ケネディ夫人、ジャッキーに学ぶ「私らしい着こなし」
宮田理江のおしゃれレッスン
ファーストレディーの装いがあらためて関心を集めるなか、歴代の米大統領夫人でも伝説的なファッションアイコンだったジョン・F・ケネディ夫人のジャクリーン(1929~94年)、通称ジャッキーの伝記映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』が3月31日から公開されます。今なお「ジャッキースタイル」と呼ばれ、ファンの多い彼女の着こなしは50年以上を経ても色あせて見えません。映画のシーンをヒントにジャッキー流着こなしのポイントを見ていきましょう。
今回の映画ではオスカー女優のナタリー・ポートマンさん(『ブラック・スワン』『レオン』)がジャッキーを演じています。1963年のケネディ暗殺の直後、夫の葬儀を執り行い、ホワイトハウスを去るまでの彼女の重くハードな決断を描くストーリー。葬儀を通して亡き夫を伝説的な存在にした彼女のプロデュース力に驚かされます。
米アカデミー賞では主演女優賞に加え、衣装デザイン賞でもノミネートされています。映画『アメリ』や『イヴ・サンローラン』も手がけた名コスチュームデザイナーのマデリーン・フォンテーヌ氏が担当。「シャネル」スーツをはじめとする、実際のジャッキーの装いを再現しつつ、古臭く見えないよう、現代的にアレンジを加えているそうです。
ポスターにも使われているメインカットで、ジャッキーは真っ赤なツーピース(セットアップ)をまとっています。1色でまとめたワントーン・ルックは彼女が好んだ着こなしです。単色の装いでも退屈に見せないところもジャッキーならでは。襟が程よく首から離れたオフネックのデザインが気品を漂わせています。遠くから見ても質感の高さがうかがえるツイード生地のチョイスも格上ムードをまとわせました。トップスの袖丈は少し短めだから、ワントーンが重たく見えません。さらに手首をしっかりのぞかせ、細感を引き出しています。
ファーストレディーにふさわしい品格を醸し出すスタイリングですが、オフィスルックにも生かしやすいまとめ方です。りんとしたキャラクターや芯の強さが押し出しの利いたワントーンから伝わってきます。
JFKが銃撃されたときにジャッキーが着ていたスーツはピンクで帽子まで統一。ジャケットの襟はネイビーで引き締めています。ポケットを左右に2個ずつ配する工夫もジャケットを堅苦しく見せない効果を生んでいます。てっぺんが平らな筒形でつばのない「ピルボックス帽子」はジャッキーの愛した小物。ちょっと古風なシルエットが貴婦人のイメージを印象づけ、そのままジャッキーのトレードマークにもなっています。大勢の人に見られる晴れやかな場面では好感を得やすい「大人ピンク」のセレクトも参考になります。
葬儀のときに見せたのは、黒のスーツ。頭からレースのベールをかぶっています。一般的にはおしゃれとは縁遠いはずの喪服コーディネートですが、ジャッキーは細部に密やかな工夫を凝らしています。たとえばジャケットにはファーのビッグボタンを付けています。レトロな大襟や、つややかなグローブを取り入れているのも、厳粛な装いに加えた静かな好アレンジです。ディテールにこだわるのは、着姿に特別感をもたらすテクニック。オフィスコーデでも小技を利かせると印象が大きく変わります。
巧みな小物やアクセサリーの操り方もジャッキー流スタイリングのエッセンスと言えます。たとえばスカーフ使いは彼女の代名詞的な小技です。劇中でも記者のインタビューを受ける場面で無地のコートの首元に柄物のスカーフを無造作っぽく巻いて、やわらかい雰囲気を呼び込んでいます。ワントーンの装いにもカラフルな柄物のスカーフを添えれば、彩りが加わります。スカーフで髪全体をくるむ、いわゆる「真知子巻き」もジャッキーが好んだ使い方です。
オフネックの首周りにパールのネックレスを巻いて上品に整えています。彼女が好んだのは3連の巻き方。首にぴったりした「チョーカー」風に巻くのがジャッキーの流儀。顔の近くにホワイトのつやめきを迎えると、顔色がきれいに映るうえ、ネックレスのボリュームが生きて、首がほっそり見えます。
大統領夫人らしい、ひじまで覆うロンググローブは高貴なたたずまい。ホワイトハウス内でのコンサートで正装したシーンでも、ロングドレスにロンググローブを添えました。手袋の上から腕時計を巻いているのも気の利いた小技。さらに、肩に届きそうなほど長いイヤリングもつけて、華やぎを上乗せしました。
今回の映画には登場していませんが、ビッグサイズのサングラスも彼女のお気に入りでした。ノースリーブのワンピースといった、割と飾らない服も好んで着たジャッキーはこういった小物の力を借りて、着映えにアクセントをつけています。
自分のセンスを大切にして、有名か無名かに関係なく、気に入った物を取り入れていったジャッキー。今では世界的ブランドになったフィンランドの「マリメッコ」も、彼女が大統領選の期間中に着たことから米国で人気が出ました。それまでの米大統領夫人は自国ブランドを保守的に選ぶ傾向がありましたが、ジャッキーは欧州ブランドも身につけていました。そういった自分らしさ重視の意識がオリジナル感の高い着こなしのベースになっているようです。
ジャッキー風のアレンジをさりげなく取り入れると、お仕事ルックやあらたまった装いにもひと味違う雰囲気を忍び込ませることができます。ジャッキーのような自分好みの「おしゃれロールモデル」を見付けて、着こなしの「サムシング(秘けつ)」を宝探しのように見つけ出していけば、おしゃれの腕前がさらに上達していくことでしょう。
3月31日(金)からTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開
配給:キノフィルムズ (c) 2016 Jackie Productions Limited
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。公式サイト:http://riemiyata.com/
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