悲哀の大人ヒーロー『スーパーサラリーマン左江内氏』
原作は藤子・F・不二雄
藤子・F・不二雄が1977年に発表した『中年スーパーマン左江内氏(さえないし)』。地味な中年サラリーマンが強大な力を持つスーパースーツを着て、正義の味方となり、もめ事を解決する藤子・F作品で唯一の<大人ヒーロー物語>だ。原作を読んだ時から「自分だったら土曜の夜にこんなドラマを作りたい」ということで日本テレビの高明希プロデューサーが着手。『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)としてドラマ化された。
「一視聴者として私が親しんだ土曜ドラマは、子どもも大人も一緒に楽しめる作品。この原作をドラマにしたら家族そろって笑えて、さらにためにたまったストレスを発散してくれるのではないかと思いました」
企画が動き出したのは2014年のこと。放送までに約2年要したのは、主演・堤真一、脚本&演出・福田雄一という座組を実現するためだった。「堤さんも福田雄一さんもすぐ話に乗ってくれたものの、2年前の時点で2人のスケジュールが空くのが17年の1月クールでした」
まず堤の主演が決まった。「疲れた中年男性が派手なスーパーマンになる姿は、痛々しくなく、笑えなければダメなんじゃないかと。かつ、スーパーマン姿にリアリティーも必要。堤さんならその両方を成立させられると思いました」
福田の起用は堤からの提案。13年公開の映画『俺はまだ本気出していないだけ』で堤は、マンガ家志望の脱サラダメオヤジを演じ、話題に。その監督が福田で、新境地を開いてくれたことに厚い信頼を寄せていた。高氏も福田が手がけたドラマ『アオイホノオ』(14年)に魅了されていたので、迷わずオファーした。
福田の脚本には藤子・F作品との共通項があると高氏は語る。「原作からは人の愛くるしさが感じられる。福田さんの作品はくだらなさやパロディーに加え、『こいつ、バカだな』と思わせつつ、人を思ういとおしさが満ちている。そこは藤子・F先生と同じ」
本作では、左江内に家事任せ、暴言を吐く<鬼嫁>円子を厚く描く。「福田さんご自身が恐妻家で、奥様との話は驚くばかり。でも、よく聞くと奥様をとても愛していて、奥様も福田さんにかまってほしいのだと思います。それも夫婦のあり方の一つだと。脚本には福田家の"実話"を色濃く反映しているのですが、見終わる頃には深い愛情が感じられるはずです」
円子を演じるのは小泉今日子。「夫に罵詈(ばり)雑言を浴びせながら、愛される人物にしたかった。存在感という意味でも小泉さんしかいないと思いました」
家庭でも会社でも存在感がなく、人助けも面倒と思いながらやる左江内を高氏は「基本はダメなおっちゃん」と言い切る。が、彼の奮闘を通じ視聴者にこんな思いも。「人は少しくらい失敗してもいいし、ダメなところがあっても受け入れてほしいなと。いまの社会って、自分の存在を否定されることが多いけれど、自分自身で否定する必要はない。ダメなところも含め、肯定することにつながる作品を届けられたらと思っています」
(「日経エンタテインメント!」2月号の記事を再構成。敬称略、文・田中あおい)
[日経MJ2017年1月27日付]
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