辞めたくなったら今の職場で「できること」を探そう
こんにちは。社会保険労務士 佐佐木由美子です。女性が退職する主な理由は、出産・育児と言われていますが、そうとは限らない場合があります。
日米の比較で見えてきた、日本人女性の意外な退職理由
「また女性社員が退職してしまった…」
こうしたセリフを、労務管理の現場において、今まで何度となく聞いてきました。女性が退職する理由は様々であり、職場におけるなんらかの問題が起因している場合もあるでしょう。
一般に、女性が仕事を辞める理由として、出産・育児が挙げられます。日本では第一子の出産を機に6割が退職するとも言われています。
しかし、現実には、結婚や出産とは無関係に、会社を辞めている人は大勢います。あなたの周りにも「一身上の理由」で退職する人は、少なからずいるのではないでしょうか。
アメリカのシンクタンクCenter for Talent Innovationが行った調査(「Off-Ramps and On-Ramps Japan」 2011)では、日米女性の離職に関する興味深い結果が示されています。
日米の大卒以上の女性の離職状況(6カ月以上の離職)を比較すると、アメリカが31%であるのに対して、日本は74%と高い数値となりました。意外だったのは、その理由です。
アメリカの女性は、「育児」を理由とするのが74%だったのに対し、日本の女性は「仕事への不満」(63%)、「行き詰まり感」(49%)という理由が多かったのです。つまり、結婚や育児ではなく、仕事へのネガティブ要因や自分自身のキャリアの発展に見通しが持てない、という原因で退職を選択している、ということです。
これまでの調査結果と矛盾する点については、調査対象者が25歳~34歳までの高学歴女性で、既婚者ばかりでなく未婚者も含まれている点が挙げられるでしょう。
入社して仕事も慣れてくる20代後半頃になっても、満足な職務経験が得られず、また職場にロールモデルとなるような人がいなければ「このままでよいのだろうか?」という疑問や不安が生じても、不思議ではありません。
では、疑問や不安が生じたとき、どのように考えていけばいいのでしょうか。
離職における建前と本音
会社には、角が立たないように結婚や出産・育児、介護などを退職理由としつつ、本音ベースでは違うところで職場を去っている女性が少なからずいるという現実を、企業側も考える必要はあるでしょう。
女性管理職の不在やキャリアパスの不透明さ、残業の多い職場でワークライフバランスへの取り組みが未整備などなど、「この会社では長く働けない」と早々に見切りをつけて、職場を去っていく女性たちがいるのは事実です。
会社側の課題は、確かに多いといえます。しかし、すべてを会社のせいにして、自分の居場所探しのために、後先考えずに会社を辞めてしまうような事態は避けたいものです。
自分からできることを考えてみる
自分が理想とする完璧な職場など、なかなかありません。青い鳥を探すのではなく、まずは視点を現実的に「自分ができること」へシフトしてみましょう。
「今の仕事が単調でやりがいがない」「別の仕事もやってみたい」と感じるなら、どうしたら今より職域を広げられるか考えてみます。社内公募制などがあれば、自ら手を挙げることもできるかもしれませんが、そうとばかりは限りません。
たとえば、営業職のAさんは、好成績を上げているために営業部から異動できないのが悩みの種ですが、経営企画の仕事にチャレンジしたいという思いがあります。上司面談の度に希望を伝えてきましたが、なかなかかないません。そこで、人事異動を実現するために、大学院(MBA)で経営について学んでいます。
経理部門で入出金管理などのアシスタントをしているBさんは、数字の面白さに魅せられ、将来は経理のエキスパートになりたいと、簿記1級を目指して勉強しています。合格したら、その結果とともに会社へもっと専門的な仕事を任せてもらえるようアピールしたいと考えています。
会社を辞めなくても、自分のキャリアを方向転換していくことはできるのです。
ロールモデルは社内で見つけなくてもいい
会社が適切なキャリアパスを用意してくれたり、教育研修を自由に受けさせてくれるような環境が整っていたら、申し分ないでしょう。しかし、AさんもBさんも、会社がサポートしてくれるわけではなく、限られた時間もお金もすべて自己投資です。将来のキャリアが「この会社では見えない」と諦めることなく、自らの手で何とか切り開こうとしています。
会社を辞めることは、コンプライアンス上の問題がある場合など状況によっては、一つの有効な解決策である場合もあります。しかし、キャリアへの行き詰まり感の場合、踏みとどまって自分からキャリアや組織を変えていくという選択肢も、考えられるのではないではないでしょうか。
ロールモデルが社内にいない場合は、社外で見つけてもいいのです。本やインタビュー記事を読んで気になった人でも、「こんなふうになれたらいい」と思えたら、未来がイメージできて楽しくなります。積極的に、社外の交流会や、興味あるテーマについて学べる場に出向いてみるのもよいでしょう。
一方、「職場への不満」があるとき、それが働き方や人事制度上の問題などであれば、会社を持続的に発展させるための女性社員チームからの建設的な提案として、上層部へ進言してみることも一つの方法といえるでしょう。これも勇気が要ることですが、会社に見切りをつける前にやってみる価値はあります。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、「働く女性のためのグレース・プロジェクト」でサロン(サロン・ド・グレース)を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2017年1月24日付記事を再構成]
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