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深夜のいたずらチョコレート工房 バレンタイン大作戦

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

毎週日曜日更新の立川談笑一門による、まくら投げ企画。今回のテーマは『バレンタインデー』ということで、来週担当の師匠まで今回もまくらを届けたい。

先週の笑二の回を読んで驚いた。

僕も笑二と同じく、中学生のとき、同じクラスのすべての男子の机に、差出人の名前が書かれていない手作りチョコを入れようとしたことがあるからだ。

動機も笑二と同じで、これまでバレンタインデーになるとそわそわしながら学校へ行って、ドキドキしながらげた箱を開けたり、机の中を調べたり。休み時間にはわざと廊下のすみに一人たたずんで渡しやすい状況をつくってあげたり、帰りもわざわざ遠回りをしてみたりしたのに、毎年誰からもチョコをもらえなかった。

バレンタインデーとは無縁の思春期を過ごし、すでにひねくれていた僕は、せめてもの復讐(ふくしゅう)としてねつ造したチョコをほかの男子に配ることで、彼らがぬか喜びしている様子を眺めて鬱憤を晴らそうと考えたのだ。

笑二はスーパーマーケットでバレンタイン仕様に包装されたチョコを買ったみたいだけど、僕はさらに手が込んでいて、市販のチョコじゃなくて手作りチョコを作ることにした。その方が本命チョコ感が出て、クラスメートがよりぬか喜びするだろうと思ったから。

バレンタイン前日の部活を仮病で休んで、図書館へ向かった。というのも、男二人兄弟で育った僕はチョコの作り方なんか知らなかったし、母親に教わることもできなかったから、図書館に行ってチョコの作り方を調べようと思ったから。

同級生がいないか確認しながら料理本コーナーへ行き、チョコの作り方が書かれた本を何冊かゲットした。それだけでもドキドキした。

本を読むと、案外簡単に作れることに驚いた。

買ってきたチョコを細かく刻んで、湯せんする。溶けたチョコでイチゴをコーティングして冷やしたらチョコイチゴの出来上がり。

早速スーパーでイチゴと板チョコを買ってきて、母親が仕事から帰ってくるまでに全工程を終わらせようと作業に取りかかった。

チョコを刻むときは均等に刻まないとダメだと気付いた。大きさをそろえて細かく刻まないと湯せんするときに溶け方が均一にならずダマになってしまうからだ。

どうせだったら失敗したチョコじゃなくて成功したチョコを渡した方が、クラスの男どももよりぬか喜びしてくれるだろうと思ったから、ダマになってしまったチョコは後で自分で食べることにして、またスーパーに走って追加の板チョコを買ってきた。

湯せんのコツはお湯の温度であることも、トライアンドエラーを繰り返すうちに気付いた。

最初は沸騰したお湯で湯せんをしたけど、出来上がったものを食べるとチョコの風味が飛んでしまっているような気がした。差し水をして少しずつ温度を下げながら何度か作ってみるとどうやら50℃くらいで湯せんするのが、溶けやすく風味も飛びにくい、一番バランスが良い状態らしい。

試行錯誤をしながら、ついに初めてのチョコイチゴを完成させた。

あとは文房具店に行ってラッピングの紙とかリボンを買ってくるだけだと、急いで表に出たときにふと思った。

「これ、みんなに同じチョコイチゴを配ったらウソのチョコだとバレるんじゃないか?」

すんでのところでこの作戦の急所に気付いた僕は、すぐさま作戦変更することにした。

「クラスの男子14人、みんな別々の種類のチョコを作らなければ……」

さぁ、ここからはとても大変な作業になった。

母親が帰ってきてしまったから、作業は家族が寝静まった夜中にやらなきゃいけないことになった。また、14種類のチョコを手作りすることは思ったよりも大変だったし、誰にどのチョコをあげるのかも苦心した。

野球部の武田には野球ボールに見立てたトリュフを渡すことにした。冷やしたガナッシュを手のひらで団子状にしてココアパウダーでコーティングする定番チョコだ。そこにホワイトチョコで野球ボールの縫い目をあしらうことで、特製チョコが完成した。

ちょっと太っている山田には、ヘルシーなチョコがいいだろうと思って、野菜チップスにチョコをあしらったオリジナルヘルシーチョコを作った。かぼちゃとさつまいもとレンコンを薄くきって、レンジで水気を飛ばす。油で揚げるとカロリーが気になるからレンジで火を通すことにした。その後、湯せんしたチョコで野菜の半分だけコーティングして出来上がり。

帰国子女の宮坂には、ニューヨークチョコカップケーキを作った。マフィン作りも初めてだったから何度も失敗したけど、泡立て器の使い方にも段々慣れてきて、不格好ながらなんとかカップケーキを作ることができた。チョコペンとアラザンで精一杯デコレーションをして、何とかかわいいニューヨークチョコカップケーキができあがった。

こんな風に14人分のチョコを作っていくうちに少しずつ作業効率は上がっていった。

複雑な工程を要するチョコを作りながら、キッチンの片隅では板チョコを湯せんして、同時に2つ、3つのチョコ作りを進めることで、何とか14人分すべてのチョコを作ることができた。

一番大変だったのは、飯塚くんのために作ったエンゼルスチームショコラだ。バスケットボール部の飯塚くんは体育の授業でバスケをやったとき、僕に絶妙なパスをたくさんくれた。そのおかげで得点王に輝くことができて、成績も5だった。また勉強も得意な彼にはテスト前に何回もノートをコピーさせてもらった。そんなこれまでのお礼の気持ちをこめて、一生懸命エンゼルスチームショコラを作った。

まずは板チョコを細かく刻み、バターと一緒にボウルに入れ、55℃のお湯で湯せんする。卵を卵黄と卵白に分けておき、卵白はメレンゲを作るときに泡が立ちやすいように冷蔵庫に入れて冷やしておく。薄力粉とココアパウダーは口当たりをよくするため、合わせてふるっておく。型用に用意したバターを室温に戻してやわらかくし、エンゼル型に薄く塗って強力粉をまぶし、余分な粉を払っておいた。イチゴとラズベリーとブルーベリーを一口大にカットし、オーブンを170℃に熱しておく。これで下ごしらえは終わり、いよいよ本番。

ボウルに卵黄をほぐし、溶かしたチョコレートを加えて泡立て器で混ぜる。さらにふるった粉類を加え、ゴムべらでムラなく混ぜる。別のボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立て、全体が白っぽくなったら、上白糖を2回に分けて加えて、ツノが立つぐらい泡立てメレンゲを作る。最初のボウルにメレンゲを3回に分けて入れ、その都度泡をつぶさないようにゴムべらでさっくりと混ぜ、型に流し入れたらオーブンで50分くらい蒸し焼きにする。焼き上がったら型のまま冷まし、冷めたら皿にひっくり返して取り出しフルーツを飾り、僕の手作りエンゼルスチームショコラは完成した。

さぁ、それら手作りチョコを、あとは朝一番に登校して男どもの机に入れるだけとなったのだけど、そのとき、思いもしなかった感情にさいなまれた。

それは、飯塚くんが好きかもしれないということ。

飯塚くんのことを思いながら手間ひまかけてエンゼルスチームショコラを作るうちに、気付けば僕の中の飯塚くんの存在は大きくなっていた。

そんな飯塚くんへの思いを避けてクラスの男の子みんなにチョコを渡していいものか。それを知った飯塚くんは悲しむのではないか。

あれこれ思い悩むうちに、バレンタインの朝は過ぎていて、気付けば夕焼けがきれいだった。僕は結局、飯塚くんに思いを告げることはできなかった。

その夜、幼なじみの美咲が家までチョコを届けにきてくれた。そして僕には初めての彼女ができた。

(次回、2月5日は立川談笑師匠の予定です)

立川吉笑(たてかわ・きっしょう) 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。

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