続き、昨年末、米原子力事業に伴い最大7000億円規模の損失が発覚。東芝の17年3月末の自己資本と最終黒字の合計額は、慎重に見積もって6000億円程度とみられる。今回の損失額に比べ1000億円ほど不足する計算だ。債務超過の回避に向け、稼ぎ頭のメモリー半導体事業を分社化する事態に発展した。

■帳簿価格を下げ

 巨額損失の背景を探ると、M&A(合併・買収)に伴う減損にたどり着く。舞台は15年末に買収した米原子力サービス会社。買収後、工事費や人件費が想定よりも膨らみ、買収価格と実際の企業価値との差額(のれん)が拡大。同サービス会社の帳簿価格引き下げを余儀なくされた。

 減損の対象は特定の事業にとどまらない。企業の土地・建物や株式、資源権益から目には見えないブランド、特許までさまざまだ。ソニーが1100億円超の減損を計上したのは映画事業だ。映画の楽しみ方がDVDソフトからインターネットの動画配信にシフトし事業の収益性が落ちたため。消費動向の変化や技術革新が事業、資産の減損につながるケースも多い。

 松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「海外子会社は12月決算が多いため、これらを反映した減損がこれから顕在化してくる」と指摘する。

 上場企業全体では純利益が2年ぶりに増える見通し。昨年11月の米大統領選以降進んだ円安や原油市況の回復など追い風も吹く。収益の上振れを織り込み、日経平均株価は1万9000円前後で底堅い。減損は利益の押し下げ要因となるため、投資環境に冷や水を浴びせる懸念がある。

■成長シナリオ次第

 株価は減損を計上した後、企業がどのような成長シナリオを描くかによって大きく動く。減損は実際に企業からキャッシュ(現金)が流出するわけではない。資産の帳簿価格が切り下がっているため、今後、事業が再び軌道に乗れば十分な利幅が狙える。

 一例が三菱商事だ。前期、資源権益を中心に約4200億円の減損を計上した。今期は市況回復と操業の合理化が相まって純利益を4400億円に引き上げた。前期(1493億円の赤字)からV字回復する。昨年2月に1500円台だった株価は2月2日、2705.5円の高値を付けた。

 ソニーは減損で今期の減益幅が拡大するにもかかわらず高値を更新した。好調な半導体事業が評価されたためで、映画事業の立て直し策はこれから。日本郵船は不振のコンテナ輸送船事業を同業大手と統合する。

 減損の兆候はプロの機関投資家でも見極めにくい。野村証券の野村嘉浩エグゼクティブ・ディレクターは決算資料や有価証券報告書で、まず帳簿価額の大きな資産を洗い出すのが手掛かりになるという。持ち合い株式の上位30銘柄は保有額と株数が載っている。足元の株価に照らせば含み損益をうかがう目安になる。

 PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れる銘柄は、企業を解散した場合、株主の取り分より株価が低い水準にあることを意味する。保有する資産全般の収益性が下がっているケースも多く、思わぬ損失につながる可能性がある。(松井聡)

▼減損損失 資産ごとに帳簿価格を引き下げる会計ルール。損失の先送りを防ぎ、資産の透明性を高める狙い。特別損失に計上し最終損益の押し下げ要因となる。米国、国際会計基準では営業損益段階から響く。
 資産ごとに想定を大きく下回った場合、帳簿価格と実際の価値の差を損失とする。実際の価値は資産を今後使って稼げる金額か、売却金額のどちらか高い方を用いる。

[日本経済新聞朝刊2017年2月4日付]

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL