強まるトランプ批判 米株高は揺るがず(藤田勉)日本戦略総合研究所社長

「保護主義などトランプ政権への批判が強まっているが、筆者は長期的な米株高のシナリオは揺るがないと考える」

「米国第一」を掲げ、保護主義を推し進めるトランプ米大統領に対する批判が強まっている。特にイスラム圏7カ国からの入国制限は国内外で大きな摩擦と混乱を生じさせた。こうした問題は米国株の売り材料と見なされがちだが、筆者は長期的な株高シナリオは揺るがないと考える。

トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、メキシコとの国境の壁の建設、イスラム圏7カ国からの入国制限などを矢継ぎ早に表明し、大統領令に署名した。

世界的にトランプ政権の政策には反発が強い。中でも7カ国からの入国制限は大きな批判を呼び、是非を巡り司法当局と政権が激しく対立する事態に至った。トランプ氏の排外主義は民主党を中心とするリベラル派には許しがたい愚行と映るだろう。正直、筆者も政権の政策には首をかしげざるを得ないものが少なくない。

しかし、強調したいのは感情的になりすぎると、投資判断を誤る恐れがあるということだ。今こそ冷静な状況分析が必要となろう。

例えば、日本では米国に移民や難民の受け入れを求める声が多い。だが、「多様性を尊重せよ」といってみても、日本は難民の受け入れを実質的に拒否している。2015年に、第三国定住を認められた難民10.7万人のうち、米国は6.6万人も受け入れた(国連資料)。一方、日本は106人しか受け入れていない(法務省資料)。米国が日本を見習い、難民受け入れ基準を厳しくすることに日本は反論できる立場にはない。

メキシコとの国境の壁建設についても、国境線を管理するのは国家の義務である。国家が密入国者を防ぎ、そして取り締まるのは当たり前のことだ。

米国民は大統領選でトランプ氏の公約を支持

昨年の大統領選挙において米国民は入国制限などを公約したトランプ氏を選んだ。選挙人獲得数はトランプ氏が306人、クリントン氏が232人とトランプ氏が圧勝し、共和党が上院、下院両方で多数を獲得した。つまり、米国民の多数はオバマ政権と民主党の政策を否定し、トランプ政権と共和党の政策を明確に支持したといえる。だからこそ、トランプ氏は公約を次々実行に移しているのだ。

多くの日本人が大統領選の予想を見誤った最大の原因は、反トランプ色の強いマスコミを通じて、選挙戦を見ていたからである。特に、クリントン氏が上院議員として選出されたニューヨーク、ファーストレディーとして8年間を過ごしたワシントンDC、ヒラリー氏とオバマ氏の地元シカゴ、ヒスパニックが多いロサンゼルスに、有力マスコミの本拠がある。このため、我々はどうしてもこれらと同じ目線でトランプ氏に批判的になってしまう傾向がある。

しかし、トランプ大統領の主たる支持層は、いわゆるエスタブリッシュメントではない労働者層である。しかも、世論調査では半数前後が入国制限を支持している。

トランプ大統領は、CNNなどの有力なマスコミと決定的な対立関係にある。しかし、これは計算づくではないのか。トランプ大統領は、インテリやマスコミを敵に回しても、新聞は読まないがツイッターを読む層をがっちり押さえる戦略を軸に据えている。インテリも労働者も同じ一票を持つのであり、それで選挙に勝てることが十分実証されたのだ。

トランプ大統領の戦略目標は、20年の次期大統領選の勝利だろう。大統領選で大半の州は、一票でも多く得票した候補が州に割り当てられた選挙人をすべて獲得する「勝者総取り方式」(ウイナー・テーク・オール方式)をとるので、トランプ氏は東部と西部のインテリ層と非白人の票を捨てても、中西部と南部の保守層と白人労働者をがっちり固めれば再選も可能であろう。

トランプ大統領の任期が4年間あり、その上、共和党が議会で多数を握ることから、トランプ政権の政策は着実に実行されるとみられる。そして冷静に分析すると、以下のように、米国株に大きくプラスになる政策が多い。

冷静に分析すると、米国株にプラスの政策が多い

第1に法人税減税である。現在、米国の法人税率は35%だが、これが15%まで引き下げられる方向だ。減税は直接的に企業の利益を増やすことができる。また、海外における米国企業の留保利益を米国内に還流させる際の減税も提案されている(税率10%程度)。アップルを中心にIT(情報技術)企業が海外で豊富に現金を抱えているが、留保金還流分の多くは配当や自社株買いに向けられると考えられる。これはITセクターの株高要因になる。

第2にインフラ投資である。トランプ政権は、環境問題に対する懸念からオバマ政権が差し止めていた石油パイプライン建設を解禁した。しかも、石油輸出国機構(OPEC)やロシアが減産してくれているおかげで原油価格が高い。このため、シェール革命によって世界最大の産油国になった米国のエネルギー産業の恩恵は大きく、これも株高要因だ。

第3に金融緩和継続である。不動産王トランプ氏は過去に4度の破産を経験した。トランプ氏のファミリーも不動産業を営む。不動産業にとって金利上昇は経営の悪化要因だ。さらに、金利上昇はドル高を招き、米製造業の国際競争力をそぐ恐れがある。このため、トランプ政権は、来年2月の米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長の任期切れ後には、共和党支持のハト派の議長を選任し、低金利を続けることだろう。

最近はトランプ政権の政策への批判が強まっていることもあり、米国株の売り材料となる場面が見られる。米国株とドルは昨年の大統領選直後から大きく上昇した反動もあって、政権のハネムーン(蜜月)期間を終える春ごろには、急落する場面があるかもしれない。

しかし、筆者は長期的に米国株を中心とする世界的な株高基調が続くと判断しており、そのときが絶好の買い場になるとの見方に変化はない。冷徹な分析こそが、トランプ相場での勝者の条件となろう。

藤田勉(ふじた・つとむ) 山一証券、メリルリンチを経て、現シティグループ証券顧問。2016年に日本戦略総合研究所社長。10年まで日経ヴェリタス人気アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。慶應義塾大学「グローバル金融制度論」講師。SBI大学院大学教授。内閣官房経済部市場動向研究会委員、経済産業省企業価値研究会委員などを歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。
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