スマートフォン(スマホ)の音声認識機能の実用性が向上。声で指示するだけでウェブや経路を検索できたり、音楽の再生などができるようになった。耳に装着し、マイクでスマホを音声操作できるデバイスも登場。今回はそうした「ヒアラブル」製品の最新モデルを比較した。
現在のヒアラブル機器の象徴ともいえるのが、「AirPods」(アップル)だ。アップルは、16年9月に発売した「iPhone 7」でヘッドホン端子を廃止。同時に発表されたのがブルートゥースで無線接続する“完全ワイヤレス”のステレオイヤホン、AirPodsだった。イヤピースをタップすると、iPhoneのアシスタント機能「Siri」が起動し、音声でさまざまな操作ができる。
16年11月に発売されたソニーモバイルコミュニケーションズ(以下、ソニーモバイル)の「Xperia Ear」もヒアラブル機器。片耳に装着するモノラル音声タイプだが、アップルと同様に本体のボタンを押すとアシスタント機能を使えるようになる。
ヒアラブル機器で重要な要素の一つが音声認識機能。実際に、音声で電話をかけたり、アプリを起動させるといった操作を何度か行ってみたが、より自然な話し言葉を認識できたのはアップルだった。一方のソニーモバイルは、自然な言葉の認識率はあまり高くなく、どちらかというとキーワードで操作する印象。アップルの場合は「田中さんに電話して」で電話発信ができたが、ソニーモバイルでは「電話して」と指示してから「田中さん」といったステップを踏むほうが認識されやすかった。
ただ、ソニーモバイルは、モーションセンサーでユーザーの頭の動きを感知し、うなずくと「はい」、首を横に振ると「いいえ」と認識する機能を搭載。例えばアドレス帳に複数の「田中さん」がある場合でも、アシスタントの質問に首振りで対応するだけで目的の名前にたどり着いて発信できる。アップルではアドレス帳に同じ名前の人が複数登録されている場合、スマホの画面上で名前を選択する必要があった。
ソニーモバイルは、アシスタントの音声も聞き取りやすい。音声にプロの声優を採用していることもあり、メッセージなどの読み上げは非常にスムーズ。一方、アップルのSiriは、男性設定、女性設定とも人工的な印象の声で、ユーザーが意識して聞く必要がある。
ソニーモバイルの武器は「メッセージ自動読み上げ機能」だ。装着時には天気やニュース、着信履歴などをまとめた「スタートアップメッセージ」を自動再生。また、メールやSNSメッセージが着信すると内容を自動で読み上げる。ユーザーの音声操作に応えるだけでなく、さまざまな情報を自動で通知する機能はアップルにはない。
アップルはあくまでも「アシスタント機能が搭載されたステレオイヤホン」。主流のカナル型ではないオープン型だが音質は高く、音楽を十分に楽しめる。Siriを使ってライブラリーやアップルミュージックの曲の検索も可能。移動中などでも音楽を聴くことが多いなら、アップルを選ぶことになる。
音声の聞き取りやすさ、自動読み上げ機能など、アシスタント機能に優れたヒアラブル機器として考えるなら、ソニーモバイルが圧倒的に有利だ。
“気を利かせて先回りしてくれる秘書”といったイメージで、スマホを取り出さなくてもさまざまな情報を得られる。身に付けられるアシスタントデバイスとして買う価値のある一品といえる。
アシスタント機能:最新ニュースなどを自動再生するソニーモバイル
ソニーモバイルは耳に装着すると時刻やニュース、それまでの着信履歴などを知らせるスタートアップメッセージが流れる。また、装着中にメールやSNSメッセージなどが届くと自動で読み上げ。首振り動作によるコントロールも可能だ。アップルは、装着中に電話の着信があると通知するが、メールやメッセージには対応しない。
使い勝手:意外と装着感が高いアップル
アップルは装着時のフィット感が意外に良く、首を振っても簡単には落ちない印象だった。ソニーモバイルはイヤピースなどが複数用意されているため、ユーザーの耳に合わせて細かく調節できる。アップルの場合、本体をタップするだけでSiriが起動。ソニーモバイルは声で操作する前に、小さな物理ボタンを押す必要があった。
結論:最新情報を耳元で自動再生、実用的なアシスタント機能
どちらも音声操作に対応しているが、メールやメッセージの着信時に内容を自動で読み上げるのはソニーモバイルだけ。スマホを見なくても最新情報を得られるのは便利だ。音楽再生がモノラルだったり、音声の認識率に課題はあるが、アシスタントとして十分実用的だ。
(ライター コヤマタカヒロ)
[日経トレンディ2017年2月号の記事を再構成]