東京五輪・パラリンピック後の「post2020」に日本が直面する最大の社会的課題は急激な少子高齢化だ。日本の総人口に占める75歳以上の割合は1990年に5%だったが、2025年には18%に達する。老年学(ジェロントロジー)の研究者でもあるシニアマーケットコンサルタントの堀内裕子氏に超高齢化社会の主役たちの消費心理を読み解くヒントなどについて語ってもらった。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)
藤田 老年学の研究に基づいて高齢者向け市場を分析するのは新しい手法ですね。
堀内 日本においては、老年学そのものが新しい学問といえます。老年学は「加齢」や「高齢者」といったテーマを軸に、医学、心理学、社会学、福祉学、政策学、看護、リハビリテーション、死生学、統計学などの領域を横断的に研究する学問です。日本で老年学を専門的に学べるようになったのは、02年に桜美林大学大学院が老年学専攻を設置してからです。現在、日本で老年学の修士号や博士号を取得できるのは桜美林大だけ。一方、米国では、老年学の修士課程が40近い大学にあり、博士課程も6つの大学に存在します。欧州でも13カ国の大学で老年学教育が実践され、修士課程も40以上あります。
藤田 「老い」を横断的に研究している強みを生かしてコンサルタントとしては、どんな活動をしていますか。
堀内 主にシニアマーケットに関する商品開発やコンサルティング、講演活動ですね。顧客は大手小売業、電機メーカー、自動車メーカーから中小企業まで様々です。ビデオリサーチの「ひと研究所」と共同で高齢者の身体状態や関心、消費動向などに関する調査・分析も手掛けています。
藤田 こうしたシニア層に関する知見を生かせば、高齢者を地域に抱える地方自治体と組むこともできますね。
堀内 確かに、行政機関の顧客も多く、例えば、東京都福祉サービス第三者評価の評価者として、介護事業所を評価する仕事もしています。練馬区では、健康医療福祉都市構想委員会に有識者として参加し、シニアの視点から地域包括ケアシステムに対応した街づくりに必要なことを話しています。
藤田 シニア市場の動向分析や介護の現場を評価する仕事をしていると、東京五輪後の「post2020」時代の日本はどう映るのでしょうか。
堀内 今後、さらに日本の人口が減ることは誰もが知っていることですが、一方で人口分布における75歳以上のシニア層の割合が増加していくということも意識しなければいけません。「post2020」時代は、このシニア層の消費動向が日本経済の鍵を握るといっても過言ではないでしょう。ただ、シニア向け商品の開発担当者からは「シニア層には消費意欲が感じられないわけではないが、その消費実態がなかなか見えてこない」との声をよく耳にします。一方、シニアの方にインタビューすると、「私たちの見たい番組がない」「私たちの欲しいモノもない」「事業者はシニアのことが分かっていない」といった声を頻繁に聞きます。こうした状況からみても、日本のシニアマーケットは未成熟だと感じています。
藤田 もっと現役世代が高齢者のことを理解し、シニア層のニーズに合った商品やサービスを提供しながら、シニアの消費意欲を高めていかなければならないのでしょうね。
堀内 そうですね。今後の日本のマーケットを考えると、そういった事業展開は企業が生き残りを図るうえで重要な要素になると思います。
藤田 ただ、なかなか高齢者は手ごわい相手という印象ですね。シニアの消費心理をつかむヒントはあるのでしょうか。
堀内 年間数百人のシニアにインタビューを続けるなかで、必ずと言っていいほど出てくるキーワードは「地域」「つながり」「ボランティア」の3つです。そして「東京五輪・パラリンピックにボランティアとして関わりたい」という声もよく聞きます。