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パタハラ問題 男性の育児参加が進み始めた証拠だ

「男性学」田中俊之さんに聞く

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NIKKEI STYLE

日経DUAL

長時間労働が当たり前の日本で働き続けてきたパパ達が、子どもが生まれ、子育てに関わりたいと思ったとき、社会ではどんな困難が待ち受け、それをどう夫婦で乗り越え、家族の絆を築いているのでしょうか。

男性学の第一人者である田中俊之先生(武蔵大学社会学部助教)にお話を伺いました。田中先生も1歳の子どものパパです。日経DUALのアンケートでは「育児参画のために残業を減らした」パパが多いことが分かっています。周囲に気遣いしながら定時に帰り、帰宅後の時間を育児に充てているわけです。田中先生は、自身の体験からも、「真面目に育児に取り組んだら、これまでと同じペースで仕事は続けられない」と言います。そんな田中先生に、両立パパが直面している問題や解決策、また、両立しやすい社会に近づけるために、今、私達ができることを聞きました。

育児に関わるなら、仕事のペースは落としていい

昨年、息子が生まれました。以来、毎日、18時に帰り、お風呂に入れていますが、育児に真面目に取り組もうと思ったら、とてつもなく大変です。子どもができたからといって、個人の能力が急激にアップするわけではありません。初めての子どもならなおさらのこと、経験がないのですから、不安だらけです。ただでさえ仕事でいっぱい、いっぱいのところに育児が加われば、今までと同じペースで仕事を続けるのは無理があります。

私は、これまで夜に行っていた執筆活動は、まったくできなくなりました。夜の3時間、育児にとられている分、3時間分の仕事のアウトプットが減りました。

育児に積極的に関わる男性を「イクメン」と呼ぶようになって久しいですが、育児への関心を集め、「気づきを与えるため」の言葉としては効果的なキーワードでした。

ただ、私が気になるのは、「フルタイムで働き、家事や育児もてきぱきこなす男性」といったイクメン像が独り歩きしている点です。

実際に仕事と育児を両立させている男性の嘆きや葛藤は語られず、「どうやったら仕事と育児を両立できるのか」といった具体的な話もなく、"育児も仕事もてきぱきできる男性"が素晴らしいというイメージが増殖してしまったように思うのです。

人一人の一日当たりのパフォーマンス量はほぼ決まっているわけですから、育児に参画するのなら、その分、仕事を減らさなければなりません。でも、男性には、「俺が働く」的な呪縛があるうえ、優秀なイクメン像に囚われていますから、仕事も家事も育児もどんどん積み上げてしまいます。それができないと、「できるのが普通なのに、自分はできていない」と落ち込み、「それでもやらねば」と、追い込んでしまいます。私はそれを懸念しています。

まずは両立パパの現状を知るべし

社会学では基本的に、現状がどういうものであるかをまず分析し、それに対して、なぜ、そうした現象が起こっているか、要因を考えます。そこで初めて、どういう対策があるかに目を向ける。そうした手順を踏まないと、実行力のある提案ができないからです。ところがイクメンは、手順を踏まずに、一足飛びに対策の話まで行ってしまった。

本来は、どうして男性が育児参加できない状況にあるのか、なぜ、そういう状況が生まれたのか、だったら、その要因をこうやって除去し、男性の家事・育児を促しましょう――という順番で進むべきだと思うのです。

仕事と育児の両立を果たす過程で、実は何に苦しみ、どう対策を練り、乗り越えているかという経験談はとても貴重です。なかには子育てに積極的な男性の育休を妨げる「パタニティーハラスメント」(パタハラ)を経験する人もいます。フルタイムで働く男性の育児参画が、どれだけ困難な状況にあるのか、これを語る人が増えています。これは、イクメン問題を考える上での新たなステージだと思うのです。

先ほども言いましたが、育児は尋常でなく大変です。子育て世代のパパが、真っ向から仕事と、子育て、その両方に取り組もうと思ったら、困難に直面するのは当たり前。仕事でも同じです。真剣に取り組めば取り組むほど問題の複雑性に迫ることになり、いい面も悪い面も出てきます。

もっとも、晩婚化が進んでいますから、結婚が遅い男性なら、パパになった時点で、上位職に就いているケースもあります。それなら自分の権限で仕事を調節し、育児にコミットできるので有利でしょう。今後は、こうしたイクボスが増えることにも期待しています。

夫婦がよく話し合い、子育てビジョンを共有する

仕事と育児の両立を目指す際、短期的に効果が出る対策と、長期的に効果を出していく対策、この2つを同時に考えていく必要があります。

多くののイクメンに共通しているのが、夫婦がよく話し合って、生活スタイルやビジョンを共有し、一つの方向性を決めていることです。これは、短期的な対策として非常に有効です。

先日、私は、妻とこんな取り決めをしました。夫婦どちらかが言葉に出したことは、たとえ「納得がいかないこと」であっても、いきなり否定するのではなく、一度は飲み込もう――。

この取り決めが意味しているのは、例えば私が「子育ては大変だ」と言ったときは、「そうだよね、大変だよね」と相手を受け入れる、ということです。ここで、妻が「私も大変よ」と返せば、険悪なムードになりかねません。

連日、仕事に忙殺されている私は、妻に愚痴をこぼすことがあるのですが、そういうときに、否定されると、行き場がなくなります。外では否定される分、家のなかでは、せめて一度は受け入れてほしい。育休中で、一日乳児と向き合っている妻にも同じような思いがあるにちがいありません。そんなささいな願いを妻と共有したわけです。

近所にパパ友を作る、信頼できる専門家を探す

私が子育て世代のパパに積極的におすすめしているのが、パパ友を持つこと。これも即効性があります。

子育ての悩みは、経験者であるパパ友に相談すると、有益なアドバイスがもらえます。

深夜に一人で、パソコンを前に「夜泣き、赤ちゃん、とめる方法」などと検索している人もいると思いますが、パパ友からの「何をやっても泣きやまないんだよね」というリアルな共感の声を聞いたほうがよほど安心できます。解決策を教えてくれるのも助かりますが、新米パパには不安も大きいので、同じ境遇の仲間に聞いてもらえただけで心強い。

会社の同僚よりも近所のパパのほうが、すぐに相談できていいでしょう。保育園の送り迎えをすると、知り合うチャンスも生まれます。

私の調査では、近所のパパ達がライングループを作り、飲み会などで愚痴ったり、情報交換したりしていました。忙しいパパ達ですから、集まるときは「来られる人がいたら来て」くらいのゆるさがあったほうがいいと思います。

私にもパパ友がいます。幸いなことに仕事柄、周囲に高い専門性と豊富な経験を持つ先輩方がいるので、パパ友になってもらい、子育てや夫婦関係について相談しています。

先日も、すごく助かるアドバイスをもらいました。

最近、子どもの将来について考えることも多いのですが、パパ友には、妻とは教育方針についてずれが生じそうなことを相談したのです。「僕は最低限のことをやればいいと思っているのだけど……」と伝えたら、こう言われました。

「その"最低限"が何かを、夫婦で話しておかないと、あとでいざこざが起きるよ」

その通りです。確かに、私は「最低限、人に迷惑をかけない子どもに育てられたら」と思っていても、妻は「最低限、中学からは私立に入れたい」と思っているかもしれない。経験者の声に耳を傾けることで、自分の知らないことがたくさんあることに気付きます。

パパ友のほかに、信頼できる専門家を相談相手として見つけておくと心強いでしょう。保育園や幼稚園の先生でもいいですが、雑誌やWEBサイトに登場する専門家でもよいのです。直接、相談できなくても、その人の書いた書籍やインタビュー記事を読むことで、気づきはたくさんあるはずです。

男女賃金格差が両立を阻んでいる

次に長期的な対策について説明します。ひとつには、男女の賃金格差をなくすことだと思っています。

社会学の研究成果でも明らかなのですが、夫婦のどちらかが仕事をセーブするか、退職するかを迫られたとき、給料の低いほうが、その選択をするというデータがあります。

それはそうですよね、経済的なことを考えたら、大抵の夫婦が、給料の高いほうが仕事を続け、低いほうが仕事をセーブするはずです。

2005年から2009年のデータを見ると、第1子を出産する前では25%の人が専業主婦で、出産後に43%の人が退職しています。つまり子どもを持つ夫婦の7割が、妻は専業主婦。2000年から2015年のデータでもさほど違いはありません。このデータの背景にも、男女賃金格差はあると思います。

では、男女の賃金格差がなくなると、どう変わるでしょうか。「僕のほうが育児は得意だから、仕事を減らそうか」という両立パパが出てくるかもしれません。夫婦が2人でじっくり話し合い、どちらが仕事をセーブすべきか、といった議論もできるのです。

そういう社会を作るには長期的な目が必要なわけですが、どうしても人は、喉元を過ぎると関心が薄くなります。待機児童の問題も、自分の子どもが認可保育園に入るまでは問題視するけれど、入れたらホッとして、忘れてしまってはいませんか?

現在の子育て世代、つまり当事者も、子どもが大きくなると、自分達が問題だと思っていたことにコミットしなくなる。それでは、いつまでもイクメンが抱える問題は変わりません。

自分とは異なる境遇の人にも関心を寄せる

社会を変えるために必要なことは、自分達が直面した問題を、当事者ではなくなったときにも関心を持ち続けること。もっと言えば、自分達が直面したことのない問題にも関心を持つことです。

共稼ぎ夫婦のママ・パパが、専業主婦の抱える問題に無関心では、共稼ぎ夫婦が抱える両立問題に関心を持ってもらえるはずがありません。今の日本には、先ほども言ったように、共稼ぎ家庭より、専業主婦家庭が多いのです。もちろん、DINKS世帯も、独身世帯も少なくありません。昨年は50代男性の生涯未婚率が2割に達しました。それが今の日本なのです。

昨今、"多様性"という言葉にも注目が集まっていますが、"多様性を認める"とは、自分とは境遇が異なる人にも思いを馳せることです。

しかし実際には、逆の現象が起きている。例えば、多くの外国人が日本に移住して働いていますが、ふだんは気にしないのに、自分のマンションの隣に外国人のコミュニティーができたら、嫌がる人は多いでしょう? 保育園が足りないから作るべきだと多くの人が言っていますが、いざ、作るとなると反対運動が起きています。

今、日本で起きている"多様性を認める行動"とは、受け入れる"寛容さ"ではなく、当事者ではないからどうでもいい"無関心"を意味しているような気がしてなりません。

男性も育児に積極的に関われるような社会にするためには、本当の意味で多様性を認められる社会になり、あらゆる社会問題に関心を持つことが大切なのではないでしょうか。

まずは自分が、当事者意識を持つこと。立場が違う人に対しても、境遇が異なる人に対しても、想像を膨らますことが、解決への道だと思います。

子育て中の読者も、今後子どもの手が離れたとしても、ずっと関心を持ち続けてほしいですね。

田中俊之
 1975年、東京都生まれ。武蔵大学社会学部助教。博士(社会学)。専門領域は男性学、キャリア教育論。男性学の第一人者として、新聞、ラジオ、ネットメディアなどで活躍。著書は『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA中経出版)、『<40>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)など多数。

(ライター 辻啓子)

[日経DUAL 2017年1月5日付記事を再構成]

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