私ってネットストーカー? 愛情か怒りか書き出し整理
同じメール3回、3カ月以上交際求める
東京都の会社員の男性(36)は、妻の昔の浮気相手のツイッターアカウントを偶然見つけ、以来、6年間、毎日チェックしている。
「やめたいが、どうしても見てしまう」。最近、相手が妻をツイッターでフォローしたことに気付いた。「何かあったのか」。確かめることもできず、悩んでいる。具体的な嫌がらせに及ぶことはないが、自分のしている行為は、ストーカーなのかもしれない、と罪の意識にさいなまれている。
2000年にできたストーカー規制法は、ネット社会に対応し規制対象を広げている。今年1月3日に施行された改正ストーカー規制法では、フェイスブックやツイッターなどSNSでの中傷、ブログへの書き込みを新たに対象とした。施行後、ツイッターや無料通話アプリ「LINE」を使い嫌がらせをした人の逮捕が相次いでいる。
社会的規範から逸脱した行為でなくても、ついSNSで他人の個人情報を追ってしまう自分に苦しむ人は少なくないようだ。「ストーカーは変質者とのイメージを持たれているが、誰でもなり得る」。ストーカー問題に取り組む一般社団法人「男女問題解決支援センター」(東京)代表理事の福井裕輝医師は言う。
すぐにやりとりできるネット上では、相手をよく知らないうちから感情が先走り、理想化してしまいがち。拒絶されると恨みに転じ、相手の不幸を快楽に感じる。そうなると「恨みの中毒状態に陥る」と福井さんは指摘する。
福井さんは一つの解決方法として、感情の整理のために行動と気持ちを書き出すことを勧める。「死んでしまえ」とメッセージを送ってしまったら、それは怒りなのか、愛情なのか、自分の心情を客観的に見つめる。ストーカーの加害者は感情が整理できない傾向が強いためだ。
自分はネットストーカーになりかけているのか。「来ない返事を3日過ぎても待ち続け、気になって仕方ないかどうかが判断の目安」。こう話すのは、ストーカー問題に取り組むNPO法人「ヒューマニティ」(東京)の小早川明子理事長。メールに限らずSNSのコメントが3日以上ないと、気になって仕方ないという状態なら黄信号だ。
さらに「返事が来ないのに、同じ内容のメッセージを3回送る」「交際を断られても3カ月以上、好意を伝えて求め続ける」のも危険だという。小早川さんは「3日、3回、3カ月」の基準で危険度を見極めることを勧める。
行為をやめるにはどうすればよいか。小早川さんは薬物依存に使われる「条件反射制御法」を勧める。国立病院機構・下総精神医療センター(千葉市)の平井慎二医師が依存症の治療法で提唱したものだ。相手と親しくなりたいという欲求を制御するために、日常でできるのが「キーワード・アクション」だ。
一日のうち、ふと恨みが薄らいだり気持ちが落ち着いたりした時間に「私は今、彼を求めない、大丈夫」といった言葉を、手を胸に当てるなどの身ぶりとともに言う。そして「彼を求めなかった」という事実を反復して言う。この作業を1日に20回、約2週間で200回以上実行する。言葉を「私は彼女のフェイスブックを見ない、大丈夫」などと変えて応用できる。
「いったんストーカー行為を始めると欲求が暴走し、引き返せなくなる」(小早川さん)。理性を失い大きなトラブルになる前に、おかしいと自覚したら早めに自身を制御しよう。
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被害者は危険なら転居も
ネットストーカーからの被害を防ぐためにはどうすればよいか。恋人など関係がある相手なら、メールだけで別れ話を済ませるのではなく、危険でなければ喫茶店など人目のあるところで会う。その上できっぱりと別れの意思を伝える。
それでもネットでつきまとわれる恐れがあれば「どこに行ったか、何をしたかという個人情報は隠す」(福井裕輝医師)。スマートフォンの位置情報はオフにする。いきなりSNSなどへのアクセスを遮断すると、会いにきて危険な目に遭う可能性がある。「本当に危ないと感じたら引っ越した方がいい」と話す。
ヒューマニティの小早川明子理事長によると、従来は元恋人などが対象のケースが多かった。だが近年は「SNSでやりとりしていただけ」といった希薄な関係での嫌がらせも増えているという。「こうした新手のストーカーは今後も増える。社会が規制をかけて見張るしかない」と訴える。
(関優子)
[日本経済新聞夕刊2017年1月30日付]
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