興行収入238億円を突破し、宮崎駿監督作「千と千尋の神隠し」に次ぐ日本映画歴代2位を記録するなど大ヒット中のアニメ映画「君の名は。」。公開から半年近くたった現在もその勢いはとどまることなく、週末の動員数を集計した国内映画ランキング(興行通信社提供)の1月21~22日のランキングでは、新作映画を抑え9週ぶりに1位に返り咲くなどヒットを続けている。
その劇中で重要なアイテムとなっている、日本のある伝統工芸品が人気を集めている。三重県の伊賀地方などを中心に生産される「組紐(くみひも)」だ。3本以上の絹や綿糸を組んで作るひもで、仏教の伝来とともに渡来すると経典や刀剣、礼服の飾りとして普及し、現在も和装の帯締めなどに使われる。「君の名は。」では主人公たちがブレスレットや髪飾りとして組紐を身につけており、物語の鍵を握る重要なアイテムとなっている。このことから、映画のファンである10~20代の男女を中心に、これを求める人が続出している。
組紐専門店では制作が追いつかないほどに
京都にある組紐専門店「昇苑くみひも」では、映画の公開後から組紐ブレスレットの注文が急増した。2年前から組紐を使った「花結びブレスレット」をウェブショップで販売しており、当時は週に1~2本注文が入るほどだったが、昨年9月ごろから少しずつ注文が増えるようになったという。調べてみると「君の名は。」で組紐が扱われていることがわかり、それまで店頭や取引先の雑貨屋などでのみ販売していた「二重巻きブレスレット」をウェブショップに掲載すると、「『君の名は。』の組紐に似ている」と注文が殺到。多い時は週に250本もの注文が集まり、制作が追いつかないほどになった。
「購入されるのは20歳前後の男性が多いです。2~3本まとめて購入される方が多いので、カップルで身につけているのでは」(「昇苑くみひも」中村新さん)
人気は映画の組紐に似た、オレンジや赤、青の二重巻きブレスレット。映画とまったく同じデザインを作ってほしいと依頼を受けたこともあるが、「完全に同じものは組紐の工法では作れない」(中村さん)。組紐は数本の糸を規則的に組んで作っていくものなので、映画のように途中で色を切り替えると、裏側や房の部分にその糸が出てしまう。そのため、映画とまったく同じ組紐は再現できないという。
中村さんはこのブームを「日ごろお世話になっている取引先にお礼をするチャンス」とうれしそうに語る。中には大きく展開してくれる店もあり、今も週に300本ほどの制作が続いている。
組紐作りの体験教室も若者でにぎわう
ブレスレットを購入するだけでなく、実際に組紐作りを体験したいという人も増えている。
「訪れる人は、口をそろえて『君の名は。』を見てきましたと言いますね」。そう話すのは、三重県組紐協同組合専務理事の平岡正博さんだ。組合が運営する伊賀くみひもセンター「組匠の里」では「丸台」と呼ばれる道具を使った組紐体験教室を開催している。劇中にはヒロインがこの丸台を使って組紐を組み上げる印象的なシーンがあり、映画を見た人が相次いで訪れる。
映画の公開前は家族連れがほとんどだったが、公開後は20代のカップルや若いグループの参加が目立つようになった。11月には例年の2倍以上の923人を記録。これは同体験教室でも過去最高となった。1月は通常閑散期だが、現在も土日は参加者が多く、団体用の広いスペースを開放することもある。
映画と似たデザインの組紐が人気
「組匠の里」の体験教室ではキーホルダー、ブレスレット、ストラップの3種類の組紐を作成できるが、映画の影響でブレスレット型が人気だ。
「映画のようなブレスレットを作りたいという人が絶えない。そのため、赤やオレンジといった、主人公たちが持っている色合いが人気です」(平岡さん)
難しそうに見える組紐作りだが、一度手順を頭に入れてしまえば誰でも作ることができる。
「組むのが楽しくてやめられないと言って、体験の時間が過ぎてもなかなか手を止めない方もいらっしゃいました」(平岡さん)。丸台や糸など、3万円弱の組紐セットを購入していく20代前半の人もいたという。

「君の名は。」は国内のみならず海外でも高い評価を得ている。現時点で世界125の国と地域で公開が決定しており、すでに公開された中国とタイでは日本映画の歴代興収1位を記録した。4月7日には北米での大規模公開も控えている。映画とともに、組紐も世界に広がることになるかもしれない。
(ライター 小沼理、二川智南美=かみゆ)