お金のためではなく自己実現のための副業

日経ウーマンオンライン

2017/2/13
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こんにちは。佐佐木由美子です。近年、副業を認める企業が増えています。勤務先の会社が副業解禁としたことで、勇気を出して希子さんが決断をしたこととは……。

感謝される喜びを知って

大学卒業後に就職した上場企業に勤務する希子さん。事務職の今の仕事は、決して嫌いじゃないといいます。残業もほとんどなく、毎月それなりの給与をもらい、親と同居していることから、生活は安定していました。

職場で副業が公に認められるようになったのを機に、希子さんは一つのアイデアを形にできないかと考えるようになりました。それは、大好きな天然石を使ったアクセサリーショップを開くこと。リアル店舗ではなく、ウェブ上の通販サイトであれば、ローコストで開設できるだろうと考えたのです。

もともと天然石を集めるのが趣味で、自分でデザインしたブレスレットやネックレスを創作して身に着けていました。天然石には、それぞれ意味があります。その日の状態に合わせて、アクセサリーをチョイスするのが希子さんスタイルでした。それが友達の間で評判となり、ぜひ自分にも作ってほしい、と頼まれるようになったのです。

希子さんは、友人の悩みや願い事、好きなカラーなどを聞いて、平日の夜や週末の時間を工面して、世界に一つしかないオリジナルのアクセサリーを作りました。ワクワクしながら作る作品に、友人はとても喜んでくれました。

普段の仕事では、どんなに頑張ったとしても、このように感動してもらえることはありません。自分の好きなことをして、その結果喜んで感謝してくれる人がいる……。希子さんにとっては、それが何よりもうれしくて、初めて自分が他人から認められたような気がしました。

頼まれたアクセサリーは、制作にかかる実費はもらっていましたが、それに値段をつけることは、ためらわれました。そんなとき、友人が「これは十分に立派な仕事だから、お金をもらった方がいいよ」と言ってくれたのです。

いつしか希子さんの心の中に、世界に一つしかない天然石ジュエリーのお店が開けたら……と、いう淡い想いが募っていきました。

副業は本業にプラスの影響をもたらすことも

希子さんは、これを副業として申請するかどうか迷いました。そもそも、本業とは関係のない内容です。ウェブサイトを開設したからといって、お客さんがくるかどうか全く見当もつきません。しかし、副業をするときは会社に申請するルールとなっているため、担当部門へ申請をしてから始めることにしました。

ショップサイトを簡単に作れるツールもそろっていたので、思ったより簡単にサイトを開設することができました。世界に一つしかない天然ジュエリーというコンセプトと、それに至る希子さんの熱い思いを載せて。

友人らがSNSを通して紹介してくれたおかげで、少しずつ注文が入るようになりました。今のところ売り上げは月3~5万円ほどで、経費を差し引くとあまり手元に残るお金はありませんが、会社以外の場所で、自分がお金を稼ぐことができるということは、自信になりました。

希子さんにとっては大いなるチャレンジであり、「もう一つの仕事」は、生活に張りを与えてくれています。

また、自らショップ運営をすることで、企業活動の一連のサイクルを経験することができ、様々な発見もありました。これまでよりもっと大きな視点で仕事を捉えることができ、本業にも生かされていると実感しています。

新しい働き方としての副業

副業というと、これまでは何か理由があって本業以外のことをしているという、どちらかというとネガティブな響きがあったかもしれません。それが昨今では、「新しい働き方」として徐々にではありますが、受け入れられ始めています。

副業が仕事や私生活面において相乗効果をもたらすには、自分でうまくタイムマネジメントができることが重要です。睡眠時間や重要なプライベートを削ってまで副業に没頭してしまい、本業に支障が出ることのないように留意したいところです。そもそも残業が多い場合は、まず本業における働き方を見直し、改善を図ることが第一歩といえるでしょう。

希子さんのように、お金のためではなく、自己実現の場としてトライする働き方は、今後少しずつ広がっていくかもしれません。IT技術の進歩は、起業の垣根を低くし、個人でも活動範囲を広げていくことが可能となりました。

個人が職場以外の場所で成長することを通して、本業にもプラスの効果をもたらすことができれば、お互いにとってWin-Winといえるのではないでしょうか。

佐佐木由美子(ささき・ゆみこ)
 人事労務コンサルタント、社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、「働く女性のためのグレース・プロジェクト」でサロン(サロン・ド・グレース)を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。

[nikkei WOMAN Online 2017年1月17日付記事を再構成]