『東京タラレバ娘』 何歳のヒロインがリアル?
女男 ギャップを斬る(水無田気流)
1月より、「東京タラレバ娘」のドラマ版が放映されている。東村アキコ氏原作の漫画は30代女性の恋愛観・結婚観・仕事観を、ときに痛々しいまでに毒気含みで描いた作品だが、ドラマは今のところもっと穏当なようだ。
設定年齢も、原作ではヒロインたちが33歳であるのに対し、ドラマは30歳設定。さらに配役も、吉高由里子・榮倉奈々・大島優子と、いずれも実年齢は28歳とぐんと若い。主演女優たちがかわいらしく初々しいせいだろうか。原作でさく裂する、ヒロイン3人娘が結婚や出産のタイムリミットで焦りながらも「あのときああしていたら、こうすれば」と、「タラレバ話」の女子会でくだを巻く切実さにやや欠けるのが残念。
「国勢調査抽出速報集計」で見た2015年の女性の未婚率も、20代後半は61%と多数派だが、30代前半になると33.7%と、未婚者はぐっと減る。漫画原作の年齢と演じる女優たちの実年齢の5歳差は、女性にとっては大きな違いといえる。
原作とドラマのヒロインの年齢差は、世相を映す鏡かもしれない。典型例は、何度もドラマ化された松本清張の「鉢植を買う女」だ。1961年発表の小説版は、ヒロインは会社では女性社員最年長で34歳独身。陰で「行き遅れの婆」呼ばわりされ、自身も28歳のころから結婚を諦めている(後妻の話なら来たが……というのが、昭和30年代的である)。
同作ヒロインは、93年に池上季実子主演の際、32歳設定になっていた。それが、2011年のドラマ化では余貴美子主演で勤続30年、52歳の設定になっていて驚いた。原作から半世紀を経て就業者の4割は女性という現状下、「女性社員最年長」で「行き遅れ」の設定は、約20歳も年長になってこそのリアリティーだったようだ。
そういえば、以前学生に「歳を重ねても結婚しない女性を意味する『行かず後家』という言葉があった」と説明したところ、「一瞬、ヒカリゴケの類かと思いました」と真顔で言われたことがある。もはや死語なのか。だが一方、「タラレバ娘」で描かれたような、いわく言いがたい女性のタイムリミット感は健在なのも事実。果たして50年後に同作がドラマ化されるとしたら、ヒロインは何歳設定がリアルなのだろうか。
〔日本経済新聞朝刊2017年2月4日付〕
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