変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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ジャック・ウェルチ氏といえば、希代のカリスマ経営者だ。1980~90年代にゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者(CEO)としてその手腕を発揮し、その後もプライベート・エクイティ・ファンドのパートナーとして活躍するとともに精力的に講演活動を続けている。そんなウェルチ氏が妻のスージー氏と共著で刊行したビジネス指南書が『ジャック・ウェルチの「リアルライフMBA」』(日本経済新聞出版社)だ。ビジネスに勝ち残るための教えを13章にわたって書き込んだ本書の中から第1章を6回に分けて紹介しよう。4回目はミッションと行動を支える組織的な仕組みについてだ。

◇  ◇  ◇

結果で現実のものとする

ミッションと行動が整えば、あとは私たちが「結果」と呼ぶ仕組みと一貫性を持たせるだけだ。懲罰的に聞こえるかもしれないが、そうではない。たしかに降格や解任など、結果は後ろ向きになりうる。だが、昇給やボーナスなどの前向きな結果がもたらされることも多い。いずれにせよ、ポイントは同じだ。ミッションと行動のことをわめき、がなり立てても、それを裏から支える組織的な仕組みがなければ、ことわざに言う、森で木が倒れるだけのことだ。

そう、誰にも聞こえない。

もっとも後ろ向きな結果は、いうまでもなく解雇だ。リーダーは誰もこのツールを使いたがらない。普通の神経の人間ならそれが自然だ。だが、明らかにミッションや行動と一貫性のとれない部分があれば、解雇は必要なことだし、双方にとって最善のこととなる。

たとえば、デイブ・カルホーンは、VNUで高い人気のあった守旧派の人物を解雇している。その人物は会社を統合すべきだとも統合できるとも信じていなかった。デイブはクビにすることを楽しいと感じていただろうか? もちろん、楽しんだわけがない。だが彼は正しい行動をとった。そのマネジャーを退場させることで他の社員に教えることができた。「なんとかさんは、家族との時間を持つために引退します」と言う代わりに、彼はニールセンの年次総会で彼の決断を正式に発表した。「どんな行動が受け入れられないか、どんな行動が褒められるものかをはっきりする必要があった」と彼は言う。

同様に、ナルコでミッションと行動の連携をこんこんと言い聞かせるにあたり、エリック・ファーワルドは大量の抵抗者をさばく必要があった。「それは以前にも試したが、ナルコではうまくいかない」というセリフをいやというほど聞かされた。このときも、トップ100人のうち半分以上という多くのトップリーダーに辞めてもらった。内部からも外部からも人を探してきて彼らの後任に充てた。デイブ・カルホーンと同じく、これはエリックが好む企業再建の仕事ではなかった。だが、戦線真っ只中で、ごりごりの否定派を拝み倒して動かす余裕はない。

行動が重要かどうか、そしてどの行動が重要かという点に関してはスピーチを100回するより、人事権発動のほうが効果的だ。

もちろん一貫性をとるプロセスで人事異動はとてもよい結果を生むことがある。ミッション、行動を実践した人を昇進させることが伝えるメッセージは大きい。組織全体に徹底させるのに大きな役割を果たす。多額のボーナスも同じだ。お金がものをいう。いつの世でも通じることだ。

だが、結果に関する一貫性に関していえば、きちんとした業績評価と報酬制度があるかどうかの問題に尽きる。

べつに複雑である必要も、コストのかかるものである必要もない。ただ、すべての社員と触れ合う機会が必要だ。触れ合わなければならない。なるべく多く、少なくとも年に2回は、上司が率直に部下に対してどう評価しているかを対話しなくてはならない。

「あなたはこの部分でミッション達成に役立ちました。こうすればさらによくなります」

「あなたはこの部分で私たちが必要とする行動をとりました。こうすればさらによくなります」

「あなたの給与とボーナス、会社での将来はこうです。それはいま話した評価を反映したものです」と言う。

それだけだ。これが一貫性をとった結果の部分だ。難しく聞こえるだろうか?

たいしたことじゃない。それなのに、現実にはあまり行われていないのは知ってのとおり。「組織の中で自分がどう評価されているか知っていますか?」と尋ねて、10%から20%の人が手を挙げればいいほうだ。社会人となった子供たちやその仲間で、りっぱな企業で働く人たちに聞くと、一度も人事考課の面接を受けたことのない人がいる。その中の一人の女性は、大幅な昇給を得たのだが、上司から説明がなかった。なぜかを尋ねると、「実績だ」と言われた。それだけだった。

そんなことをされたら、ギャーッと叫びたくなる(念のために書き添えると、彼女もギャーッと言いたくなったとのことだ)。

いかに多くの機会が失われていることか。チャンスをつかみさえすれば成功に導けるというのに。ミッションを明確にし、望ましい行動を列挙し、社員がこの二つをどのくらいよく達成したかを測り、それに応じて褒賞する。

これらの作業は簡単ではないし、簡単だと言うつもりもない。だが、一貫性をとることは脳外科手術とは違う。多くのリーダーが回避するのはまったく残念だ。こういったことをしないかぎり健全な組織は生まれない。

(斎藤聖美訳)

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