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アジア初の音楽創作者団体 狙いは中国マネー 編集委員 小林明

2017/2/3

アジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA)発足式(2016年11月28日、北京で)

ピンク・レディーの「ペッパー警部」「UFO」、狩人の「あずさ2号」などのヒット曲で知られる作曲家の都倉俊一さんが昨年11月末、アジア初の音楽創作者による地域団体「アジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA)」を旗揚げし、初代会長に就任した。

最大の狙いは急拡大している巨大市場、中国でいかに著作権意識を啓蒙するか――。

アジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA)初代会長に就任した都倉俊一さん

音楽ネット配信サービスや「聴き放題」をうたい文句にした定額制の音楽配信サービスの普及など世界の市場環境が激変するなかで、将来は中国からの著作権使用料の大幅な徴収増加が期待できるからだ。仕掛け人である都倉さんに音楽著作権の最新事情やその舞台裏、今後の見通しなどについて単独インタビューした。

■12カ国・3地域が参加、「中国での著作権啓蒙」がカギ

このほど発足したアジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA)の内容と役割を解説しよう。

同連盟に参加するのは日本、中国、韓国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、モンゴル、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの12カ国と台湾、香港、マカオの3地域。音楽創作者同士が協力し、正当な権利や報酬を守るなど著作権意識を啓蒙、浸透させ、創作活動や人材発掘・育成の支援に取り組むための組織だという。

■アジアが残された空白、CIAM会長の依頼が出発点

実は経済発展が著しいアジアは「著作権意識が薄い地域」と目されてきた。

これまで音楽創作者の世界団体としては1966年に設立された国際音楽創作者評議会(CIAM)があり、地域組織としては欧州(2007年)、アフリカ(10年)、北米(12年)、南米(12年)が順次設立されてきた。だがアジアだけは“空白地帯”だった。

そこで14年、CIAM会長でイタリアのオペラ作曲家のロレンツォ・フェレーロさんが来日した際、日本音楽著作権協会(JASRAC)会長だった都倉さんに「空白地帯のアジアにも地域団体をぜひ立ち上げてほしい」と直々に依頼したことが出発点となり、準備作業が始まった。

外交官の息子で海外生活が長い都倉さんは語学が堪能なうえ、国際的な人脈も豊富。「まずはJASRACを通じて各国・地域の著作権管理団体を窓口にそれぞれ様々な音楽創作者に接触し、組織旗揚げについて理解を深めてもらった」と振り返る。

■最大の難関は中国の説得、文連への働きかけ→個人資格で参加

APMA発足式で挨拶する都倉俊一さん(北京で)

調整作業の最大の難関は、魅力的な巨大市場を抱える中国の説得だった。

当初は文化・芸術を促進する全国組織、中国文学芸術界連合会(文連)に働きかけていたが「組織として機関決定するのは簡単ではないと分かり、有力な音楽創作者に個人資格で参加してもらう形態に切り替えて説得を続けた」。個人の権利主張を支援する動きに、中国共産党の上層部が神経をとがらせる懸念もあったからだ。

こうした交渉を経て、初代会長に都倉さん(日本)、副会長にブレンダン・ギャラガーさん(豪州)、さらにイルファン・オリアさん(インドネシア)、リコ・ルネ・ブランコさん(フィリピン)、タニット・チェルンピパトさん(タイ)、ユン・ミョンソンさん(韓国)、ハオ・ウェイヤさん(中国)らを委員に加えた執行体制が整った。

■5月にソウルで活動方針、11月に東京で総会

「APMA発足で音楽創作者の世界組織のネットワークの骨格がひとまず完成した。今後は、未加盟のミャンマー、カンボジア、ラオスに加えて、巨大市場を抱えるインドにも加盟を積極的に働きかけたい」と夢を膨らます。

活動の第1弾として5月に韓国・ソウルで執行委員会を開き、活動方針を決めるほか、著作権のフォーラムなども開催する。11月には東京でAPMA総会を開く準備も進める予定だ。

■アジア・太平洋の6割超が日本、「中国マネー」に熱い視線

現状の著作権徴収の実情はどうなっているのだろうか?

15年に全世界で徴収された著作権料は86億4160万ユーロ(約1兆円)。増加傾向を保ってはいるが、CDなどパッケージの売り上げが減少する一方、音楽のネット配信が普及し、「『フェア・トレード・ミュージック運動』と呼ばれる公正で透明性がある報酬の基準づくりが新たな課題になってきた」と見る。

全世界で徴収された著作権料86億4160万ユーロの地域別割合は欧州が最多で58.4%、次いで米国・カナダ20.4%、アジア・太平洋14.2%、南米・カリブ6.4%、アフリカ0.7%。「市場規模に比べてアジア・太平洋の割合がまだ小さすぎる」。アジア・太平洋14.2%のうち日本が8.9%で最大(アジア・太平洋の著作権料の6割超)。豪州(3.1%)と韓国(1.1%)を加えた3カ国だけでアジア・太平洋で徴収された著作権料の9割強を占める。

特に中国で徴収された著作権料は日本で徴収された著作権料のわずか1.5%程度しかない。現時点でも取り損ねている著作権料がかなりあると見られており、「中国市場での今後の著作権の啓蒙活動が重要度を増している」わけだ。

■発足式・支部は北京に、着々と進む“中国シフト”

“中国シフト”は着々と進んでいる。

昨年11月28日、APMAの発足式をあえて中国・北京で開いたのもその布石。著作権管理団体の世界組織、著作権協会国際連合(CISAC=本部パリ、JASRACなどが加盟)が14年にアジア支部の場所をシンガポールから北京に移転したのも中国市場の将来を重視している姿勢の表れ。中国マネーに注ぐ世界の視線は熱い。

「富裕層が増え、今後もますます膨張する中国市場で著作権意識をいかに浸透させ、国際ルールの枠組みに取り込むかが最大の関心事。そのプロセスで日本が主導的な役割を果たすことが大切だし、その責務がある」と説く。

音楽創作者の世界とはいえ、そこには国際政治に通じる外交戦略や語学力や人脈を駆使した社交術が欠かせない。イスラエル、スウェーデン大使などを歴任し、祖国、日本の国益のために奮闘してきた父親譲りの熱い血が都倉さんの体にもしっかりと流れている。

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