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「正しい夫選び」が育児と仕事両立のコツ 山崎万里子 ユナイテッドアローズ初の女性執行役員に聞く(後編)

2017/2/17

日経DUAL

 就職、転職、独立、そして、結婚、出産、育児……女性の人生はいくつものライフイベントによって彩られ、同時に多くの迷いも生まれるもの。社会の第一線で活躍する女性から、人生の転機とその決断のポイント、充実したライフ&ワークのために大切にしている価値観をお聞きします。前編の『山崎万里子 28歳のときに自分の強みを真剣に考えた』に続いて、ユナイテッドアローズで女性初の執行役員として活躍する山崎万里子さんにお伺いします。(聞き手は羽生祥子日経DUAL編集長)

(写真:鈴木愛子)

■経営企画部長就任は「めっちゃめちゃ大変だった」

――人を管理するようになったのはおいくつからですか。

 2005年からなので、31歳くらいですね。

――アパレル業界は女性が多いイメージがありますが、管理職の割合となるとまだ少ないそうですね。

 そうですね。他の業界にも言えることかもしれませんが、やはり任せる側の覚悟ももっと必要ですし、女性側も十分にアピールできていないという両面があるのだと思います。

――万里子さんの場合はどうでしたか。

 管理職になりたいというアピールはしませんでしたが、販売促進部の範囲では飽き足らなくなってジョブスイッチしたいと思った時に「もっと会社の経営全体を見通せる仕事がしたいんです。興味あるんです」と“根回し”はしていましたよ。ずっとマーケティングの部署でやっていたので、会社全体をどう運営していくかという経営者を補佐する仕事がしたかったんです。そして言うだけじゃなくて勉強もしていました。ビジネススクールに通っていたんです。

――マネジメントを意識して。

 そうです。働きながら、グロービス・マネジメント・スクールに通っていました。組織改革で社長室付で経営戦略を練る仕事になって、定時で帰れる余裕ができたこともあって。

――そして希望かなって、経営開発本部の経営企画部長に就任されたのが2008年のことですね。大役ですね。

 はい。大役でしたし、大変でした。何が大変って、やったことのない仕事の部長をやるということの過酷さです。めっちゃめちゃ大変です。部員はみな長く仕事をしていて優秀。人間関係も文化もすでに醸成されている中にスッと入っていくわけですから。

 経営戦略を練ったり、会社の中長期計画をつくるための知識はビジネススクールで学んではいましたが、実務経験はゼロでした。周りは黒帯級に実務経験を積んできた部下ばかり(笑)。みな自信もあるし、プライドもある。そんなメンバーを実務未経験でまとめていくことに苦労しましたね。

――ハードですよね。

 しかも、経営企画部長として他の部署も巻き込んでいかないといけないじゃないですか。コーポレート部門の長というのは、長く下積みしてキャリアを築いた方が多いので、ここでも対等に交渉していくのが大変でした。「人事としては」「経理としては」という主張をいかに調整していくかというハードルを乗り越えないといけませんでした。

■男性の管理職の中で自分流の勝ち方が身についた

――どうやって乗り越えていったんですか?

(写真:鈴木愛子)

 一つの救いとして、ビジネススクールでの学びを通じて「相手の仕事を理解できた」というのは大きかったですね。組織管理やファイナンスの概論を学んでいたので、相手にとっての課題や苦労も何となく想像できて共通言語を持てたことは、一緒に議論を進められるベースになったと思います。

 それがなかったら、コミュニケーションはうまくいかなかったでしょうね。経営企画部での積み上げがゼロだったことで、かえってフラットに相手のことを理解する姿勢が持てたのかもしれません。

――部内のコミュニケーションで心がけたことはありますか。

 その道のプロですので、目線を合わせて聞くとか、教えていただく姿勢を心がけました。一方で、他部署の部長は私にも「プロ部長」を求めるからしんどかったですね。作戦としては「戦わない」に徹しました。私はまだプロになりきれていないアマ部長でしたから、同じ土俵で戦ってもどうせ勝ち目はない。主張をぶつけ合うのではなく、それぞれの分野に詳しいプロ部長に教えてもらって、経営企画の仕事に活かしていこうと考えました。

――決して自分の勢力を伸ばしていくことが目的ではなく。たまにいますよね。自分のシマの席数を増やしたいとか、忘年会で呼べる人数を自慢する部長。

 まったく興味ないですね(笑)。組織の勢力抗争とかまったく関心がないです。そういうテンションで来られたとしても、私は戦わないです。広告宣伝部長時代はありましたよ。15年くらい同じ畑でやってきて、社内の誰よりも宣伝を分かっている自負もあり、部のプレゼンスを主張できるだけの経験の素地もあったからです。でも、経営企画部長の立場になった時の私にはそれがなかった。だから、同じ戦い方を選択しなかっただけです。私はいつもそうなんですが、基本的には勝負には絶対に勝ちたいんです。

――絶対に勝負には勝ちたい。

 はい。ただ、勝ち方にはこだわっていないんです。未経験分野で部長職になった時も、私よりも優秀な部下に対してどう向き合うべきかと考えた時の“勝ち方”の戦略が「尊重し、任せる」だったからそうしたんです。不戦勝をねらったんですね(笑)。プロ部長との戦いにおいても、相手の主張に対して言い返すことではない勝ち方があるんじゃないかと考えました。

――具体的にはどういう方法になるんですか。

 例えば、相手の役に立つとか。相手が欲しいものを提供するとか。すると、相手もケンカふっかけてこないでしょ(笑)。でも、そのアプローチの根底には「負けたくない」という気持ちがあるんです。

 今になって思うのは、男性の管理職が多い中で飲みニュケーションや声の大きさでは勝てないと自覚しながら自然と身につけてきた自分流の勝ち方なのかもしれないですね。勝てないコンペには出ない。

――「肉食系隠れ平和主義者」ですね。理知的で建設的なんですけど、出る時には出ますよという。

 そうですね(笑)。普段から積極的に同調するようにしています。あと、私、挨拶が得意なんです。もうほぼ脊髄反射なんですけどね(笑)。人の上に立つときに最低限やっておかなければならないこととして「挨拶はきちんとする」「基本的にはにこやかにする」と意識しているうちに、自然とできるようになったんです。顔は笑っていながら、実はシリアスなこと考えていたりするんですけどね(笑)。

――へぇ~。これは後世に伝えたいテクニックですね。

 防御本能だと思いますけどね。ムダに敵を増やすより、相手に親しみを感じてもらって、できれば面白いと思ってもらって仕事する方が200倍ラクじゃないですか。競争心を持たれるよりもずっと。それに絶対につるまない。決まった相手とだけランチに行くとか飲みに行くとか、固定したネットワークをつくるような活動はしません。

――常に一人。でも、全員と仲がいいということですね。

 そうですね。仕事を遂行するうえで必要だと思って身につけたテクニックだと思います。

――上位者とのコミュニケーションと部下とのコミュニケーションの違いで気をつけていることというのはありますか?

 同僚や部下からは面白い人と思ってもらえればいいかな。上役に対しては、その人が重視しているコミュニケーションスタイルに合わせるようにしています。例えば、正面を向いて礼儀正しい挨拶を求めるとか、自分がいる時にできるだけ席を立ってほしくないとか、形式に強いこだわりがある人っていますよね。私は極力合わせます。で、その人が去った瞬間に崩します(笑)。それもあえて部下の前で崩します。すると笑いが起きて場が緩むということもあるし、何より「上司はそういうふうに扱っていい」と教えているつもりなんです。

 仕事を円滑に回すテクニックとして、難しい相手は転がせと。それを真面目に教えるというより、「山崎さん、愉快だな」と思ってもらいながら伝えられたらいいと思っています。だって、本当に難しい相手が現れた時にずっと合わせていかなきゃいけないのかと思うと、若い人たちも不安になるじゃないですか。うまくやっていけばいいんだよと、手本を見せることも大事かなと。

――余裕とユーモアがないとできないですね。

 そうですね。こちらに余裕がないと部下も相談事ができなくなりますしね。問題が上がってこなくなるほうが怖いので、適度に緩ませます。その代わり、会議はギュウギュウやる。

――万里子流ギュウギュウ会議術も教えてください。

 まず手ぶらは許さない。アジェンダには必ず目を通して、それに対して自分の意見をまとめてから来て!というのが私のルールです。それをやらないで座っているだけの人は次の会議から呼ばないです。

 会議は意思決定の場なので、そこに来るまでに自分の意見をまとめるのは最低限必要な条件ですよね。会議の時間を健全なディスカッションができるテンション高いものにしたいので、緩い会話はそこに要らない。どうでもいい会議が2時間とか大嫌いです。普段の会話は緩くていいんだけど、会議の場は緊張感を持った意思決定の場にする。このメリハリは大事にしていますね。

(写真:鈴木愛子)

■女性の社会進出の“裏テーマ”は男性の家事進出

――常に頭フル回転になりますね。

 とはいっても、子どもが生まれてからは何時までも仕事ができる生活ではなくなりましたね。時間制限を意識した働き方をしてほしいと、社内でも言っています。

――「20代は夢中で仕事していた」という山崎さんは、クリエイティブな仕事と長時間労働の問題をどう思われますか。 

 単に長く働くことに価値があるとはまったく思いません。社会全体の問題として、長時間労働は改善しないといけないと思います。特に子育てが始まってから感じるのは、配偶者が長時間労働だと育児中の女性に大きな負荷がかかりますね。だから、女性だけでなく社会全体としてあらためるべき問題だと思います。

 一方で、個人的な価値観としては、仕事は労働というより趣味のようなものなので、長く働くことにストレスは感じないほうです。むしろ、「きりがいい時までやり切りたい!」という気持ちが強くて、仕事を積み残す方がストレスなんです。だから、ストレス解消法は?と聞かれたら「休みの日にカフェや図書館でじっくり普段できない事業の長期プランやプレゼンの構想を練ることです」って答えます(笑)。

――思わず共感しちゃいます。今はだいたい何時くらいに帰っていらっしゃるんですか。

 どんなに遅くても20時には帰るように意識しています。ついギリギリまで仕事をしてしまうので、帰宅にタクシーを使うことが増えましたね。夫に「もうとっくに会社を出て山手線です」とか嘘ついて(笑)。

――ご主人は同じ業界なんですか。

 いえ、まったく違って外資系企業の財務コントローラーです。長時間労働を是としないヨーロッパ系企業なので19時すぎに帰宅できる日が多いので、私はすごく助かっています。育児は完全に夫婦折半でやっています。私の仕事のこともよく理解してくれているので、時々遅くなっても認めてくれるタイプなのですが、あまりそれに甘えていると毎日遅くまで仕事しちゃうなと。自制する意図もあって、20時帰宅を自分に課しているんです。

――お子さん、可愛い頃ですよね。

 今、1歳3カ月です。溺愛しています!

――ご出産は計画的だったんですか。

 ずっと欲しいと思っていたんですが、主人の転職のタイミングとも調整して、授かったのが41歳の時でした。ちなみに主人は6歳下なんです。

――年下婚、どうですか。

 年下だからというわけではないですが、育児も家事も半々でやることを当たり前だと思っている夫であることが、とてもありがたいですね。女性が育児と仕事を長く続ける上での最重要ポイントは、「正しい夫選び」ですよ。私が子どもを産んでからどう仕事を両立していくかも一緒に考えてくれて、私の両親ともしばらく同居したいという希望も承諾してくれました。

――毎日の保育園のお迎えは?

 おじいちゃんとおばあちゃんです。私たちと夫婦と両親の計4人で分担して子どもを育てています。送りは私と主人が一緒に行きます。

――夫婦二人だけで子育てって大変ですよね。

 無理ですね。自分のキャパシティーの限界を超えると思います。もし両親の助けを借りずに私たち夫婦だけで乳幼児の子育てをしようとしたら、「4時半に起きれば間に合うか?」というレベルになります。できなくはないけれど、果たしてそれが子どもにとっても幸せで、自分たちにとっても持続可能な生活なのか。これからまたやり方は変えるかもしれませんが、今は両親に甘えています。

――「働く」と「育てる」をどう両立させていていくかは、本当に大きな課題ですよね。

 社内外でも女性活躍推進をテーマにした議論の場に参加することが時々ありますが、いろいろと論じている男性には「ここに出ている暇があったら家に早く帰って妻をサポートして」と言いたいです(笑)。

 女性の社会進出の裏テーマは男性の家事進出。男女ともにバリバリ働き、バリバリ家のこともする。これから私たちが目指す働き方はそんな形だと思います。

――結婚や出産はまだ先、という女性たちに向けてメッセージをお願いします。

 結婚すること、出産することは、キャリアを諦めるポイントと考えなくていいと思います。ただし、結婚・出産に伴う家事や育児を一人の女性の中に詰め込むと破たんするので、無理なく続けるポイントはやっぱり「正しい夫選び」!

―― やっぱりそうですね。今日はありがとうございました。

山崎万里子(やまさき・まりこ)
 1973年福岡県生まれ。学習院大学経済学部在学中にアルバイトとしてユナイテッドアローズで働く。卒業後、同社に入社し、販売促進、広告宣伝に携わり、2010年に同社女性初の執行役員に就任。16年10月より執行役員 UNITED ARROWS本部 副本部長 兼 事業戦略部 部長。15年に出産し、育児と会社役員を両立させている。

(ライター 宮本恵理子)

[日経DUAL 2016年12月28日付記事を再構成]

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