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国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は『ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た』。著者の岩永嘉弘氏は、洗濯機「からまん棒」や東京・新宿の駅ビル「新宿 MY CITY(現ルミネエスト新宿)」、東京・渋谷の複合文化施設「Bunkamura」などを手掛けたネーミングの第一人者だ。本書では、ヒットしたネーミングの背景をひもとくとともに、発想法まで解説した実践書になっている。

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岩永嘉弘氏

岩永嘉弘氏

著者の岩永さんは1938年生まれ。61年早稲田大学第一政治経済学部新聞学科卒業後、光文社雑誌編集部、明治製菓宣伝部を経て、コピーライターとして独立します。82年にネーミング・ブランディング会社、ロックスカンパニー(東京・世田谷)を設立。ネーミングに初めて本格的に携わったコピーライターとして知られ、広告のみならずブランディングやコーポレートアイデンティティー(CI)の分野でも活躍。96年の民主党結党時には、ブランディングとキャンペーンを担当しました。

モノが売れない時代に、売る秘訣

「不況で、ネーミングの挑戦が始まった」と著者は指摘します。不況になると、モノが売れなくなります。成熟した資本主義の社会にはモノがあふれていても、消費者の需要を喚起するためには新需要を掘り起こす必要があります。新需要を喚起し続けられないと、企業は続けられないので、さらに新製品開発は白熱していきます。

一方、不況下では商品の広告や宣伝に費用をかけにくくなります。それでも、モノがあふれた市場で消費者に商品を買ってもらうためのPRをしなくてはならない。そこで、ネーミングが活躍します。商品が訴えたいことをネーミング一本に凝縮してしまうのです。

モノを売るために重要なプロセスであるマーケティングは、パッケージづくりに始まります。生まれたての無名無形の製品は、パッケージに包まれることではじめて人に接する姿を与えられることになるからです。著者は、「製品が商品に成長して誕生する瞬間」と指摘します。

そのパッケージをどんな衣装にするか。包んだ中身の特性を表すには、まずは言葉にして確認しなくてはいけません。

その確認作業の核こそが、ネーミングになるのです。

 発売に際して「広告してあげられないから一人でがんばりなさい」と突き放されるモノが出てくるわけです。さあ、どうするか。その商品は自己紹介を一人でしなければならなくなるのです。どこで自己紹介、自己アピールをするか。
 パッケージの上でするしかありません。お店の棚の上でパッケージから大声をあげてアピールする。つまり、パッケージを広告媒体として、そこに思いのすべてを表現しなくてはならない。パッケージの広告化を目指さざるをえないのです。
(「初めにネーミングありき」 30ページ)

商品名は、時代を反映する

こうして、70年ごろからネーミングが企業と消費者とのコミュニケーションの主役に躍り出てきます。その後は時代や背景によって、ネーミングの自立は様々な形で成されていきます。ネーミングはまさに「時代を映す鏡」なのです。

例えば、公園を意味する英語「PARK(パーク)」を冠したネーミング。69年、東京・池袋にイタリア語で公園を意味する「PARCO(パルコ)」と名づけられたファッションビルが開業しました。その後、「パーク」はマンションのネーミングを席巻します。人が集まってほしい、という思いが込められてのことでしょうか。三井不動産の「パークマンション」や三菱地所の「パークハウス」などなど。今も、街を歩くとよく目にします。

 そういえば、その昔、PARKと名付けた施設があったぞ、と思い出した。そちらは、東京銀座のど真ん中。「博品館」のあるオモチャの建物である。「TOY PARK」。最上階の劇場「博品館」を除くすべての階をオモチャで埋め尽くす、当時としては画期的なお店の誕生だった。原宿のキデイランドが「LAND=島、国」とでっかく主張するなら、こちとらはPARKでいこう。「オモチャの公園だい!」というネーミングだった。ファッションの公園「PARCO」が生まれた頃の話です。
(「ネーミングはブランディングだ」 64ページ)

ネーミングはひらめきで生まれるほど楽ではない

こうしたネーミングに対し、「ひらめきで生まれるんですか」「トイレの中で思いつくこともあるんでしょ」と著者は言われることも多いようです。しかし、そんな単純ではありません。そこにはしっかりとしたプロセスが不可欠です。最終章にはネーミングを作成するための手順を紹介しているのですが、大きく分けただけでも商品実態の把握に始まる8つのプロセスがあります。外国語や医学用語を参照したり、言葉の足し算や引き算をしたり。一つのネーミングを考え出すのに、徹底的に連想や調査を繰り返します。

 ネーミングはモノやコトを感動をもって伝え、そのモノやコトを売るための言葉です。そんな劇的な役割を負っているからこそ、作るプロセスが重要なのです。それを抜きにして、いきなりひらめきは生まれません。
 さて。商品(モノやコト)が生まれました。まだ名無しです。じっと観察する。これがネーミング作りの第一歩です。それを前にしてあなたのすべきことは何か。いきなり言葉を探すことではありません。徹底的に分析することです。
(「劇的ネーミングの作り方」 251ページ)

広告は人をモノやコトに導くためにあります。写真やキャッチフレーズやコピーを駆使して人の心をつかみ、その商品を覚えさせ、そのモノやコトのところに連れていくからです。そして、その広告作業の中でもネーミングは水先案内人の役目を果たすのです。

モノがあふれている時代には、商品を差別化させ、手に取ってもらうことが重要になってきます。2016年、いずれもJR新宿駅新南口に誕生した商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」や高速バスターミナル「バスタ新宿」など、最近の事例の分析も含まれ、難しい話は一切抜きの読み物としても楽しめます。広告業界の人だけでなく、商品開発や販売に関わる人にも、ぜひ手元に置いてほしい一冊です。

◆担当編集者から 雨宮百子

 著者の岩永さんには、終始驚かされ続けました。まずは、初めてお会いした時に真っ白なジャケットを着ていて、それが似合っていたこと。白いジャケットを着た人は、矢沢永吉のコンサート会場付近で見て以来です。その後も、打ち合わせでは、「KWSK(詳しく)」「HK(話変わるけど)」など、いわゆる「若者言葉」といわれる言葉が飛び出します。
 最後に、帯の紹介文を糸井重里さんにお願いしにいきました。岩永さんと糸井さんは旧知の仲で、なんと糸井さんよりも先輩。昔話になったとき、岩永さんが78歳とうかがい、ますます驚いてしまいました。
 岩永さんは、まだまだ現役。最近では、皇居のお堀端にある再開発エリア「大手町ホトリア」などのネーミングを手掛けています。今も、業界の最前線を走り続ける著者から、時代を反映する商品名の秘訣を感じ取っていただけるとうれしいです。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た

著者 : 岩永 嘉弘
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 2,484円 (税込み)

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