勝負をかけるBS民放局 黒字化も将来性に課題
日経BPヒット総合研究所 品田英雄
2017年1月24日午後、横浜みなとみらいホールで、BS民放5局による共同特別番組の記者発表会が開かれた。番組のタイトルは「ハレブタイ!ゆずとハタチでつくる"ありがとうコンサート"」。ゆずの2人が17年に成人式を迎えた若者とともに感謝の気持ちを伝える。
共演するのは桜美林大学ソングリーディング部や早稲田大学のハイソサエティ・オーケストラ、慶応義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラら。ナレーションは20歳になったばかりの女優松井愛莉が務める。ゆずが様々なジャンルのハタチとコラボレーションするのをはじめ、一般から募集した「ゆずにカバーして欲しい曲」も演奏する。放送は17年3月20日(月)17時から3時間、BS民放5局(BS日テレ/BS朝日/BS-TBS/BSジャパン/BSフジ)で同時刻に同じ番組を放送する(4月にリピート放送あり)。
BS民放5局による共同番組は「BSの認知向上」のために毎年作られてきたが、今年の意味合いはこれまでとはかなり異なると関係者は説明する。それは、今までBSから遠かった人たち、特に若い人たちに知ってもらおうという狙いがあるからだ。デビュー20周年を迎えたゆずを起用するとともに、今年20歳を迎える若者に焦点を当てたのもそのためだ。
BS民放局は2000年に開局した後、10年には視聴可能世帯が3000万を超え、世帯数の6割で見ることができるようになった(BS放送局による「BS世帯普及率調査」より)。それとともに売り上げ・利益が伸び、ここ数年は各局とも百数十億円の売り上げ、数十億の営業利益が安定的に出るようになっている。
この理由は(1)テレビショッピングの評価が高く安定した収入を得られるようになった(2)中高年向けの番組が定着し広告主の評価が高まった(3)売り上げと経費のめどがつくようになり編成制作がこなれてきたことによる。韓国ドラマやプロ野球中継が定着し、BS-TBSの「吉田類の酒場放浪記」やBSフジの「LIVEプライムニュース」などの人気番組も生まれた。
その一方、「BSは中高年向け」という印象が広がり、7割を超える世帯で視聴可能であるにもかかわらず存在感が薄れている。見られる環境にあるのに番組として意識されていないともいえる。そこを変えていきたいというのが今年のキャンペーンであり、そこに取り組まないと将来性がないというのが衛星放送関係者の危機感でもある。
BSは15年から機械式の視聴率調査を導入した。その結果、これまで分からなかった視聴の実態も見えてきている。BSの魅力は地上波のように1分1秒を争ってチャンネルを変えさせないという演出ではなく、落ち着いてじっくり見られることにある。長時間番組が好まれる傾向もはっきりした。また、「予想以上にドラマや映画、音楽番組など構成がしっかりできた番組が見られている」こともわかってきた。
同時に検証できるようになったことで新しいタイプの番組へのトライアルも盛んになり、意欲的な番組も増えてきそうだ。
これまでにも、BS日テレの「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR, NO LIFE」(ゲストのクルマ遍歴を振り返りながら人生を振り返る)やBS-TBSの「イクゼ、バンド天国!!」(古坂大魔王が司会する音楽オーディション番組)のようなマニアックな番組。BSジャパンの「田村淳のBUSINESS BASIC」(企業の若きトップと学生を集め経済とビジネスを考える)など、地上波では見られないような番組が少しずつ生まれている。
地上波の経営も順風満帆とはいえない中で、BSにどう取り組むかは放送局によって異なるのが実情。だが、立ち止まることが許されない。今後飛び出してくる番組は各局の本気度を示すバロメーターでもある。
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
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